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化粧品も再エネと水素からつくる時代に――コーセーが新拠点に山梨県産“グリーン水素”を活用、エネルギーの地産地消モデル構築へ

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2026年2月に竣工予定の、コーセーの新生産拠点となる「南アルプス工場」の完成イメージ図

化粧品も再エネと水素からつくる時代に――。コーセーは、2026年に稼働予定の山梨県南アルプス市の新たな生産拠点を、同県の「水」と地産地消のエネルギーを最大限に活用したモデル工場として整備する。同社と、生産子会社のコーセーインダストリーズ、山梨県の3者が連携して取り組む合意を締結し、今月着工した。国内で初めて、建設段階から県営の水力発電によるCO2フリーの電力を活用し、工場が稼働後は、化粧品の製造などに必要な熱を生み出すエネルギーを同県産の“グリーン水素”へと転換していく。(廣末智子)

同社の国内生産工場3拠点目となり、主にスキンケア製品を生産する「南アルプス工場」。同社によると、化粧品製造において「水」は重要なファクターであることから、豊富な水資源に恵まれた山梨に新工場を建設することを2019年に決定していた。

工場の電力には、日照時間の長い同県の特徴を生かした太陽光による自家発電に合わせ、建設段階から県営の水力発電所でつくられたCO2フリー電気を用いる。さらに稼働を始めた工場の熱エネルギーの燃料には、山梨県産のグリーン水素を利用する。

「やまなしモデルP2Gシステム」と呼ばれるグリーン水素を製造・貯蔵・輸送・利用するシステムの社会実装に取り組む米倉山電力貯蔵技術研究サイトの全景(山梨県のHPより)

グリーン水素とは、風力や水力、太陽光などの再生可能エネルギーで水を電気分解し生成された水素を指し、利用時と製造過程の両方で温室効果ガスの排出がないことを特長とする。山梨県は近年、国の水素戦略と歩調を合わせてこのグリーン水素の製造に注力。民間企業と共同で、甲府市にある米倉山電力貯蔵技術研究サイトを拠点に、「やまなしモデルP2G(ピー・ツー・ジー、Power to Gasの略)システム」と呼ばれる、グリーン水素を製造する技術を開発するとともに、できあがった水素を貯蔵・輸送し、システム自体を国内外に広げる社会実装に取り組んでいるところだ。

コーセーの南アルプス工場では、このシステムによってつくられた山梨県産グリーン水素を、専用のトレーラーで調達し、従来の化石燃料からグリーン水素へと段階的に切り替えていく。国内の化粧品製造工場における、水を最大限に活用したエネルギーの地産地消のモデルとして、環境配慮の文脈から、業界をリードしていく考えだ。

新工場はISO22716に準拠、第1期の投資額は250〜300億円

建設中の工場は、化粧品の製造管理・品質管理に関する国際規格であるISO22716に準拠した生産体制とし、将来の需要の質的・量的変化にも柔軟に対応できるよう、スキンケア製品中心の多品種生産工場として2026年上期から稼働する。同社によると、これを第1期の建設とし、さらなる事業拡大を見据えて第2期以降の建設への対応可能な仕様とする。第1期の投資額は250〜300億円という。

やまなしモデルP2Gシステムは、これまで脱炭素化が困難だった産業分野を中心に新たな水素利用のモデルとしても期待が高く、同社としても、今後は同工場内へのシステムの導入を視野に入れる。例えば工場内で循環処理された水と太陽光から自家発電した電力を利用して水素を発生させるなど、資源を循環させながら、環境に配慮したエネルギーへの転換を積極的に推進する方針だ。

ものづくりの現場における世界標準のサステナビリティ工場に――山梨県期待

コーセーは、「美しい知恵 人へ、地球へ。」を企業メッセージに、グループを挙げて脱炭素を加速。2030年までにScope1・2のCO2排出量を2018年比で55%削減、Scope3では30%削減、2040年までにScope1・2でカーボンニュートラルを、2050年までにScope3を含めた全体でネットゼロの達成を目指す。南アルプス工場のエネルギーの地産地消化は、Scope1・2の目標に大きく貢献する見込みで、同社の広報担当者は、「山梨県の誇る“水”を活用し、人と地球の双方に向き合い、地域との共存共栄を図りながら、ともに社会課題の解決をしていきたい」と強調。南アルプス工場について、「美しい自然環境のもと、国内外で拡大する化粧品需要に応える拠点として、高品質で競争力のある製品を確実かつタイムリーに供給していく」と展望を描く。

一方、県営の水力発電によるCO2フリー電力や、県産のグリーン水素の活用を通じた、同社との連携について、山梨県企業局新エネルギーシステム推進課の宮崎和也課長は、「建設工事段階からの水力100%電力による取り組みは国内初であり、工場の熱需要のカーボンニュートラル化に水素を利用するのは化粧品業界で初の試みとなる。山梨県としては非常に心強いパートナーを得た。世界的な脱炭素化の流れの中、ものづくりの現場における世界標準のサステナビリティ工場としてモデル化し、水素エネルギーの普及啓発や将来的な人材育成の場としても連携を深めていきたい」と話している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。