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日本ならではのウェルビーイングとは?――幸せの国デンマークからの応援歌

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day2 ブレイクアウト

企業価値の向上や人材確保から生きがいづくりまで、さまざまな視点からウェルビーイング(Well-being)の考え方が注目されている。そのあり方を考えた時に、ひとつのモデルになるのが幸福度ランキングで常に上位にいるデンマークだ。教育やデジタル環境でも日本と異なるアプローチがあり、それがウェルビーイングにつながっている。デンマーク在住の日本人のIT研究者と文化翻訳家を迎えてその理由は何か、そして日本ならではのウェルビーイングのあり方を探る。(環境ライター 箕輪弥生)

ファシリテーター
青木茂樹・SB国際会議 アカデミックプロデューサー / 駒澤大学 経営学部 教授 / Aalborg University Business SchoolVisiting Scholar
パネリスト
岡田晴奈・べネッセホールディングス 常務執行役員 ESG・サステナビリティ推進本部
本部長
ニールセン北村朋子・aTree 文化翻訳家
安岡美佳・ロスキレ大学 サステナブル・デジタリゼーション准教授

「森の幼稚園」に見る民主主義の育て方

ファシリテーターの青木茂樹氏は、昨年4月からデンマーク北部のオールボー(Aalborg)大学のビジネススクールにも籍を置く。

セッションの冒頭で青木氏は、デンマークは幸福度ランキングで常に上位にいるだけでなく、「ワールドSDGsランキング」で2位(日本19位)、2020年「電子政府ランキング」で1位(日本14位)、2021年「一人当たり名目GDPランキング」で9位(日本28位)とさまざまな指数で上位にあることを紹介。なぜデンマークではこのように質の高い社会の仕組みや生活が可能になっているのか、また国民が幸福と感じているのか、ウェルビーイングの背景についてまずデンマーク在住のパネリスト2氏に問うた。

ニールセン氏

デンマーク在住21年のニールセン北村朋子氏は、同国でウェルビーイングは「あなたも、あなたの周りの人もあるがままに存在し続けられることと定義されている」と説明する。
その例としてデンマーク全国にある「森の幼稚園」を挙げた。そこではどんな天候でも自然の中で子供たちが自由に遊び、何をどれくらい遊ぶかは子供たち自身が決め、その中で自分と意見の違う子どもとどう対応するかを学ぶという。
また、小学生以上でも「クリティカル・シンキング」と言って、今の当たり前を疑い、満足していないことに関して変えていくために今からどうすればいいかを考える。

つまり、「社会と自分の行動はつながっていて、疑問を持つのもルールを決めるのも自分たちであり、それらを対話で解決していくことが民主主義である。そういったことが当たり前にある社会環境が、デンマークのウェルビーイングの背景にある」(ニールセン氏)と分析する。

デジタル技術もウェルビーイングを後押し

安岡氏

一方、同国に18年在住し、ロスキレ大学でIT研究をする安岡美佳氏は、これまでデンマークは福祉やデザインの国と見られることが多かったが、昨今ではデジタルの側面でも評価が高まっており、それがウェルビーイングにもつながっているのではと指摘する。

たとえば、コロナによるパンデミックの際にも、生活にデジタルが根付いていることで教育現場でもさほど混乱することなく授業が進み、先生と生徒、親の間のコミュニケーションもスムーズだったという。つまり、デジタルがレジリエンスも高めているのだ。

安岡氏は「パンデミック時期もデジタルが根付いていたことで社会の中で自分の居場所を感じつつ、自分のペースで過ごすことができた」と振り返り、「デジタルは使い方次第でウェルビーイングを促進する技術になりうる」と話した。

どうなる?日本のウェルビーイング

岡田氏

日本国内で教育や介護事業を行うベネッセは、「ベネッセ ウェルビーイングLab」を2022年12月に立ち上げた。ラボの所長でもある岡田晴奈氏は、「もともと、会社名がベネッセ(=よく生きる=ウェルビーイング)であり、SDGsが目指す方向を30年前から掲げている」と説明。

ラボでは、「ウェルビーイングの実践事例を収集し、それをウェブサイトなどでシェアし、対話を進めながら活動を支援していく」方針だという。


日本では4月から「こども家庭庁」がスタートし、子どもに関する政策が一本化される。岡田氏は、現在の日本では貧困に悩む子供は7人に1人、ユニセフの調査でも子供の精神的幸福度がOECDの38カ国中37位とワースト2であることに言及し、「子どもが幸せだと感じられない国の未来はどうなんだろうと考えさせられる。子どもの笑顔が増え、子どもが幸せを感じる社会をつくっていかないといけないと思う」と力を込めた。

ではデンマークのようなウェルビーイングを、歴史も制度も全く違う日本にどのような形で導入し、定着させていくことがいいのか。

ニールセン氏は日本の経済学者、宇沢弘文氏の著書「社会的共通資本」を紹介し、そこで説かれていることは、日本のウェルビーイングを支える考え方だと提案した。

社会的共通資本とは、自然資本と社会資本、教育や医療などの制度資本を、市民一人一人が人間的尊厳を守り、魂の自立をはかり、市民的自由が最大限に保たれるような生活を営むために重要な役割を果たす財や社会的装置と規定し、社会の共通の財産として管理・運営されなければならないとする考え方だ。

つまり、「日本にもウェルビーイングを追求する社会についての独自の考え方があり、それはデンマークの考え方にも通じるものがある」とニールセン氏はいう。

一方の安岡氏も、「やはりウェルビーイングに教育の果たす役割は大きい」とした上で、「個々を重視する欧州的な考えと違い、日本には、周りとの輪を大切に、周りの人の幸せが自分の幸せにつながるという考え方もある。足元を見つめて取り組めば、日本にフィットするようなウェルビーイングの形があるのでは」と問いかけた。

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/