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2050年を見据えたグリーン・イノベーターの育成を 

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「2030年までに、経済と環境の好循環を生む1000人のイノベーターを育成する」。そんなビジョンを掲げ、一般社団法人グリーン・イノベーションは2021年10月に「グリーン・イノベーター・アカデミー」を開講した。熱意のある若者約130人が参加し、実行委員や講師陣には、各界の一線で活躍する人材が名を連ねる。アカデミーが導く先には何があり、そして参加する若者たちは何を感じるのか。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜の基調講演には、同法人の共同代表を務める菅原聡氏と坂野晶氏が登壇し、アカデミーにかける思いや今後の展望を語った。(清家直子)

ファシリテーター:
青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサー
パネリスト:
菅原聡・グリーン・イノベーション 代表理事
坂野晶・グリーン・イノベーション 理事 共同代表

イノベーター育成のキーワードは「分野横断」と「世代縦断」

2050年までの脱炭素社会の実現を目指し、優秀で熱意のある人材の発掘と育成を図るために始動した「グリーン・イノベーター・アカデミー」。第1期には学生約100人と、企業の若手社員ら約30人が参加している。

坂野氏は、「今まさに意思決定していることが未来を決める。2050年の実現を目指すなら、今の延長線上を歩むのではなく、大きくジャンプする、つまりイノベーションを起こすことが必要。だからこそイノベーターが不可欠である。私たちは、その人材育成の機会や場づくりを提供したい」とアカデミー設立の動機を語った。

キーワードは「分野横断」と「世代縦断」。人材育成にかかわる実行委員は、業界・分野・世代を超えたメンバーで構成されており、その役割を「イノベーターの育成と共創を促す生態系を目指す」と菅原氏は説明する。講師陣の層も厚く、一線の専門家や起業家を招集。世界経済フォーラムのエネルギー部門ヘッド・Espen Mehlum氏や、東京大学理事の石井菜穂子教授、日本政策投資銀行の蛭間芳樹氏、自然電力の磯野謙氏、今治.夢スポーツ会長岡田武史氏をはじめ、さまざまなセクターの第一人者が若者を導いている。

アカデミーが重要視しているのは、「大局から学ぶ」姿勢。講義と対話を通じて、世界の潮流を、「グローバル」視点、日本という「ナショナル」視点、地域の「ローカル」、さらには「リーダーシップ」の視点で学べるよう設計されている。

一方で「フィールドワーク」の学びにも力点を置く。今期は昨年11月に全員が福島を訪れ、福島第一原子力発電所や帰還困難区域などに足を運んだ。このフィールドワークを通して受講生たちは、「震災から10年が経って、何が変化したのか、していないのか。現実を見た上で、どのような未来を私たちは描くべきなのか」(菅原氏)を考えたという。実際のフィールドワークの様子はこの動画から見られる。

これらの内容に対し、ファシリテーターの青木氏は、「アカデミーのスピード感とネットワークに驚いた」と発言。菅原氏はそれこそが、「地球環境に対する危機感を、さまざまなセクターの方が持っていることの表れだ」と語った。

大切なのは、「耳を傾ける」こと、「コンフリクトを力に変える」こと

会場には、アカデミーの受講生約30人が来場。このうち2人が登壇し、応募理由や学びを通じての感想を披露した。

京都大学大学院生は、アカデミーに参加した動機を、環境問題に対して何十年も前から問題提起されていることが改善されてないばかりか深刻化していることに対して憤りや無力感を強く感じていたため、「何か自分ができることの糸口を見つけられれば」との思いからだったと説明。そのうえで、アカデミーの初回に菅原氏が語った「イノベーターとは、誰かのせいにするのではなく、自分で未来を切り拓いていく人だ」という言葉がいちばん印象に残っていると振り返った。

なぜかというと、その時点では自分の中に「環境問題は先人のせい」という思いが強くあったから。しかし、その思いは変わる。「講師陣と対話を重ねるうちに、自分が白黒を決め、誰かのせいだと思っていたことがそうでもないかもしれないということを何度も経験して。他人の意見に耳を塞いで立ち止まるのではなく、耳を傾け、自分も思いを聞いてもらう。『対話』が大きなパワーを生むと実感しました」。そのような経験を経て菅原氏の言葉もあらためて「自分の実感として腑に落ちた」と言い、「今後、私のできることにその言葉が生かせるのではないかと感じている」と続けた。

また早稲田大学生は、受講理由を「企業が未来に向けてどのように事業をつくるのか、その事業を通じて理念や哲学をいかに実現するのかを知りたかった」と述べ、学びを進める中で、「イノベーターに必要なのは、自分の哲学や夢の実現のために未来を描く内向きの力と、そのビジョンを外に向けて実現する力。それを身に着けるためには、組織や立場の違いをコンフリクト(対立)させるのではなく、イノベーションを起こすための力に変換しなければ、と感じている」と手応えを語った。

「未来を見ることはできない、けれどつくることはできる」

学生たちの話を聞き終えた青木氏はアカデミーの今後の展望について2氏に質問。菅原氏は「イノベーションを起こすためには、イノベーターの存在とセクターと世代を超えた共創の促進が不可欠」と断言し、「目標は2030年までに1000人のイノベーターを育成すること。来年度からは海外の学生らも参加する予定で、われわれが持っている世界的なネットワークを活用し、優秀で思いのある人材を、国を超えて育てたい」と話した。

さらに、菅原氏はアカデミーの成果の重要な側面として「仲間の存在」を挙げ、「ここで学んだ仲間は、世代を超え、業界業種を超え、志でつながっている」と強調。坂野氏とともに、アカデミーで培った若者たちのネットワークが、企業の枠を超え、行政と協働しながら、次世代へとつながっていくことに確信と期待を込めた。

坂野氏は、約半年のアカデミーの活動を振り返って、「本当に成長するなって。私たち自身もそうだが、参加生も運営側も」と大きな手応えを感じていることを表明。最後に、「未来を見ることはできない、けれどつくることはできる」とするキャッチコピーを示しながら、「思い描く未来があるなら、自分が変化を起こす。これがイノベーターに大切なマインドです」と強調した。一方の菅原氏も「見たい世界があるのなら、自身が変化になりなさい(Be the change that you want to see the world)。これがイノベーターの真髄です」とするガンジーの言葉を引用し、両氏ともにイノベーションの原点となるものの大切さを訴えて、講演を終えた。