核兵器製造、パーム油、たばこ関連への投融資禁止 日本生命がESG対応で基準を改定・強化
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日本生命はこのほど、ESG投融資の手法を高度化し、対象基準などを改定した。投融資先企業のESGに関するレーティング(格付け)の内容を明確に定義し、評価の高い企業を投資対象として選定する「ポジティブ・スクリーニング」を全資産に適用するとともに、該当企業を投資対象から外す「ネガティブ・スクリーニング」を拡大。非人道性の観点から、核兵器製造企業への投融資禁止を明文化したほか、生物多様性と人権、健康の観点から、パーム油関連企業とたばこ関連企業への投融資禁止を打ち出した。国内生保では踏み込んだ内容で、企業のESG対応を高い水準で促し、国際社会に求められる機関投資家としての役割を率先して示した形だ。(廣末智子)
全保有資産の8割以上を「ポジティブ」と「中立」に
新方針は、「ESG投融資の高度化について」と題した文書にまとめられ、ESGレーティングについて、企業等のESGに関する取り組みの状況が、中長期的に、持続可能な成長力や信用力といった企業価値に対してどう働くかの評価軸を、1.ポジティブ、2.中立、3.ネガティブ、4.大きくネガティブ、の4段階に定義。これを用いて、株式、社債、融資、国債、不動産、外部委託の6つからなる「全資産クラス」を振り分け、且つ、全体の8割以上が1のポジティブと、2の中立で占めるよう投融資先を選別することで、「ポジティブ・スクリーニング」を行う。
「ネガティブ」拡大 核兵器製造、パーム油、たばこ関連企業も
一方、「ネガティブ・スクリーニング」については、これまでにも非人道性の観点から、クラスター弾、生物兵器、化学兵器、対人地雷の兵器の製造企業に対する投融資を禁止していたが、これに核兵器を加えることで、機関投資家として、核廃絶に向けた国際的な機運の高まりに協調する姿勢を表明した。
また、新たな観点として、生物多様性・人権と健康を加え、前者(生物多様性・人権)では、サプライチェーンの上流における環境破壊や児童労働などが問題になっているパーム油関連企業を、後者(健康)ではたばこ関連企業を、それぞれ投融資対象から外すことを明記した。
さらに、気候変動の観点では、「1.5度の経路に沿ったプロジェクトは除く」とした上で、石炭や、石油・ガス関連事業等への新規の投融資は行わない方針を示した。
このほか、国際資本市場協会等が公表した原則に準拠した環境領域と社会領域のファイナンスで構成する「テーマ投融資」の数値目標を2030年度末には総額5兆円に引き上げ(2022年度末実績は1.9兆円)、そのうち約3兆円(同6645億円)を脱炭素ファイナンス枠とすることを公表。これらを通じて、資金の提供先企業が環境・社会課題の解決に貢献した度合いを表す「アウトカム」の創出を増やし、その一環として、例えば温室効果ガス排出量削減寄与量や、生活に必要な水・医療サービスの供給量など、各企業によるテーマごとのアウトカムの計測・開示を強化する。
10月開催PRI年次カンファレンスのリードスポンサーに 「世界のESG投融資の推進に貢献」
国内の大手生保による核兵器等の製造企業への投融資禁止は第一生命が先んじているほか、明治安田生命でも、パーム油や輸入木質チップを燃料として使用するバイオマス発電や、石炭火力発電等の新設・更新に伴う投融資は原則行わない方針を示しているが、たばこ関連企業を投融資禁止対象としたのは日本生命が初とみられる。
同社は、世界のESG投資を牽引する国際イニシアティブであるPRI(国連責任投資原則)が今年10月に東京で開催する年次カンファレンス「PRI in Person」のリードスポンサーになり、保険会社としては世界の機関投資家の中で初めて選定されている。このため、今回のESG投融資の取り組み方針の改定は同カンファレンスを目前にした同社の「世界のESG投融資の推進に貢献する」意気込みの表れと言えるだろう。
そうした見方について、同社の広報担当者は「世界のESG投融資の推進はもちろん意識している」とした上で、「今年度は中期経営計画の最終年度でもあり、ESG投融資をより強化して運用収益の向上につなげたいという思いから、大幅な改訂に至った」と説明。ネガティブ・スクリーニングの拡大については「機関投資家として、世の中の変化や、国際社会の求めに応じた対応だ」とし、「今後も投融資と対話を軸に、さまざまなアプローチでESG投融資をバランス良く推進したい」と話している。