子育て世代の人と企業の「つながり」支援へ IT企業2社が協業、サービス開始
メディックスが展開する育児中の女性の復職に役立ててもらうためのサービス、「Link MamⓇ(リンク マム)」のトップページより
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働き方改革やダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の重要性が叫ばれるなか、育児休業を取得した女性の6.9%が離職する(令和3年度厚労省調べ)など、いまだに出産や育児を機に離職する女性が少なからずいる。そうした実態は、企業にとっても大きなマイナスだが、産休・育休に入る従業員一人ひとりの事情に目を向け、手厚くフォローをするとなると1企業にはなかなか難しいのも現状だ。そこで、子育て世代の従業員が抱える育児や復職の悩みに対し、企業や業界の枠を超えて向き合い、支援するサービスが、IT関連の企業2社による協業の形でスタートした。目指しているのは、手が届きそうで届かない、女性も男性も誰もが自分らしく働くことのできる社会だ。(廣末智子)
IT大手、インテックとメディックス、「D&Iコンソーシアム」から発想生まれる
産休や育休明けの従業員の復職支援分野での協業を発表したのは、システム開発大手のインテック(富山市)と、デジタルマーケティングを手掛けるメディックス(東京・千代田)。展開するのは、「育児中の社員が自分らしく働けるようになるサービス」で、企業の人事部門にアプローチすることで、各企業が対象となる従業員の悩みに寄り添い、それぞれが希望に沿った働き方で復職できるよう支援する。
インテックはD&Iを、社外の複数企業や有識者らと共に課題として取り組み、2022年4月から女性活躍推進やキャリア形成支援の在り方をテーマとする勉強会や意見交換会を隔週で実施。同年10月には20数社が参画する「D&Iコンソーシアム」として発展・継続させ、その運営を担っている。
一方のメディックスは約2年前から育児中の働く女性同士がオンライン上で気軽にコミュニケーションをとり、それぞれの悩みに応じた専門家の講座などを通じて育児中の孤独感を軽減し、復職に役立ててもらうためのサービス、「Link MamⓇ(リンク マム)」を提供しており、約3000人の会員がいる。
インテックとメディックスが開始する産休や育休から復帰する従業員を支援するサービスのイメージ図
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今回の協業によるサービスは、メディックスがインテックの「D&Iコンソーシアム」に参画するなかで、両社がそれぞれの強みを最大限に活用し、産休や育休から復職する従業員のコミュニティを支援しようと生まれた。具体的には企業の人事部門向けに、産休育休中の従業員とのコミュニケーションを円滑にするための掲示板サービスや、復職した従業員の仕事と育児や家庭との両立を支援する状況把握サービス、企業内の先輩ママ・パパのつながりを創出するコミュニティサービスなどを提供する。
4人に1人は復職時、上司や会社に悩み明かせず
2社によると、サービスに取り組む背景には、企業の人事部門が、産休や育休に入る従業員に対して、「パートナーは育児に協力的か」「いざという時に育児を手伝ってくれる両親らが近くにいるのか」といった、一昔前ならヒアリングできたことが、現在はプライバシーの観点などから聞きづらく、不安や悩みをピンポイントで把握できないことから的確な支援が行えず、結果として離職につながってしまっているという課題がある。
実際、2020年に民間コンサルタント会社が育休からの復職者564人に実施した調査では、7割が復職時に会社との面談を行っているものの、4人に1人は悩みや不安を「上司や会社に全く伝えなかった」と回答し、6割が復職後のキャリア展望を描けないままに職場復帰している結果が出ている。つまり、2社によるサービスは、こうした、企業が従業員に直接は聞きづらく、また、従業員も自分の状況を企業に伝えづらい側面があることが産休育休からの復職のネックになっていることに着目し、そこを改善することで、企業にとっても、従業員にとっても得るものが大きいプラットフォームにしていくことを目指している。
