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住宅メーカー3社の協働が、都市の生物多様性を多面的に再生――シンク・ネイチャーが実証、世界初の事例に

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Image credit: shutterstock

2030年のネイチャー・ポジティブ実現に向け、住宅メーカー3社がそれぞれの方法で在来樹種に着目した都市緑化に取り組むことで、大きなシナジー(相乗効果)を上げられることが分かった。旭化成ホームズと積水ハウス、大和ハウス工業の取り組みを、琉球大学発のスタートアップ、シンク・ネイチャー(那覇市)が分析し、検証したもの。生物多様性保全活動において、同業他社との協働が評価されたのは3社ともにこれが初めてで、シンク・ネイチャーは、「複数企業による植栽事業が、生物多様性の多面的な要素を効果的に再生することを示す、世界で初めてのケースだろう」としている。(廣末智子)

旭化成ホームズ、積水ハウス、大和ハウス工業の取り組みに大きなシナジー

高木・中木と低木、地被植物の3階層以上の植栽で、鳥や昆虫の往来を増やす旭化成ホームズの「まちもり」 (上)と、大和ハウス工業の「みどりをつなごう!」をコンセプトとする緑化活動のイメージ図

3社の取り組みの共通点は、自然保護区や、日本古来の里山的な環境のみならず、多くの人が暮らす「都市」の生物多様性が、ウェルビーイングの観点からも重要と捉え、在来樹種に着目した独自の街づくりや庭づくりを提案していることにある。具体的には、旭化成ホームズは、地被植物から高木まで、さまざまな高さの樹木を植栽することで、街並みへの貢献と都市に小さな森を創出することを目指した「まちもり」、積水ハウスはその地の気候風土にあった在来樹種を中心に植栽する「『5本の樹』計画」、大和ハウス工業は、住宅をはじめ商業施設やオフィスなどさまざまな不動産に50%以上の在来種を植栽する、「みどりをつなごう!」のコンセプトに基づく緑化活動に力を入れ、それぞれに成果の可視化が進んでいるところだ。

生物多様性の保全科学を推進――琉球大発のスタートアップが3社の植栽樹木本数と樹種のデータを統合・可視化

今回、3社の取り組みを分析し、その協働を評価したシンクネイチャーは、琉球大学理学部教授の久保田康弘氏がビッグデータやAIを活用し生物多様性の保全科学を推進しようと、2019年に設立した研究者らによるスタートアップ。世界の陸と海を網羅した30万種以上の生物の分布データと、150以上の生物多様性・自然資本に関する指標を用いた高度な解析を得意とし、さまざまな企業の自然関連事業を中心とするインパクトの評価・分析を行っている。

同社によると、今回の分析は、3社の首都圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)を対象とした樹木本数と樹種のデータを可視化し統合することで、異なる取り組みによる都市の生物多様性保全への効果を明らかにする手法が取られた。

その結果、まず、樹木数においては、3社が植栽した樹木は年間で約350種、43万本に及び、最も種数の多かった個社よりも約10%種類が多いことが分かった。さらに、このデータを生物多様性評価の指標となる、種数の多さや種の均等性の高さを示す「個体数に関する種の順位曲線」として表すと、個社ごとの場合に比べて、3社統合のグラフは傾きが緩やかになった。

※優占種、普通種、希少種の個体数の割合の序列を示す、生物多様性の量的指標。種の多様性は種の豊富さ(種の数)と均等度(群集の中でのそれぞれの種の数の均等さ)で評価することができ、種数が多く、かつ特定の種が多く偏っているのではなく、均等に生息しているほど種の多様性が高い。種の順位グラフでは、横軸が個体数の多い種から数えた種の順位、縦軸が全個体数に占める種の個体数の割合を表し、さまざまな種が共存する「生物多様性が豊かな群集」ほど、グラフの傾きが緩やかになる

旭化成ホームズ、積水ハウス、大和ハウス工業による首都圏の植栽分布図(左)と、植栽樹種の種固体数データに基づいた植栽樹種の順位曲線

これによって明らかになったのは、3社がそれぞれに異なる特性のさまざまな樹種を植えてきたことで、個社単位に比べて生物多様性の豊かさが向上したこと、そして、各社が特有のコンセプトで植栽を行ってきたことで、生物多様性の多面的な要素を補完し合い、ネイチャーポジティブの実現に向けた、効果的な再生に成功していることだという。

積水ハウスの「『5本の樹』計画」のイメージ図

例えば、旭化成ホームズの「まちもり」は、鳥の隠れ場所など、生き物に生息地を、積水ハウスの「『5本の樹』計画」は生き物に餌資源を、大和ハウス工業の「みどりをつなごう!」では、住宅地ばかりでなく、周辺地域でも生き物に生息環境を提供している。そのように、それぞれのコンセプトが生物多様性の多面的な再生につながり、さらには、これらの取り組みによって生まれた都市緑地をきっかけに、新たな生き物のつながり(食物網)がつくられることも考えられる。

アーバンネイチャーポジティブの文脈で、新たなビジネス機会の創出を

今回の協働評価について、上述の、琉球大学理学部教授で、シンクネイチャーCEOの久保田康裕氏は、「緑化の事業資産がもたらした、生物多様性への貢献度を定量評価したものであり、複数企業の植栽事業のネイチャーポジティブ効果を可視化することが、社会的シグナルとなり得る、世界で初めてのケースだろう」とするコメントを発表。さらにこのケースが、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」のターゲット12である「都市の緑地親水空間の確保」へ寄与すると同時に、「不動産住宅建設の業界において、生物多様性が新たな価値基準となり、アーバンネイチャーポジティブの文脈で、新たなビジネス機会が創出されること」への期待を語り、企業間による協働・共創の大きな可能性を示唆する。

これを受け、旭化成ホームズと積水ハウス、大和ハウス工業の3社は、「さらにネイチャー・ポジティブの実効性を高めるため、より多くの企業や団体に在来樹種を中心とした取り組みに賛同いただけるよう、住宅・不動産業界に対し取り組みを広げるための活動を協働していく」と話している。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。