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SB Oceans:ビジネスは海を救えるか(後編)

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TOM IDLE
マイクロソフトのスコット・マウヴェイ氏

「サステナブル・ブランド国際会議 オーシャンズ(SB Oceans)」が先月、ポルトガルで開催された。海にはプラスチック以外にもさまざまな課題がある。今回は、AIを使い違法操業漁船や乱獲の発生場所を特定したり、海洋の課題解決のために国内企業を支援する仕組みをつくった銀行の取り組みなどを紹介する。(翻訳=サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)

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AIは海を守る秘密兵器

私たちの地球が危機に瀕している中、環境破壊や世界の不平等を変えたいと考えるなら、どれだけその状況が深刻かを考えることは極めて重要だ。

森林破壊や乱獲から貧困、ウイルスの流行まで、世界で最も深刻な問題の多くは往々にして注目されないまま、解決策が講じられないままとなっている。私たちは、地球環境の現実や自然資源に頼らなければ生きていけない人間や動物が置かれている立場を正確に認識しきれていない。

世界最大の企業の一つであるマイクロソフトは、AIへの移行に伴い、この状況を変えたいと考えている。

基調講演で、同社のAIの責任者であるスコット・マウヴェイ氏は、テクノロジーの力を役立て、どこにいる人でもより持続可能な未来を構築できるよう手助けするというマイクロソフトのビジョンを紹介した。120カ国で事業を展開し、約1兆4100億円の純利益を出し、11万5000人を雇用する同社は確かな手がかりをつかんでいる。

同社はカーボンフットプリントの削減に力を入れている。7年前に、内部炭素課金を導入した最初の主要テクノロジー事業は、クリーンエネルギーやデーターセンターの冷却システムへの投資を加速させた。

マウヴェイ氏のような社員が最も面白いと考えている事業が「AI for Good (AIによる社会貢献)」だ。この1億5000万ドル規模、5カ年計画のイニシアティブは、AIを活用して、環境、人道、文化遺産、アクセシビリティなどの課題を解決するもの。

同プログラムの中で、環境保全の支援を行う「AI for Earth (地球のためのAI)」。

「環境科学とコンピューターサイエンスの力を組み合わせ、膨大なデータセットをクラウドで保管し、研究者らのコラボレーションを可能にする。そうすることで、単独で取り組むよりもさらに大きなインパクトを生み出せるようになる」とマウヴェイ氏は説明した。

過去3年間で65カ国230人以上がマイクロソフトの支援を受けた。その中の1社がオーシャンマインドだ。同社は、リアルタイムで漁船を追跡し、不審な行動を検知するアルゴリズムを使い、世界の漁業の持続可能性を促進することを目指している。

船舶の動きはGPSや音波探知機、衛星写真を使って捉える。データ・ソースは、違法漁業の行動を識別するためにAIのアルゴリズムのトップに置かれる。

「違法操業漁船を追跡するのは難しい。合法漁業との識別がしづらいというのが主な理由だ。オーシャンマインドは衛生写真やレーダー写真、AIを使い、漁業活動の違いを見極め、資格のない船舶を特定することができる」とマウヴェイ氏は話した。

いま、違法漁業の対策とし使いたいという人は誰でもAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を利用できる。

またAIでオキアミの数を知ることもできる。小さな甲殻類だが世界の海の食物連鎖を支える役割を果たす。オキアミを餌にするクジラの成長パターンを追跡し、分析することで、マイクロソフトは乱獲が起きている場所を特定し、保全の手助けをしている。

「人間の創造力とテクノロジーが合わさることで、世界で最も重大な環境課題のいくつかを解決することができる。AIは間違いなく、世界が直面する喫緊の課題を解決する力を持っている」

金融で海を守る仕組み

想像してほしい。あなたの口座にいくら残高があるかに関わらず、地球の環境に負荷を与える買い物をしようとしたら使えなくなるクレジットカードがあるとしたらどうだろうか。

まさに、さまざまなメディアに取り上げられたクレジットカード「DO Black」がそれだ。DO Blackは利用者が購入した商品の二酸化炭素排出量が限度に達したら利用制限がかかるという世界初のカードだ。

平均的な消費者は年間10トン近い二酸化炭素の排出に関わっており、スウェーデンではその6割が消費行動によるもの。フィンランドでは8割に上る。

人々にお金を使わせようとする金融業界に解決できるとは考えもしない課題だが、フィンランドにあるオーランド銀行(Bank of Åland)はここ数年間、この取り組みに力を注いでいる。DO Blackの取り組みを主導しているのは、NGOや環境活動団体ではなく銀行なのだ。

オーランド銀行は、従業員数700人、顧客数は10万人と小さな銀行だ。しかし、同社の国内事業の責任者であるアン・マリア・サロニウス氏はこう話す。

「消費は、地球を侵食しています。人々は良いことをしたいと思っていますが、腰が重いです。インターネット上には、他にも二酸化炭素の排出量を計測できる仕組みがあります。しかし、そうしたものを見つけ出すには、地球環境への関心がとても高くないといけません。

このカードを利用すれば、購入した商品の二酸化炭素排出量がモバイルアプリに送られるので、自分の購買行動がどれだけの二酸化炭素を排出したのかを見ざるを得ません」

DO Blackカードの根幹を担う「オーランド・インデックス」は、買い物のたびに発生する二酸化炭素の排出量を計算し、消費者に伝え、購入履歴を記録する機能を果たしている。

