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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ウクライナ後の世界で、経営に求められるエシカル視点とは

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奥森氏、小西氏、生駒氏、足立氏 (左上から時計まわり)

世界の持続可能性を根幹から揺るがすウクライナでの戦争が始まって4カ月が経った。メディアを通して見る現地の映像に今、自分に何ができるのかを改めて考えさせられている人が多いのではないだろうか。そんななか、CSRウクライナなどの呼び掛けで、24時間のチャリティーリレーセッション「サステナビリティ・フォー・ウクライナ」が行われ、日本からはサステナブル・ブランド ジャパンが参加した。3月に現地を取材したドキュメンタリー作家、小西遊馬氏の報告に始まり、ファッションの現場で長年、健全なものづくりと向き合ってきた関係者らが戦争と企業経営の在り方について交わした議論を紹介する。(廣末智子)

ファシリテーター:
足立直樹・サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー
パネリスト:
生駒芳子・日本エシカル推進協議会 副会長、ファッションジャーナリスト、アートプロデューサー
奥森秀子・アバンティ 代表取締役社長
小西遊馬・ドキュメンタリー作家、ジャーナリスト

戦場にも日常があり、喜びがあり、一人ひとりの風景がある

小西氏は3月中旬から約2週間、ウクライナのリビウやキーウで街や人々の様子を取材した。そこで痛感したのは、リビウとキーウでは状況が違い、「当たり前だが、どこに住んでいるかで人々は違う風景を経験している。『戦争』と一括りに語ることはできない」ということ。一方で、メディア側からは状況を一極化、単純化し、強い映像で伝えることが求められ、「(戦場にあっても)日常があり、喜びがあり、誰かが誰かを愛していて、という一人ひとりの風景を含めて発信することが難しい」ことに今も悩むという。

その葛藤に、日本エシカル推進協議会 副会長でファッションジャーナリストの生駒芳子氏は、「ウクライナもロシアもいちばんの犠牲は市民であり、死者数を報道するだけでは語りきれないドラマがある」と思いを重ねた。この間の報道では、キーウで爆撃を受けた花壇に市民が花を植える姿に「人の力のすごさを感じた」と言い、今の状況に「企業や、国の単位で何ができるかということもそうだが、私自身は人の力を信じたい」と強調した。

ここからセッションは世界的にエネルギーや原材料が高騰し、一部で物流がストップするなど、戦争がビジネスに及ぼしている影響について、サプライチェーンが長く、CO2排出量や水の使用量の多さから世界的な汚染産業とされるアパレルを例に議論が展開された。なかでも衣料品の98%を輸入している日本にあって、約30年前からオーガニックコットンを専門に扱い、主にインド産の原綿を日本国内で紡績し、製品化するまでの流れを一気通貫で担ってきたのが奥森秀子氏の会社アバンティだ。

サプライチェーンのつなぎ目つなぎ目で問題が起きている

奥森氏は、「ものづくりの大切さという意味において、グローバル化によるサプライチェーンの分断化がさまざまな問題を引き起こしている」と改めて指摘。一般綿の産地では児童労働が横行し、近年はウイグル族の強制労働問題がクローズアップされるなど、「サプライチェーンのつなぎ目つなぎ目で問題が起きているのが現実」であり、大量廃棄や大量焼却の実態が問題に拍車をかけているとする見方を示した。

その一方で同社はオリジナルブランドが誕生した25年前からメイドインジャパンの顔の見えるものづくりを徹底し、「絶対にセールはしない」方針を貫くなど、「(業界の慣行とは)真逆なことをやり続けて今がある」と胸を張る。

もっとも当初は地球環境のためにオーガニックコットンを使用していると説明しても、消費者の反応は「変わってるね」といったものだった。それが今、「持続可能」という言葉が浸透し、「気候変動問題が自分達の生活や命までもを脅かす時代になっているなかで、いつどこで誰がどのような環境でものを作っているのか、ということが分かるブランドに一票を投じます、という消費者が増えてきた」のを実感しているという。

エシカルとは「すべての生き物の命を慈しむ大きな傘」

「買い物は投票である」という言葉で表現されるエシカル消費(倫理的消費)。生駒氏は、2000年ごろから「ファッションの未来を導くのはエシカル消費しかない」という思いで、業界の動きを追ってきた。その根底にある考えは、時にサステナビリティが人間を中心に捉えられがちであるのに対して、エシカルは自然環境への配慮はもちろんのこと、「地球上すべての生き物の命を慈しむ大きな傘だ」というものだ。

日本エシカル推進協議会(JEI)では昨年、商品やサービスがエシカルであるかどうかを判断するためのJEIエシカル基準を策定した。消費者がそうした基準に当てはまる商品を買うことで、「企業自らがそういった消費者に応えるものづくりをしていける。ひいては社会がいい方向に向かう」と生駒氏は話す。そのけん引役としても注目されるのが2000年代以降に社会人になったミレニアル世代やZ世代だ。

Z世代である小西氏は、若者の間でエシカル消費の考え方が「浸透し始めてはいる」とした上で、「それを自分の美意識の中に取り入れて実際に行動を起こす人は非常に限られている」とする実感を述べた。エシカルな商品ほど価格が高くなるのに対しプラスアルファの金額を出すのは難しく、「より自分が美しく、カッコよくなれるか、ということの方が大事な時期だから」ということも理由にあるのではないかと見る。

この「カッコいい」という言葉に生駒氏は、「ファッションの入り口がまさにそこであり、エシカル消費への入り口もファッションによって開かれていると言えるのではないか」と指摘。なぜならファッションは今まさにSDGsやESG投資が追い風となり、ラグジュアリーブランドが先頭を切ってサステナビリティを標榜するなど、業界全体が大きくパラダイムシフトしている。そうした流れを「一過性のトレンドではなく、根本的な、そう考えることがカッコいい、という哲学にしていかなければならない」と考えるからだ。

目指す姿を掲げ、それを愚直に実行していくこと

セッションは最後に、ファシリテーターを務めた足立直樹氏から「戦争の早い終結を望むのはもちろんだが、復興に向けた道のりは容易ではない。そんななか、企業経営により一層求められる視点は何か」という質問がなされた。

「人としても企業としても、足元を見直し、スローダウンする。成長神話から自由になる。人間としてどうあるべきかを子どもたちにも、私たち大人にも考える時間が与えられるような社会にもっていくことがエシカルの一つの目標でもある」 (生駒氏)

「企業は今こそ、利益を、量的な成長を追求するのでなく、イノベーション成長ということを考える時にきているのではないか」 (奥森氏)

「若者世代は大人の欺瞞をすぐに見抜く。企業には自分達の限界を正直に吐露し、消費者とのコミュニケーションを育んでもらいたい」 (小西氏)

三人三様の回答に、足立氏は、「小西さんがウクライナで、メディアが戦争を分かりやすい方向に誘導し、そこにある一人ひとりの人間の生活をなかなか伝えられていないと感じているのと同じで、企業活動も内容を正直に話し、繰り返しコミュニケーションをとっていくこと、そして目指す姿を掲げてそれを愚直に実行していくことが重要ではないか。エシカルのほかにも、美意識や哲学、質的な成長といったキーワードが持続可能な経営につながる」と総括し、セッションを次のバトンへとつないだ。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。