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食料廃棄を削減し、温暖化の進行を逆転させるには

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JOHN HANSELMAN

米国の廃棄物のうち30―40%は有機性廃棄物だ。そのまま埋め立てられていることが多いが、実はリサイクルできる。米国環境保護庁(US EPA)の2014年の研究で、米国は毎年3800万トン以上の食品を廃棄していることがわかった。これはエンパイアステートビルが100棟あってもまだ足りないほどの量だ。米国農務省(USDA)の推定では、食品ロスにかかる支出はおよそ1610億米ドルに上り、食品安全保障、廃棄コスト、資源の保護や気候変動など多岐にわたって影響を及ぼしているという。(翻訳=梅原洋陽)

あまり知られていないかもしれないが、進行する地球温暖化を逆転させる方法を探るNPOが発行する「プロジェクト・ドローダウン(Project Drawdown)」2020年版では、気候変動に対する80以上の解決策(電気自動車、植物性食品を中心とした食事、歩きやすい街づくりなどが含まれる)の中で「食料廃棄物の削減」を第一に挙げている。食料廃棄物を減らすことで、87ギガトンものCO2を大気中から減らすことができるかもしれないのだ。というのも、世界の食品のうち3分の1は食べられないまま廃棄されるため、その分の土地や資源、生産する際に発生する温室効果ガスは不必要だ。ゆえに、食品が農場から消費者に届くまでの間に介入することで廃棄を減らすことができ、それによって全体の需要も減らすことにつながる。

日本でも今月、『DRAWDOWN ドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』(山と溪谷社)が発売された

食料廃棄物の理想的な解決策とは

EPAのフード・リカバリー・ヒエラルキー(Food Recovery Hierarchy)は、食料廃棄物問題に対する完璧な答えだ。

優先順位の上位から紹介すると、食料廃棄物を

1. 発生源から削減する。賞味期限と消費期限の違いをわかりやすくしたり、スーパーマーケットに形が悪いというだけで商品を捨てないように奨励、残った物を食べ、少ない量で買うことを心がけたりすることなどが方法として挙げられる。
2.
フードバンクや無料食堂、シェルターを利用する人々の空腹を満たすために用いる。
3.
ペットや家畜のエサにする。
4.
嫌気性消化槽やその他工業用に使う。
5.
堆肥にする。
6.
埋め立て、または焼却する。

米国では、5000万トンもの廃棄物がいまだにもっとも優先順位の低い、6つ目の段階で処理されている。埋立地は湿っており、さらに酸素も少ない環境だ。ゆえに、埋め立てられた食料廃棄物もその度合いによって多くのメタンガスを発生させるのだ。こうした廃棄物への最適な対処法は、量を減らすか、食料が必要な人々のために活用するかである。腐った食品やグリストラップ、産業副産物といった食べられない廃棄物の行方として最適なのは、メタンガスを回収し、再生可能エネルギーに転換する嫌気性消化槽だ。もちろんすべての人が嫌気性消化槽を使えるわけではないが、堆肥化は埋め立て地や廃棄物発電プラントにまわすよりも優先的で、簡単に取り組める解決策だ。

公共政策

変化を促進するために、多くの州や都市では、住民や企業が有機物を埋め立てることを禁止する法令を制定している。そうした地域では、取り組みによって変化が促される。しかし、これらが世界規模の現象になるにはまだ程遠い。

食料廃棄物にどんな可能性があるか。その一例として、かつては他のすべてのゴミと一緒に捨てられていた段ボールの分別とリサイクルについて考えてみよう。今日、段ボールは他のどの梱包素材よりもリサイクルされており、多くの人や企業はリサイクルせずにゴミ箱に捨てようなどとは考えてもいないだろう。特にコロナ禍においては、通信販売の段ボールの増加や、それに関連する段ボールの需要増加に伴い、地方自治体にとっては純収益にさえなっている。

食品メーカーや小売業者にとって有益な策とは

負債と捉えられているものを、ブランドやビジネスの機会創出に変換することができる。食料廃棄物の問題や、それによる食品へのアクセスへの影響、気候変動といったものに対する消費者の関心は高まっている。食料廃棄物のリサイクルに責任を持って取り組む企業は、問題を企業としての誇りやコスト削減の機会へと転換することができる。食料廃棄物をリサイクルする企業は、ビジネスを生みだす強固な持続可能性とブランド・プラットフォームを示すことが可能だ。

まずは、EPAのピラミッドを指針として活用してみてほしい。食料廃棄物を埋立地に送る前に、量を減らしたり、寄付したり、リサイクルすることが必要だ。

オプション1:食品の回収と救出

まだ食べることができる、手のつけられていない食品を、購入できない人々に届ける組織が増えている。“Spoiler Alert”アプリは、余った食品を抱える組織と、必要としている人に食品を提供する組織を繋つなぐ仕組みだ。また世界中のシェフたちは、“ノーズ トゥ テール(nose-to-tail)”運動(鼻から尻尾まで食べる)のように、かつては捨てられていたものを新たな食材にすることで、持続可能な収穫と食材の活用に取り組んでいる。