二酸化炭素の排出量を記録するクレジットカードは、同行がこれまでに取り組んできた人々が正しい行動をとるよう促すイニシアティブの中でも最新のものだ。

「私は海が大好きで、何度も船を操縦してきました。海は私の心の中にあります」とサロニウス氏は言う。同氏は2014年の夏、バルト海で船を操縦していた時にプラスチック汚染の深刻さを目の当たりにし、「何とかしないといけない」と思ったという。

そして、オーランド銀行の「バルト海プロジェクト」が誕生した。バルト海を保全する重要性を喚起するだけでなく、バルト海を守り保全するための良いアイデアを持つ個人や企業を支援するためのものだ。

いまのところ、同行はフィンランドに拠点を置くスタートアップやプロジェクトを後押しするために230万ユーロ(2億7000万円)を投資している。そのうちのいくつかは、SB Oceansでも展示された。

「私たちは現在、みなさんが良いアイデアを簡単に支援することができる新たなオンラインプラットフォームを構築しています。良いアイデアに投資し、広め、支援できるであろう他のパートナーとつなげる手伝いをしたいと考えています」

Clewatは2018年、海からプラスチックを取り除く同社のハイテク・クリーニング技術への7万ユーロ(約840万円)の支援を受けた。多くの賞を受賞しているSulapacは、生分解性でマイクロプラスチックが出ないプラスチックの代替素材の開発の最終段階で、5万ユーロ(約600万円)の支援をうけた。Solar Foodsは、CO2と水、電気から生み出されるたんぱく質、Soleinの開発支援金として5万ユーロ(約600万円)の支援を受けた。3社ともフィンランドの企業だ。

「もはやB to BやB to Cについて話している時ではありません。いまは、結局のところ、H to H(ヒューマンtoヒューマン)です。最後は、私たちは人とコミュニケーションをとっています。それは正直で、誠実で、本物である必要があります」

プラスチックを海に出さないビジネスモデルを考える

ウィレマイン・ピーターズ氏は4年前、ある理由で仕事を辞めた。SB Oceans最終日の事例紹介のセッションで、彼女は毎時、川や海に毎時流されるプラスチックごみの量は2部屋の巨大な会議室を埋め尽くすほどだと説明した。「いまの状況に対して何かしなければいけない、行動に移さないといけないと考えました」と同氏は語った。

ピーターズ氏は、埋め立てる予定の素材を使う線形の生産から抜け出し、構造を考え直すために循環型に焦点を当てた企業「Searious Business」をオランダで創業した。

「プロジェクト・オフィス」と説明されることもある同社は、大企業がプラスチック廃棄物をゼロにする「ゼロ・プラスチック・ウェイスト」を実現するサポートを行う。

「だって、きれいな海を実現するには陸からのプラスチック廃棄物の流出を止めなければなりません」

ピーターズ氏は、同国の家具製造企業「ギスペン」と共同で行ったリサイクルプラスチックを約95%使ってソファをつくったプロジェクトについて話した。

このソファはオランダ・デザイン・アワードを受賞している。わずか4カ月で完成したソファは、同社のプラスチック製包装材の廃棄物と製造で発生した素材を使用。リサイクルプラスチックを回収して使用するために、Searious Businessは廃棄物の収集業者、プラスチックリサイクル会社、機械メーカー、デザイナー、エンジニアと連携した。このソファは、寿命に達しても、すべての部品をリサイクルでき、簡単に分解できるようになっている。

「ソファの製造準備が整う中、私たちはギスペンが事業投資を行う準備を行うためのビジネスケースを構築し、生産コストを最適化するのを手伝いました」

ピーターズ氏らは同商品のマーケティングストーリーを組み立てるサポートも行い、結果的にオランダ・デザイン・アワード2019を受賞した。それが功を奏して、今後10年間、毎年1000万ユーロ(12億円)の家具を供給するほどの注文を受けた。

「私たちはギスペンがビジネスモデルと素材を活用する方法を考え直す手助けをしました。多くの企業がプラスチックを使っていますが、それを価値のある資源として見ている企業は少ないです」

手掛けた事業の一つを参加者に紹介し、プラスチック素材を地域で回収しリサイクルすることで、プラスチックを環境に流出させることなく、商業的な利益を有利に生み出すことができるのだと彼女は説明した。

Sustainable Brands Oceans

サステナブル・ブランドは世界13カ国14都市でカンファレンスを開催している。海洋をテーマにしたSB Oceansは11月14-16日、ポルトガル第2の都市ポルトで開催された。

同国出身で、SB Oceansを企画したプロデューサーのヒューゴ・アルメイダ氏はSB Oceansを開催した理由についてこう話す。

「多くのブランドは海洋のサステナビリティに取り組みたいと考えながらも、どう取り組み始めればいいのか、誰が何をやっているのかも、上手くいっていることとそうでないこともまだ把握しきれずにいる。だから、海洋経済に関わる人たちのためのグローバルプラットフォームをつくろうと考えた。変化を生み出したい。海だけでなくマインドセット、そして企業の社員など人の変化もだ」

今回のSB Oceansは「イノベーション」「海の生き物」「ツーリズム」「知識と教育」「コミュニケーション」の5つのカテゴリーで構成された。「プラスチック問題に向けられている注目度を海のほかの問題にも向けるようきっかけをつくりたい」とアルメイダ氏は話す。そして「知識と教育」がどれよりも一番大切とし、「人は、なぜなのかという理由が分からないと決して行動に移すことはない」と説明する。