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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

分野・世代を超えた協創へ前進 SBのユースコミュニティも発足ーーサステナブル・ブランド国際会議2022横浜2日目

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「リジェネレーション(再生)」を軸により良い未来への道筋を示すため、今年もパシフィコ横浜ノース会場とオンライン配信によるハイブリッド開催で行われたサステナブル・ブランド国際会議2022横浜。2日目の基調講演には、日本企業からトヨタ自動車とサントリーのサステナビリティを統括する執行役員や、脱炭素社会の実現に向け、経済と環境の好循環を生むグリーンイノベーターを育成するNPO代表らが登壇し、業界や分野、世代を超えて共創を加速させるための議論が繰り広げられた。サステナブル・ブランド ジャパンの新たな取り組みとして、高校生や大学生を対象とするユース・コミュニティ「nest(ネスト)」の発足も発表された。本会議2日目の基調講演の様子をリポートする。(廣末智子・小松遥香)

「アジアの力を世界へ」TBSアナウンサー秋沢氏

オープニングは、TBSでアナウンサーを務める傍ら2000年にアジアの子どもたちと交流するNGOを立ち上げ、活動を続ける秋沢淳子・TBSホールディングス総務局CSR推進部部長が登壇。「アジアの力を世界へ」と題し、最新のテクノロジーを使ってアジアのアーティストを発掘・支援するプロジェクトについて語った。

具体的には技術と才能に溢れた絵画をバーチャル美術館に展示し、鑑賞にとどまらず、ブロックチェーン証明書となるICタグ付きで販売することで、作品が二次使用される場合にも作家に売り上げが還元される仕組みを構築。2021年にはスリランカとカンボジア、タイなど6カ国から約2000点の作品が集まったという。

「当然ながら、アジアにも素晴らしいクリエーターがたくさんいます。そういう人たちをまずはアジアのネットワークで底上げし、次にその人たちが地域の子どもに絵を教えるといった活動につながっていけばいい」。壇上のスクリーンにはアジアの宗教や文化に根差した輝くアートと作家の笑顔が次々と映し出された。

自然界におけるリジェネレーションに学ぶ

「バイオミミクリー(生物模倣)」の第一人者として知られる生物学者、イノベーション・コンサルタントのジャニン・ベニュス氏が米国からオンライン登壇した。バイオミミクリーは、自然界のデザインやプロセスを模倣し、より健全で持続可能な地球を実現するための学問領域。これまでにさまざまな企業と連携して製品開発などを行ってきたベニュス氏は、世界中のさまざまなバイオミミクリーの事例を用いて「自然界におけるリジェネレーションの基本原理」について解説した。

「リジェネレーションとは、壊れたものが癒され、再び完全なものになる過程。リジェネレーションの根底には共生がある。自然生態系において、生物がコミュニティを補充し、コミュニティが生物を補充しているように、リジェネレーションは相互作用によって実現される。地球に存続するために、人間は癒す方法を学ばなければならない。その力が人間にはある」

グリーンイノベーターを2030年までに1000人育成

続くセッションには、2030年までに経済と環境の好循環を生む1000人のイノベーターを世界規模で育成することを掲げる一般社団法人グリーン・イノベーションの共同代表を務める菅原聡さんと坂野晶さんが揃って登場。青木茂樹・SB国際会議アカデミックプロデューサーが今、大学生やミレニアル世代の社会人を集めて何を始めようとしているのかを二人に聞いた。

「社会のトランジション(移行)をいかに加速させていくか。地域単位でできることはたくさんあるが、一つの地域でできたことを社会全体に広げるためには大局的に取り組まなければ。大切なのは場づくりと前進する力だ」(坂野さん)

「脱炭素を巡る流れは単純な環境政策だけではなく、産業政策であり、非常に大事なイノベーションを起こしていかなければならない。共創を促す仕組みづくりが求められている」(菅原さん)

共に世界経済フォーラムのユースコミュニティ出身で、息の合う二人の投じた一石。昨年10月に開講した育成プログラム「グリーン・イノベーター・アカデミー」には大学生と企業の若手リーダーに若手官僚も含めた130人が参加。脱炭素についてのさまざまな座学に加え、福島を訪ねて「原発を否定するのでも肯定するのでもなく現地で何が起きたのか自分の目で見る」フィールドワークなどを行っている。この日、セッションの会場にはその受講生もおり、「活動に参加して、価値観の違いはあっても対話を重ねることでパワーが生まれるのを強く感じた。イノベーターとは誰かの責任にするのではなく、自分で未来を切り拓いていく人だということが実感として腑に落ちた」と参加者に語った。

