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米アイダホ:クラフトビールで地域再生 コロナ禍で新たなビールブランド誕生

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RUSS STODDARD
Image:WPA

米アイダホ州ボイシでこのほど、新型コロナウイルス感染症の拡大によって仕事を失った人や貧困家庭の子ども、アーティストなど困窮者の支援を目的にしたクラフトビールブランド「WPA」が設立された。WPAは、1930年代の世界恐慌の際に公共事業を通して雇用の創出を行った公共機関の名称からとったもので、その復興精神に由来して名付けられた。民間の力で地域再生を目指す、地域支援型「コミュニティ・ベネフィット・ビール」について、WPAの共同創設者であり、アイダホ州でソーシャル・インパクトを生み出すブランドコンサル事業を行うラス・ストッダード氏が紹介する。(翻訳=梅原洋陽)

「混乱の中にも、チャンスはある」――孫子『兵法』

世界は新型コロナウイルスと対峙し、経済や文化、人々の生活は破壊されているような状況だ。ビジネスを始めるのに、今は最適な時期ではないだろう。しかし、ここアイダホ州ボイシのビールブランド「Works Progress Administration(WPA)」は、このタイミングを新規事業を始めるのに適しているというだけでなく、事業を始めるのにまたとない時だと考えている。

私は、志のある経営者たちと一緒にWPAを共同設立した。「公共事業促進局/雇用促進局」と呼ばれるWPAは、米国の大恐慌時代、公共事業を通して失業者らに仕事を生み出した機関の名称で、われわれもその精神に則ってWPAを設立した。

チームには、Bittercreek Alehouseなどのレストランの共同オーナー、デイブ・クリック氏とジェイミー・アダムス氏、ビール醸造場Lost Grove Brewingのオーナーのジェイク・ブラック氏、そしてBittercreekに長年勤め、地元のミュージック・フェスティバルでクラフトビールや地元の食を提供する「Alefort」の主催者を務めるデイビット・ロバーツ氏が入っている。メンバー全員が、ビール業界に長く関わっており、地域社会と深い関係を築いてきた。私たちは、共同で新たな醸造所を作る構想を長らく温めてきていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大が始動のきっかけとなった。この地域がまさに今、助けを必要としていると感じたからだ。

WPAの精神を理解する上で重要になる基本理念について説明しよう。

WPAはフランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策の一つだ。橋やダム、都心のマーケットと農地を繋ぐ道路の建設など公共インフラの整備を通して、多くの仕事を生み出した。最大の事業は、フーバーダムとテネシー川流域開発公社の電化プロジェクトだ。歴史的な建造物の中では、オレゴン州マウント・フッドにあるティンバーライン・ロッジや、テキサス州サンアントニオのリバーウォーク、サウスカロライナ州チャールストンのドック・ストリート・シアターなどは今なお有名だろう。

WPAのフェデラル・ワン(芸術家支援計画)は作家や音楽家、アーティストにも仕事を与えた。当時、製造業に従事している人たちは週17ドル、医者は週65ドル稼いでいた。同計画では、芸術家たちに毎週23.5ドルの基本給を支払った。多くの困窮する芸術家を助け、その中には画家のマーク・ロスコ氏、ウィレム・デ・クーニング氏、ジャクソン・ポロック氏、劇作家のハリー・フラナガン氏、映画監督オーソン・ウェルズ氏、カール・ライナー氏、歌手のウッディ・ガスリー氏などもいた。

WPAはアフリカ系アメリカ人の芸術家への支援も重点的に行った。例えば、画家のチャールズ・アルストン氏、アーラン・クライト氏、ジェイコブ・ローレンス氏、チャールズ・ホワイト氏、そしてヘイル・ウッドラフ氏なども含まれている。こうしたアーティストのほとんどは今もなお米議会図書館のアフリカ系アメリカ人コーナーで作品が展示されている。

この歴史的に素晴らしい取り組みが、私たちが醸造所を運営する上での枠組みとなっている。私たちは法律的にも公益法人となり、モットーである「ビールを通して、前進していく」を体現しながら、さまざまな価値や利益を生み出していく。

ペールエール「City of Good」

プロジェクトに着手したばかりで、醸造施設はまだ整っていない。そのため、まずは地域の醸造所と連携して、コミュニティに必要な支援を行うための資金集めを行っている。最初のコラボレーション商品は、Lost Grove とPayette BrewingとのIPAだ。売り上げを通して、レストランのシェフや飲食店従事者に仕事を生み出し、貧困層の子どもたちのために食事を提供し、地元の農場を支援することでレジリエントな地域経済を構築することを目指すNPO「City of Good」を支援する。次は、醸造場Woodland Empireとのコラボレーション商品「Blackberry-Beet Lager(ブラックベリー・ビード・ラガー)」。B Corp認証をとっているミュージック・フェスティバル「Treefort Music Festival」がコロナ危機の最中に設立した、地元のアーティストや音楽業界に従事するプロフェッショナルを経済的に支援する基金「Live Music Relief Fund」を支援するものだ。

われわれの目標は、年末までにWPAブランドの初のラガービールを作ることだ。目指すのは、何世紀、何世代にもわたって醸造場で継承されてきた古くからの知識を尊重しながら、地元の材料を使用した伝統的スタイルを現代風にアレンジしたものをつくることだ。

私たちの目標は、歴史的な戦略を用いて、かつてのWPAに存在した「市民保全部隊(CCC)」にちなみ、醸造所のボランティア部門「Civvies(シヴィーズ)」を開設した。このメンバーで、Boise Foothillsのトレイルを再建したり、NPOの活動を支援し、コミュニティのあらゆるプロジェクトを支援していく。

「タイミングがすべて」だ。新たな事業を始めることは難しいことだが、良いビジネスを行うチャンスや場所がマーケットにはあると考えている。このような危機的状況でこそ、いやむしろこのような事態だからこそかもしれない。ソーシャル・インパクトをもたらすことで、人々を支援し、地域社会を活性化し、良いことを醸成するというのは、いつのタイミングであってもベストタイミングと言えるのかもしれない。そして、今まさにそういう取り組みが必要とされている。