ライフステージによって変化する悩み 4ステップでサービス展開
より具体的なサービスの内容、そしてそこに込めた思いを、メディックスのLink Mam推進室長を務める小谷中一樹氏に聞いた。
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そこで、真っ先に出たのは、2年間で会員が約3000人にまで増えたLink MamⓇ事業を通じ、育児のさまざまな段階で悩みを持つ人同士が活発にやり取りする様子から、「この時期の女性の悩みが、子どもの成長とともに目まぐるしく変化することをあらためて実感している」という、上司としての目線での小谷中氏自身の彼女たちへの共感だった。
「産休前、出産直後、育休の前半、復職の直前、さらには復職後1年経ったころ、そして、子どもが保育園に入り、小学校に入学し、放課後は学童保育に預けていたのがそれも終わって……と、女性にはさまざまなライフステージがあり、その時々で違う不安や、新たな壁が現れる。社内だけでは同時期に同じ悩みを持つ人も少ないかもしれないが、企業を超えて同じサービスを活用することで、同じ境遇の人とつながるケースも多いはず。大事なのは、誰もが、自分らしく働くこと。そのための後ろ盾が、同じ境遇の人たちとのつながりと、自分自身の状況や気持ちを、上司をはじめ会社の周囲の人に分かってもらえているという状態だと思います」
育児と向き合う従業員が、その時々に自分らしい働き方を選択するため、同じ境遇の人たちや、会社との「つながり」をいかに自然につくっていけるか――。新サービスはそのためのステップとして、まずは、(1)みんなの状況を知る→(2)自分の状況を話す→(3)状況と価値観を可視化する→(4)状況と価値観を周囲に伝える、の4段階で構成しているという。
具体的には、最初の2段階で、専門家による各種のオンライン講座や、同じ悩みを持つ人たちとの「おしゃべり会」などを企画。さらに3、4段階では、対象となる従業員が仕事や家事・育児に関する質問にスマホで回答していくことで、自分1人では整理しきれなかった「家事・育児負荷の変化」や「数年後の希望の働き方」といった状況と価値観を可視化したり、そうした状況と価値観のうち会社に開示してもよい項目や公開範囲を選択するだけで、上司や同僚に共有できるシステムを提供する。一人ひとりがそうしたステップを踏み、会社側もそれらを活用することで、それぞれに状況や価値観の異なる多様な社員に対して、一律でないサポートが行える仕組みを自然と構築するのが狙いだ。
今後は男性向けのコンテンツも 2026年度には500社以上導入が目標
小谷中氏によると、女性従業員の比率にもよるが、メディックスのように毎年新卒で男女を半々に採用している企業でも、従業員数に対する産休や育休の発生率は年間1%ほどで、企業が1社だけで従業員の産休・育休からの復職を手厚く支援するには限界があるという。こうした企業側の実情も分かるからこそ、同氏は「企業の規模を問わず、多様な人材が活躍できる組織づくりに活用していただけるサービスとして、社会課題の解決に貢献していきたい」と抱負を語る。サービスは現時点で母親を中心としているが、今後は男性の育休取得者向けのコンテンツも増やしていく方向だ。
一方、インテックの執行役員、福山朋子氏は、「メディックスのママ社員発案である『Link MamⓇ』を通じて子育て世代に寄り添う姿勢に感銘を受け、ご一緒させていただいた。当社のITソリューション構築力と、メディックスの子育て支援に関する豊富なコンテンツや運営ノウハウを組み合わせることで、より良いサービスを展開し、事業を世の中に発信していきたい」とするコメントを発表している。
両社は今後、サービスを順次拡張し、2026年度には500社以上の企業へ導入、ユーザーは10万人以上の国内屈指のプラットフォームとする計画という。事業が本当の意味での人的資本経営の実現に向け、「支援の対象となる一人ひとりが、社会的な弱者だから救わないといけないというのではなく、彼らが力を発揮してくれることで企業にとっても絶対プラスになる」(小谷中氏)サービスへと成長していくことを期待したい。