困難極めた交渉の末に得たものは――COP29、新たな「気候資金目標」採択も、途上国と先進国に溝
気候資金目標の採択を巡って、COP29の会期が延期される中、会場内で抗議活動を行う非国家アクターたち(UNclimatechangeのflickrより)
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アゼルバイジャンのバクーで開かれていた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は現地時間で11月24日未明、先進国から途上国に対する新たな気候資金目標を、「2035年までに、公的資金と民間投資を合わせて、年間3000億ドル(約46兆5000億円)とする」ことで合意し、閉幕した。最大の焦点となった資金を巡る交渉は、1.5度目標の達成に向け、先進国の公的資金による確実な支援を求める途上国と、民間資金の役割の重要性を訴える先進国との間で議論の隔たりが大きく、会期を2日間延長して妥協点を見出した形だ。(廣末智子)
2035年までに現行の3倍、年間3000億ドルを先進国から途上国へ
“気候資金”とは、途上国の気候変動対策を支援するために先進国が拠出する資金をいう。これまでの経緯では「2020年までに年間1000億ドルの支援を動員する」とする合意がなされていたが、実際に1000億ドルに達したのは2022年で、今回のCOPでは2025年以降の拠出額と、その流れが決定されることになっていた。
採択された成果文書によると、途上国への資金の流れとして、先進国から途上国に限らず、途上国同士などすべての主体に対して、2035年までに年間1.3兆ドル(約201兆円)を目指すよう呼びかける一方、先進国の主導により、民間資金と公的資金を合わせた額を同年までに、現行の約3倍となる年間3000億ドルにまで引き上げることを目標として明記した。
もっともこの採択に至るまで交渉は困難を極め、議長テキストの草案は二転三転した。途上国側は先進国に対し、公的資金の供与としての十分な増額を求めて譲らず、先進国側は金融取引税など民間からの資金メカニズムの導入を訴えると共に、途上国の中でも「新興国」は拠出側に加わるよう主張したことなどによるためだ。
途上国が先進国に増額を求める背景には、来年2月までに提出義務のある、2035年に向けた「NDC(Nationally Determined Contributions、国が決定する貢献)」を、「先進国からの資金支援があれば、より多くの排出量削減ができる」とする思惑がある。1.5度目標の達成に向け、世界各国がより野心的なNDCを設定するためにも気候資金の拡充は欠かせない問題で、総額としては数千億ドル単位ではなく、数兆ドル単位が必要であることがこれまでのCOPでも報告されていた。
難交渉の末に着地点を見出し、最後は拍手で閉幕したCOP29(COP29 Azerbaijanのflickrより)
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会期を2日延長し、夜を徹して交渉を行った結果、先進国と途上国の妥協の産物として生まれたのが、「2035年までに先進国から官民合わせて年間3000億ドル」という実質の新目標だ。一方で、経済発展の著しい新興国が他の途上国に拠出する“南南支援”については、当該国に対し、あくまで自主的な貢献を促すこととなった。採択直後にはインドやナイジェリアの代表団が「成果文書は気候変動の重大さに応えていない。深く失望している」「冗談のような金額の少なさで問題だ」となどと批判する声が相次ぎ、新興国や途上国と、先進国側との溝の大きさを感じさせる幕引きとなった。
化石燃料からの撤退など進展なしも、炭素市場のルール化(パリ協定6条)は合意
また今回のCOPでは、昨年のCOP28で「2030年までに世界全体で再生可能エネルギーを3倍に、エネルギー効率を2倍に」など画期的な内容で合意した内容を強化する採択はなされず、化石燃料についても「およそ10年間で脱却を加速する」とした23年の合意文書から進展はなかった。
各国が2035年に向けたNDCでより野心的な削減目標を掲げるための機運醸成の方針に関しても、英国が、2035年までに1990年比で81%削減するという1.5度目標に整合した高い目標を発表するにとどまった。
一方で、2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、最後にどうしても大気中に残ってしまうCO2を除去するための、除去クレジット(carbon removal)など、パリ協定6条にある国際的な炭素市場(カーボンマーケット)のルールについてはこれまで先送りされてきたものが今回のCOPで合意した。パリ協定6条では、クレジット取引の際には自動的に収益の5%が脆弱(ぜいじゃく)な途上国への適応資金に当てられることが決まっており、新たな資金支援の仕組みとして注目が高まる。
COP29の成果について、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は23日付で声明を発表。この中で、「借金に苦しみ、災害に見舞われ、再生可能エネルギー革命から取り残された発展途上国は、資金を切実に必要としている。1.5度目標を達成するために、COP29での合意は絶対に必要で、各国はそれを実現した」と述べる一方、「私たちが直面している大きな課題に対処するために、私は財政面でも緩和面でもより野心的な成果が得られることを期待していた」と期待外れだったことも明かした。その上で、「約束は期限通りに全額履行されなければならない。すべての国が協力して、この新たな目標の上限が達成されるよう努めなければならない」と訴えている。
揺るぎない決意共有へ 非国家アクターは盛大にアクション
気候資金という国際的な枠組みが整ったとは言い難い今回のCOPだが、例年同様、企業や自治体、若者団体や先住民族など政府以外の“非国家アクター”によるさまざまなアクションが、連日熱をもって繰り広げられた。来年のトランプ政権下で気候変動対策の後退が懸念される米国からも、「AMERICA IS ALL IN(アメリカはみんなパリ協定にいる)」と銘打った超党派イニシアチブが参加するなど、1.5度目標の達成に向けた揺るぎない決意が共有された。
昨年のCOP28では、初の「グローバルストックテイク」を経て、1.5度目標の達成には、2019年比で2030年までに43%、2035年までに60%削減する必要性が示されている。2025年春には出揃う各国のNDCはそれに見合った内容になるのかどうか――。気候変動枠組み条約における世界の合意のバトンは、節目となる次回のCOP30(来年11月、ブラジルのアマゾン地域にある、北部パラ州の州都ベレンで開かれる予定)へと引き継がれる。