サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

サステナビリティが経営を変える時代 トヨタとサントリーが語る多様性と人間重視の視点

  • Twitter
  • Facebook

サステナビリティも年々進化し、サステナビリティに取り組み、経営や企業活動を転換させていくSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の時代が来ている。サステナブル・ブランド(SB)国際会議2022横浜では、日本を代表するブランドであるトヨタとサントリーから、サステナビリティの担当責任者が登壇し、経営とサステナビリティの関連性について、それぞれの会社の強みに基づいた方針が語られた。(いからしひろき)

両社に共通する、自社の強みを生かしたサステナビリティ戦略

ファシリテーターは、SB国際会議サステナビリティ・プロデューサーの足立直樹氏。パネリストにはトヨタ自動車執行役員でチーフ・サステナビリティ・オフィサーの大塚友美氏、サントリーホールディングス執行役員でサステナビリティ経営推進本部副本部長の藤原正明氏を招き、3者が対話する形で行われた。

まずは両社の取り組み事例の紹介から始まった。

サントリーには、CMでもおなじみの使命「人と自然と響き合う」に根ざしたサステナビリティ経営の目標として、「水」「CO2(GHG)」「原料」「容器包装」「健康」「人権」「生活文化」の7つの目標があると藤原氏。特に重要視しているのが「生活文化」で、その理由を「人生に潤いは絶対に必要。文化創造が経済発展の基盤になっているため、文化活動も含めて力を入れている」と述べた。

また2030年までの達成目標を掲げる「水」「プラスチック」「CO2」の3項目に関する最新のトピックスを紹介。この中で「水」の分野で行われている、ウイスキーづくりに欠かせないスコットランドの泥炭地の保全活動について、これまでの水源保全活動を通じて「森や大地がさまざまな生物によってダイバーシティな状態にあることが水質の良さにつながる」という気づきから生まれた取り組みであり、同時に「スモーキーさのないウイスキーはありえない」ことから、製品の品質にも直結する問題として力を入れていることが説明された。

一方、トヨタの大塚氏は、同社が水素エンジンの車でレースに出た時の写真をスクリーンに映し出し、「これがトヨタの変革を象徴するプロジェクト」と語った。というのも、同社が掲げる2050年のカーボンニュートラルの達成には、レース現場で求められる「アジャイル(迅速)な研究開発」が必要不可欠と考えているからだ。

さらに大塚氏が強調したのは、さまざまなステークホルダーと志を共有し、共にチャレンジしていくことの重要性。同社はそうした連携もレース参加を通じて培ってきたという。

さまざまなステークホルダーから共感を得るためには、発信の仕方も大事だ。こだわっているのはやはりレース現場からの発信で、「楽しくも苦しみながら優勝や完走に挑戦するレースチームの姿に、未来に向かって努力する同社のイメージを重ねて見てほしい」と強調した。

昨年末のバッテリーEV戦略に関する説明会では、2030年までに市場に投入する全30車種のうち16車種を現場で披露し、大きな反響を呼んだ。これについて大塚氏は、「数字だけではなく、行動と商品を通じてコミュニケーションをすることが共感につながる」と説明。トヨタのイメージ戦略の一端を垣間見せた。

さらに大塚氏は「変革する人が変人じゃないと話は進まない」という豊田社長の言葉を紹介。変人とはもちろん豊田社長本人のこと。企業トップ自らが、「たとえ変人と言われても意志と情熱を持って行動していくことが大事」と説いた。

これからのサステナビリティには美しさや楽しさも重要なポイント

両社のサステナビリティ活動への反響について、まずサントリー藤原氏は、一昨年リニューアルした伊右衛門のラベルレスボトルを例に挙げた。本来、緑茶ならではの美しいグリーンの色合いを見せるためであったが、「分別しやすくエコだ」という声が多数寄せられたという。

藤原氏は、「消費者の環境意識は確実に上がっている。メーカーはサステナビリティという一つの軸だけではなく、商品全体でその価値を打ち出し、(それを消費者に)自然な形で受け止めてもらえるようにすることが大事だと」述べた。

トヨタの大塚氏は、自社のコンパクトカー「ヤリス」が、環境意識の高い欧州のカー・オブ・ザ・イヤーをEV車をさしおいて受賞していることに触れ、「ポイントは環境にいいことと同時に運転していて楽しいということ。環境保全も運転の楽しみも両方を追い求めていきたいという欧州の人たちの気持ちの表れだろう」と率直な意見を語った。

国ごとの反応や要望については、両社で回答のニュアンスが異なった。

大塚氏は、トヨタが地域本部制を敷いていることを紹介。「その地域でやれることは何か」を考えるアプローチをとっており「大事なのは街で一番の企業になること」と、画一的なグローバル戦略を否定した。

藤原氏は、「期待しているのはアジア」と具体的な地域を挙げた。その理由を、「若い人が多く、サステナビリティが自分ごと化されている」から。社会インフラは未整備ではあるが「一気にイノベーションが起こる可能性はある」という。まずはペットボトル回収について同地の若者たちと取り組みたいそうだ。

ファシリテーターの足立氏は、特にトヨタの「多様性」とサントリーの「文化重視」の姿勢を高く評価。「環境保全のためにはただストイックに取り組めばよいだけでなく、一人も取り残されず人間らしいゆとりをもったやり方が必要」と説き、「皆さんも両社のように大切にしている思いがあるはず。そしてサステナビリティがスパークを起こし、次の変化につながることを期待している」と会場に訴えかけて幕を閉じた。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。