「ものづくり」で社会課題解決に挑む 世界のソーシャルイノベーターが集結する「グローバル・メーカー・チャレンジ」
IMAGE: AIYIN
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ものづくりを通して、喫緊の社会的課題の解決を目指すオープンイノベーション「第2回グローバル・メーカー・チャレンジ」のファイナリスト20社が発表された。今年、テーマに選ばれたのは「持続可能で健康的な食料供給」「気候変動/循環型経済」「包括的な貿易のためのイノベーション」「平和と公正のためのイノベーション」。約150カ国から3400件以上の応募があった。ファイナリストは8月31日からオンライン上で行われるピッチでそれぞれの解決策を発表する。9月6日のバーチャル授賞式に向けて、最高100万米ドル(約1億500万円)相当の賞金と支援をかけて競う。(翻訳=梅原洋陽)
主催するのは、UAE(アラブ首長国連邦)の副大統領兼首相であり、ドバイ首長国の統治者でもあるムハンマド・ビン・ラーシド氏が創設した団体「Mohammed bin Rashid Initiative for Global Prosperity」。世界をリードする製造業やスタートアップ、起業家、政府、国連機関、慈善家、学術機関、研究者をつなぎ、「ものづくり」を通じて、世界の繁栄を実現するためのコミュニティづくりを目指している。レジリエンスやコミュニティ、調和、尊厳を育み、世界の幸福に積極的に貢献するイノベーションを追求するプラットフォームと言える。
「グローバル・メーカー・チャレンジ」のファイナリスト20社は、MIT SOLVEや国連機関、国際機関、NGO、学界といった専門家47人による審査を経て選ばれた。テーマごとに5社ずつ選ばれたイノベーターを紹介する。
すべての人に持続可能で健康的な食料を供給する
Image credit: Xilinat
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世界の食料システムは、2050年までにおよそ100億人に持続的かつ栄養価の高い食料を供給する必要がある。さらにその8割が都市部で消費されると予測されており、それに対応しなければならない。
世界中の誰もが食料を確保できるようにするという課題は、われわれがどんな食品を消費し、どこで食べ、どう生産・流通させるかといった懸念と複雑に絡み合っている。さらに、新型コロナウイルス危機によって明らかになった食品流通システムの多くの欠陥もこれに加えてのしかかっている。
急速な人口の変化に伴い食料システムが進化する中、人口集中が予想される都市部は人々が食べるものや食べる方法に大きな影響を与える。同イニシアティブは、都市で暮らす人たちが健康で持続可能な食料を手に入れられる、革新的な解決策を探している。
ColdHubs
:発展途上国の農村部に暮らす農家向けに、生鮮食品用のソーラー発電ウォークイン冷蔵庫を供給。
IXON
:常温で食品を殺菌できる、先進的な真空無菌包装技術(ASAP)を提供。
Xilinat
:農業廃棄物を低カロリーの砂糖と同じ見た目と味の代替品へと変える持続可能なバイオテクノロジーを考案。
Nilus
:低所得者層向けに手頃な価格で健康的な食品を提供する社会的企業、デジタルマーケットプレイス。
Stixfresh
:生鮮食品の腐敗を遅らせる保護層をつくることができるステッカー(シール)を開発。気候に合わせた温度管理のできる貯蔵庫を持たない小規模農家にも経済的利益をもたらすことができる。
気候変動/循環型経済
Image credit: Biocellection
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直線型経済から循環型経済への移行は、力強く成長するための新たなモデルとして、企業や政策立案者に広く受け入れられている。しかし、今や発展途上国、新興市場が生産の中心地であり、消費の中心地にもなりつつある。それにも関わらず、世界規模での循環型経済への移行の過程で、発展途上国や新興市場が果たすべき役割についてはこれまでほとんど注目されてこなかった。新興市場で循環型経済モデルを成功させなければ、世界の消費と生産の様式に必要な変化は見られないだろう。
イノベーションは、包括的な循環型経済への移行を推し進める上で強い力となる。「グローバル・メーカー・チャレンジ」では、低炭素で循環型のアプローチによって廃棄物の削減や既存の資源を活用しながら、途上国のコミュニティを支援するスタートアップや起業家を見つけ、サポートすることを目指している。