オプション2:人や動物が消費しきれない食料廃棄物や、製造・あるいはサプライチェーンでの廃棄物削減戦略で取り除けなかったものをリサイクルする。

有機物のリサイクルは、埋め立てや焼却処分よりもコストがかからない。なぜなら、リサイクルしたことで得られる生産物のための二次市場や、利益を生み出す用途があるからである。有機物のリサイクルにかかる支出は、製品やリサイクル施設への輸送前の梱包除去の必要性、運搬距離、リサイクルの結果得られる生産物の価値などによって異なってくる。

食品加工業者や小売業者にとって、食料廃棄物や加工排水は、経済的に大きな影響を及ぼす、重要な日常業務であり管理上の課題だ。また、これはフードサービスを備える大企業や、教育機関、病院でも同様のことが言える。

食料廃棄物は、肉を処理する時にでる切れ端のように分かりやすく生じるものもあれば、流通倉庫に返却された期限切れの商品のように、いつの間にか生じるものもある。さらに、飲料や乳製品を製造する過程で生じた、洗浄用の水やグリストラップの沈殿物のように、固形のものもあれば、液体のものもある。これらすべてがリサイクルでき、長期的な財政面の節約につながる持続可能な取り組みだ。

食料廃棄物をリサイクルする方法

嫌気性消化

嫌気性消化によって、農場・食料廃棄物にふくまれる潜在的エネルギーを、再生可能な電気や天然ガス(RNG)に変えることができる。食料廃棄物を生み出す側にとっては、埋め立てを行うのに比べて85%以上も温室効果ガスの排出量を減らし、安全で、クリーンで、確実なリサイクル解決策を得られる。農場での嫌気性消化は、農場主に経済、エネルギー節約の両面で利益をもたらす。バイオガスは再生可能エネルギーやカーボンネガティブな再生可能ガスを生み出し、そして土壌の健全性を守り、作物の収穫量を増加させる低炭素肥料を生成する。

堆肥化

堆肥化は、食料廃棄物をリサイクルするもう一つの方法だ。しかし、埋め立てのように、メタンの排出や、大気質の問題を解決するものではない。堆肥化する過程の大部分では、まだこうした排出物が残っている。この過程では、制御された条件と微生物を用いると、有機物を好気的に分解して土のような物質ができる。そして、二酸化炭素、水、ミネラル、安定化した有機物(堆肥)、熱が発生する。堆肥化を行う施設には、通気性があるもの、ないもの、または覆われているもの、覆われていないものがあり、堆肥化の方法としてはパッシブパイル、ウィンドロー、スタティックパイル、容器内堆肥化などがある。堆肥化は、葉っぱや草、おがくずや紙製品といった乾燥しているものに最適な方法だ。

リサイクルの取り組みを顧客のロイヤルティ、売上高の向上につなげる

持続可能性に配慮して購入を決める消費者がますます増えている。実際、リサイクリング・パートナーシップ(The Recycling Partnership)の調査で、米国の消費者の74%が「グリーン・ビジネス」、リサイクルを行うビジネスにお金をより費やしたいと答えていることがわかっている。もし自社がまだ先行して取り組んでいないのであれば、最初の一社となって、気候変動対策に真の貢献をしよう。

現在、ユニリーバやペプシコ、ハインツ、ストーニーフィールドといった北米30社の食品・飲料企業が、温室効果ガス(GHG)排出削減のために、科学に基づいた目標を設定し、取り組みを行っている。スターバックス、マコーミック・スパイス、モンデリーズ、マッケインフーズ、JMスマッカー、キャンベルといった企業も2020年に参加した。さらに、ゼネラル・ミルズ、ケロッグ、ネスレ、セインズベリー、テスコ、ウォルマートを含む14社が、食料廃棄物をなくす連合(Coalition to End Food Waste)を設立した。同連合は、サプライヤーや他のステークホルダーも食料廃棄物削減運動に参加させるよう取り組む、Champions 12.3の「10×20×30食料廃棄物削減イニシアティブ」の拡大にも貢献している。

こうした取り組みのすべてにおいて、従業員への教育が食料廃棄物リサイクルを実行するための流れを変えるカギとなる。重要な課題は、食料廃棄物が生みだされる地域を識別する業務プロセスを特定し、食料廃棄物をリサイクルするための分別システムを開発することである。これによって得られるメリットは、大部分の市場において廃棄物処分費が減額すること、全体的な廃棄物の減少、持続可能性の向上、積極的なブランディングの機会の獲得などだ。堆肥化や嫌気性消化を通じたリサイクルであっても、廃棄物の分別に関する従業員の研修は、運搬業者やリサイクル施設に確実に廃棄物を受け入れてもらうためにも重要である。

持続可能なビジネスの実践を最優先し、環境のために正しいことを行い、有機物の廃棄コストを減らし、再生可能エネルギーを生産することは、企業のサステナビリティ投資指標や企業イメージを高めるだけではない。さらなる環境悪化から地球を守る重要な影響力をもたらすものだ。