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「守り×攻め」企業での人権尊重の取り組み最前線

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SB国際会議2023東京・丸の内

(左から)矢守氏、日野氏、明石氏、相澤氏

Day2 ブレイクアウト

企業がいかに事業や、サプライチェーンの枠組みの中で人権尊重に取り組んでいくか、企業に関わる人々の人権を守っていくかが、昨今、注目を集めている。こうした流れの中、花王とサントリーホールディングスは、いち早く人権問題に注力してきた。SB国際会議2023東京・丸の内には、これら二社と、両社の活動を自社のプラットフォームを通じ支援しているSedex(以下、セデックス)が登壇。企業における人権尊重の取り組みを、対外的なルールなどから取り組む「守り」と、さらにそこから一歩進んで取り組む「攻め」の両面から議論をした。(蒼井海)

ファシリテーター
矢守亜夕美・オウルズコンサルティンググループ プリンシパル
パネリスト
相澤麻希子・花王 ESG部門ESG活動推進部
明石哲一郎・サントリーホールディングス サステナビリティ経営推進本部 課長
日野陽介・Sedex JANZチーム リレーションシップマネージャー

2011年に国連は「ビジネスと人権に関する指導原則」を策定。日本もそれに順ずる姿勢を示し、2020年に「『ビジネスと人権』に関する国別行動計画(NAP)」を、2022年にはより踏み込んだ内容の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を発表した。冒頭、ファシリテーターを務めた矢守氏は、こうしたビジネスと人権に関するルール化の動きについて説明。EUでは罰則付きのルールを導入する動きがあるという。

サントリーホールディングスは、「人権とビジネス」をテーマに2019年より「サスティナビリティビジョン」を掲げ、7つのテーマの一つに人権をすえると共に、人権方針を策定し、事業に関わる全ての人の人権尊重の実現を目指している。明石氏は、「自社グループ全体の人権デュー・デリジェンス(企業の人権リスクの調査や特定リスクへの予防、トラブル対処などの取り組み)を実施する中で、全体を俯瞰し潜在リスクを可視化するのにセデックスを活用している」と話した。さらに現時点では、購買量の多いコーヒー豆やウーロン茶に絞っているが、原料生産に関わる労働者の人権リスクも含め評価する取り組みも始めているという。

一方、創業から約130年の歴史のある花王もまた、2015年には企業活動全体に関わる人権尊重の姿勢や考え方を記した「花王人権方針」を策定。社員、サプライヤー、協力会社を対象に人権リスク調査を行い、予防やリスク軽減に努めている。昨年2022年には、協力会社で働く外国人労働者への直接のインタビューや、同社の重要な自然原料の一つ、パームを生産する小規模農園への支援などの取り組みにも着手した。
 
相澤氏は、企業理念(花王ウェイ)にある「豊かな共生世界の実現」は、「人権をおざなりにしてはあり得ない」と主張、何より人権の取り組みを進めていく上で欠かせないのは、「企業経営者の理解」だと指摘した。

両社は、こうした人権に関わる社内データなどを、主にセデックスの開発したプラットフォームやツールを活用し、人権リスクを軽減する活動を推進している。セデックスの日野氏は、「(企業独自の)重複した質問項目を減らすことに努めているのが、当社最大の特徴」と説明。企業やバイヤーのアンケート調査や監査にかかる負担を軽減し、共通の自己評価アンケートや社会監査基準などを保存、共有できるプラットフォームを開発し、会員に提供しているなどと事業内容を紹介した。

人権課題にどう向き合っていくかは企業にとって「機会」

後半のパネルディスカッションでは、人権課題に取り組む企業活動のさらに一歩踏み込んだ「攻め」の話に言及。明石氏は、今後は、「商品やブランドの原材料(に関わる企業や労働者の人権)を守る、ということが標準装備されていく」と想定した上で、Z世代の台頭などによる消費者や消費行動の変化に伴い、「そういった人たちのニーズに答えられるサービスや商品を提供できるかがこれから問われるのではないか」などと話した。

相澤氏は、人権への取り組みは、人権侵害をなくす発想からのリスクベースが出発点だとは思うが、「社会の人権課題にどう向き合っていくかには、実はそこに企業にとっての『機会』があるのではないか」と話した。

また相澤氏は政府などのパブリックセクターに対して、「ルールなどの発信が、我々のサプライチェーンまで届いているのか実感できない。意識啓発に力を入れほしい」と要望。明石氏も同意し、「理解しやすいよう、ハードルを低くすることが必要」と続けた。