サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

地産地消による持続可能な航空燃料の普及へ 国内サプライチェーンは実現するか

  • Twitter
  • Facebook
乾氏、西村氏、上野氏、米山氏 (左上から時計まわり)

世界の航空業界は2050年の脱炭素社会に向けて、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)と呼ばれる次世代の航空燃料の普及に尽力している。SAFは、廃食油や農業残渣、都市ごみ、剪定枝など現在廃棄物として処分されているものを原料とし、日本でも国産のSAFの量産・普及が急務とされる。そもそもSAFはなぜ重要で、実現にあたって何が課題とされるのかーー。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、国産SAFの普及に取り組むANAとJAL、小田急電鉄の3社が意見を交わした。(井上美羽)

ファシリテーター:
西村勇毅・日揮ホールディングス サステナビリティ協創部プログラムマネージャー
パネリスト:
乾 元英・全日本空輸 企画室企画部 マネジャ
上野和孝・日本航空 総合調達部 燃料グループ グループ長
米山 麗・小田急電鉄 経営戦略部 ウェイストマネジメント事業WOOMS DX推進マネジャー

ANAはコロナ禍で大きな影響を受けている最中の一昨年、輸入SAFの本格的な利用を開始した。同社の乾元英氏によると、出張や貨物の輸送にSAFを使ったフライトを選択した利用者や企業にその環境価値を証明書として提供する取り組みなどを実施。「サプライヤーの皆さんにSAFの量産を促すシグナルとして、SAFを一緒に使っていこうという気運をつくっている」という。

ANAは2050年に航空分野の二酸化炭素排出量を実質ゼロに持っていくために、これまで省燃費性能の高い最新鋭航空機の導入を進めてきた。しかし、それだけでは脱炭素の実現は難しい。国際航空研究機関のATAGの推測では、2050年までに新技術の開発により12%、運行方式の改善により9%、排出権取引などにより8%の削減が見込まれる中、SAFの導入は71%もの削減ができるという研究結果もある。

JALの上野和孝氏も同じように「2050年のカーボンニュートラル社会において航空燃料の主体はSAFになる見込みだ」と話す。同社の試算でも、水素や電気で動く中型・大型航空機の2050年までの実現は難しく、やはりSAFの活用を45%まで引き上げることを目指すことで、CO2排出量実質ゼロに向けたロードマップが現実的な目標として見えてくるという。

しかし、SAFは継続的な原料調達が難しいのが現状の課題であり、かなり高価な燃料であるため、需給ギャップが非常に大きく、世界のSAF生産量は需要の0.03%にとどまっている。日本でもANAとJALの共同研究により将来、2300万キロリットルのSAFを国産で賄うことが必要なことが分かっている。そうしない限り世界の航空業界から取り残されてしまうというリスクがある中で、国内での量産と普及が急務であると乾氏と上野氏は口を揃える。

「欧米で普及しているSAFが日本を出発する航空機に積めないとなると、外国の航空会社は日本に就航し続ける限り、脱炭素を達成できないことになる。サステナブルな燃料でなければ飛んでこないでねという規制が入れば、運行できなくなる可能性すらある。一方で、日本の中で必要な原料を循環型で調達し、国産SAFをつくることができたら、日本が燃料を自給自足できるようになるチャンスだ」 (乾氏)

課題は原料の調達と技術開発であり、この複雑な課題の解決にはいろいろなセクターの力が必要となる。原料の安定的な確保や、SAFの生産・供給、利用の促進につなげるための支援やインセンティブ制度の構築など、横断的な協力の輪を広げ、オールジャパンの取り組みにしていくことが重要だ。

一方、国産SAFの普及によるサーキュラーエコノミーの構築を目指す企業の一社、小田急電鉄からは、SAFの普及においてボトルネックとなっている原料調達の分野において解決の糸口を見出していることが報告された。

米山麗氏によると、鉄道、不動産という、これまで「動脈側」の事業を柱としてきた同社は、今、「静脈側」に目を向け、WOOMSというウェイストマネジメント事業を立ち上げて、廃棄物の収集と運搬を支援する新たなインフラの共創を目指している。現在、廃棄物の収集運搬効率化の実証実験を神奈川県座間市で行なっており、平均積載量の増量や運搬回数の削減等によって生まれた余力を新たなリサイクルに活用。具体的には剪定ごみだけを回収し、バイオマス燃料の原料として地産地消のエネルギー化につなげているという。

廃棄物や資源を効率よく大量に収集することは、SAFの自給自足を実現する上で重要な課題であり、小田急の取り組みは注目に値する。ファシリテーターの西村勇毅氏は「これこそ、地産地消、資源循環につながる重要なアプローチだ。市民や企業、ステークホルダーと共に手を取りながらSAFの普及に向けた機運の醸成や、行動の変革につなげていきましょう」と呼びかけた。

井上美羽 (いのうえ・みう)

埼玉と愛媛の2拠点生活を送るフリーライター。都会より田舎派。学生時代のオランダでの留学を経て環境とビジネスの両立の可能性を感じる。現在はサステイナブル・レストラン協会の活動に携わりながら、食を中心としたサステナブルな取り組みや人を発信している。