エネルギーを巡るグローバルトレンド

PwCオランダのエネルギー・公益事業の専門家イェロン・ファン・フーフ氏は、「未来のエネルギーシステムの創造に向けて」と題して今後の世界的動向を解説した。同氏もまた、関連産業のみならず政策立案者や研究機関、投資家、多国籍組織などのリーダーシップが不可欠だとし、分野を横断した変革が脱炭素実現に求められることを強調した。さらに、今後起きるエネルギー技術の転換は社会の混乱と変革をもたらすとし、エネルギー文脈における次の大きな流れは「技術革新の壮大な計画ではなく、社会のあらゆるレベルの人々やコミュニティによる何千もの小さなステップを共に築いていくこと」と語った。

また、パリ協定の1.5度目標を実現するには世界の脱炭素化率を8倍にさせていかなければならないと指摘。そのためにも重要となる化石燃料を使用しないグリーン水素について、現在は高価だが今後は継続的に価格が下がるとの見方を示した。世界的には、広大な未開発の土地があり豊富な再生可能エネルギーを持つ国々がグリーン水素の余剰分を輸出する戦略を展開している。最後に、気候変動対策には、資源の利用方法にイノベーションを起こし、価値を創造する新たな方法を模索し、直線型経済から循環型経済「サーキュラーエコノミー」へと移行していくことも重要だとした。

「SXが経営を変える」トヨタとサントリーが対談

「サステナビリティが経営を変える」と題したセッションには、トヨタ自動車の執行役員でチーフ・サステナビリティ・オフィサーを務める大塚友美氏と、サントリーホールディングス執行役員でサステナビリティ経営推進本部副本部長を務める藤原正明氏が登壇し、足立直樹・SB国際会議サステナビリティプロデューサーと対話した。

「人と自然と響き合う」に根差したサステナビリティ経営を行うサントリーが力を入れているところとして、最初に藤原氏は「人生には潤いが必要であり、文化創造を経営発展の基盤と考えている」と強調。その上で、最近のトピックスとして、ウイスキーづくりに欠かせないスコットランドの泥炭地(ピートランド)の保全活動に取り組み、保水機能や水品質の向上、生物多様性の保全やCO2の排出抑制にもつながるなどさまざまな効果を上げていることを報告した。

一方のトヨタは、開発中の水素エンジンを搭載した車両で、豊田章男社長が「モリゾウ」としてスーパー耐久レースに参戦した写真を「トヨタがサステナビリティを軸に変革していく象徴」として最初に紹介。脱炭素社会の実現に向け、「多様な人のニーズに寄り添い、多様な選択肢で、カーボンニュートラルとモビリティ・フォー・オールを両立する」同社の考えをあらためて示した。その原動力となるのがトヨタ生産方式で培われたノウハウであり、「勝つ、完走する」という目的に向かってチームが一丸となって開発のスピードを上げて仕事をするモータースポーツだという。

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)について話すことを豊田社長に伝えたところ、「『変革する人が変人でないと変革は進まないよ』と言われた」と大塚氏。豊田社長について「現場主義で行動力が尋常じゃなく、周囲を驚かせる」とした上で、「変革をリードするには、たとえ変人と言われても、意志と情熱を持って行動することが必要ということ」と社長自身の言葉を用いて語った。

藤原氏からはSXを進める上で嗜好品を販売する会社としてストイックに環境目標を達成するだけでなく、「人が生きていくための潤いやゆとり、人間の生き様が継続できるサステナブルな社会にしたい」というサントリーの思いも聞かれた。足立氏は、多様な人にフォーカスする視点を忘れず、一人ひとりの人間を大切にしながら、変化を起こすことの重要性を強調し、セッションを締めくくった。

SBジャパン、ユースコミュニティを発足

最後に、サステナブル・ブランド国際会議に学生招待枠で参加してきた16歳〜25歳までのユースが集うプラットフォーム「nest」の設立が、プロデューサーを務める横浜国立大学都市科学部2年生でDesign,more. 代表の入江遥斗さんから発表された。年に2〜3回の対面でのイベントを開催するほか、月に1回のペースでワークショップや講義、ディスカッションをオンラインで行い、サステナブル・ブランド国際会議などで発信を行う計画。参加者を3月7〜25日の日程で募集している(募集要項)

入江さんは、「国際的な課題に危機感を持つだけではなく、健全な知識や本質的で多角的かつ現場からの知識を学び、個人の視点から社会的課題、世の中の視点まで行ったり来たり、視点を往還する能力を持ったチェンジメーカーを輩出していきたい。活動の年間計画は、インプット期と企画活動期に分かれている。インプット期では、会場にいる皆様にご協力をいただき、また参加するユースのみなさまの希望や興味、課題意識にあわせてプログラムを構築していきたい。皆様の声を聞かせてほしい」と呼びかけた。