●AlgiKnit:ファッション業界向けに、生分解性で快適かつ低コストな持続可能な繊維を開発。
●Aquacycl:排水から発電できる初めての商業的利用が可能な微生物燃料電池を開発。
●Queen of Raw:埋立地を減らすことを目的に、未使用の繊維製品を取引するオンラインマーケットプレイスを設立。
●Plastics for Change:持続可能な生活を提供し、循環型経済への移行を促進する、エシカルな調達プラットフォーム。
●Biocellection:リサイクルできないプラスチック廃棄物を、ファッションや3Dプリントのための性能材料にアップサイクルできる技術イノベーションを開発。
包括的な貿易を実現するイノベーション
Image credit: POKET
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開かれた貿易「オープン・トレード」や市場参入は、経済成長と貧困削減のカギであるということは、あらゆる水準の国で証明されている。貿易のグローバル化によって、開放性、安定性、透明性が向上した結果、世界的に前例のない経済成長が可能となり、数億人が極度の貧困から抜け出すこともできるようになった。
しかし、極度の貧困と食料不足が集中する農村部に住む数百万人もの人々は、インフラや公共サービスへの貧弱なアクセス、商品やサービス、輸送にかかる高いコスト、低い人口密度、接続の悪い通信環境などといった、オープン・トレードの恩恵を十分に享受できない大きな障壁を抱えている。こうした問題は、暴力や紛争の影響を受けている国で特に顕著だ。貿易を直接的に阻害し、基本的な財やサービスの価格を引き上げている可能性がある。「グローバル・メーカー・チャレンジ」は、農村コミュニティにおける包括的な貿易を実現するための解決策を模索している。
●Agricycle Global:農村部の農家と世界市場をつなぐ、電力を使わず、収穫後の食品を乾燥させる技術を開発。
●Fantine:コーヒー農家がロースターやバイヤーと直接取引できる、ブロックチェーン対応のマーケットを開設。
●POKET:農村部のサプライチェーンのラストマイルを追跡できる、オフライン業者向けのクラウドソーシング登録システムを開発。
●Takachar:零細農家が作物残渣をバイオマスに変換し、世界市場に参加できるようにするポータブル技術を開発。
●ChapChap:小規模企業が取引を追跡し、基本的な会計処理の支援を行うデジタルプラットフォームを開発。
平和と公正のためのイノベーション
Image credit: Simbi Foundation
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世界では、過去に類を見ないほどの数の強制移住が発生している。迫害、紛争、暴力、人権侵害のために家を追われている人はおよそ7100万人にのぼる。その中には2600万人近い難民が含まれるが、うち半数は18歳未満だ。世界全体で見ると、2秒に1人が強制的に家を追われている計算になる。急増するこうした人々が健康で生産的な生活を送れるようにするためには、法的保護プログラム、医療、教育といったサービスへの公平なアクセスを保つことが鍵となる。
相互のつながりが深まっている現在の世界において、強制移住を短期的な人道的問題として見なすことはできないし、1つの国やセクターのみで対処することもできない。「グローバル・メーカー・チャレンジ」は、難民や強制移住させられた人々が永続的かつ効果的に法律・医療・教育サービスを活用できる革新的な解決策を追究する。
●Peripheral Vision International:難民の人々が容易に学べるように、ゲーム的要素と音声応答システム(IVR)を兼ね備えたアプリケーションを開発。
●ID2020:
難民が自身の医療記録、学習到達情報、職業の資格情報などを管理できるユーザー管理型のデジタルIDプラットフォームを開発。
●PeaceTechLab:
難民キャンプで暮らす人々に向け、世界水準の法律サービスと技術スキルトレーニングをオンラインで提供。
●Simbi Foundation:デジタル教育へのアクセスを提供する、太陽光発電の集中学習ハブを開発。
●Aiyin:本物の学習スペースを設営するための物理的・金銭的な余裕がない施設を対象に、バーチャル・リアリティ学習スペースを提供。
今年は集まった3400以上の解決策の中から、ファイナリストが選出された。この数字は昨年の創設時から200%増加している。148カ国以上から解決策が寄せられ、そのうち18%は後発開発途上国からのものだった。