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企業はどう世界の紛争を解決し、平和を構築できるかーー求められるSDGs目標16への取り組み

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リチャード・ハウイット IIRC(国際統合報告評議会)前CEO
IMAGE: United Nations

多くの国において、政治家や外交官が解決できなかった紛争により生まれた分断を、勇敢なビジネスリーターが解決してきた歴史がある。SDGs17目標の中でも、企業の取り組みが遅れている目標16「平和と公正をすべての人に」。国連グロ―バルコンパクトは目標16の理解や取り組みを促進するためにアクションプラットフォームを設置し、2020年から本格的に始動する。(翻訳=小松遥香)

現代では、電気暖房器具メーカー大手グレン・ディンプレックス(アイルランド)の創業者マーティン・ノクトン氏が北アイルランド紛争の最悪の時期に、対立する両者を結ぶ越境貿易を行い、両者のビジネスの促進と支援を行うことで平和構築に貢献した。食品大手AGTフード&イングリディエンツ(カナダ)のムラッド・アル・カティブCEOはサステナビリティに取り組み、数百万人のシリア難民に食料を支援した。レバノンのファッションデザイナー サラ・ベイドゥン氏は貧困など恵まれない女性を支援するファッションビジネスを立ち上げた。いずれもオスロ・ビジネス・フォー・ピース・アワードを受賞している。

11月、スイス・ジュネーブで開催された「国連ビジネスと人権フォーラム」ではそうした事例を聞くことができた。ノルウェーの通信大手テレノールがミャンマーで起きている紛争で果たしている役割や、コロンビアの脆弱な平和の中で危機に瀕している人権活動家を守るために声を上げる覚悟のある20社が参画するプラットフォーム「レッド・コロンビア」だ。

紛争が起きている国々で、どれだけの企業が治安部隊による人権侵害の共犯者にならないように積極的に取り組んでいるだろうか。同フォーラムの最終日は「平和のためのビジネス」に焦点が当てられた。人権や平和構築に関する報告書『Alert2019!』によると、83カ国が紛争に発展する可能性のある緊張状態にあることが分かっている。現在、武力紛争が起きている34カ国だけでなくそれ以外のそうした国々に対して、企業がどのように紛争予防・紛争解決のための平和構築の役割を果たせるかが議題となった。

つまり、これは世界の半分以上の国で10億人以上がこうした状況の中で生きているということ。そして、紛争鉱物や自発的な安全保障のイニシアティブなどの既存の取り組みだけでなく、さらに広範囲の企業による取り組みが求められている。

これはすべての企業にとって挑戦だ。紛争の根本的な原因となっている社会や経済の不平等を解決するために、自社のスキルや資源、リーダーシップを活用して、平和な社会に構築に積極的に貢献することが求められる。

これは単に人権を尊重するということではなく、自社が事業を行う国で、人間一人ひとりの生存や生活、尊厳がどうリスクや脆弱性に晒されているかという点に着目し、人間の安全保障を促進することによって人権を尊重するということだ。

そして紛争予防に加え、企業が持続可能な平和のために責任を持つということだ。

スウェーデンの調査組織「スウェドウォッチ(Swedwatch)」は、途上国におけるビジネス・インパクトについて、リベリアやシエラレオネの事例を発表した。それによると、自然資源が原因で発生する武力紛争は、和平協定が調印されても5年以内に再び紛争状態に戻る確率が2倍に上る。

ここにはパーパス・ドリブン企業の取り組みが特に求められる。特別な事例としては、コロンビアのように、企業が他のセクターと共に、過去の戦争におけるそれぞれの役割を認める和解努力に参加するという「移行期正義」に取り組むというもの。これは平和構築の手助けとなる。

コロンビアや他の南米の平和活動家は、紛争の賠償はコミュニティを再構築する集合的な取り組みを支援するべきで、単に個人に対して金銭保証をするものであるべきではないと主張した。

国連の『ビジネスと人権に関する指導原則』に記載されている「救済へのアクセス」で国連が推進することに対する興味深い挑戦だ。

こうした平和や紛争という課題が自らのバリューチェーンから遠く離れていると考える読者にとっては、サステナビリティレポートが出発点だ。自社がSDGs目標16「平和と公正をすべての人に」にどう取り組んでいるかを評価することで、人権課題とSDGsを結び付けることができる。

今年、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が発行したサステナビリティレポートを分析した報告書「Reporting Matters」によると、目標16への取り組みについて記載していた企業はわずか38%で、SDGs17目標の中では下から3番目だった。

これに対処するため、国連グロ―バルコンパクトは目標16の理解、取り組み、報告のための新たな基準を開発し促進する特別なアクションプラットフォームを設置すること決めた。

IIRC(国際統合報告委員会)の前CEOとしての経験から、私がこの分野において先進的な取り組みをしていると思うのは、伊電力最大手エネルや英法律事務所リンクレターズ、住友化学、トムソン・ロイターなどだ。

サステナビリティ・ムーブメントの中で、われわれはずっと「profit(利益)」「people(人)」「planet(地球)」という3つの“P”について議論してきた。

しかし、今後は4つ目の“P”すなわち「peace(平和)」に取り組むことをすべての企業が求められる。

リチャード・ハウイット