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生産者と寄付者がつながり、食文化を次代に残すふるさと納税を ポケットマルシェが新サービス

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返礼品の豪華さや“お得さ”でなく、生産者とのつながりに価値を見出してもらおうと、国内最大級の産直アプリを運営するポケットマルシェ(岩手県花巻市)が27日、生産者と寄付者とが直接やり取りを行う、新しい形のふるさと納税サービスを始めた。自治体が介在する従来のふるさと納税と違って、生産量の少ない食材や供給が不安定な鮮魚などを扱う生産者も参加しやすいことから返礼品のラインナップが増え、発送までの日数も短縮できるのが特徴。さらに返礼品の生まれた背景や魅力を生産者が直接伝えることで、消費者である寄付者が、ご当地グルメとして以上の返礼品の価値に気付き、生産者のファンになることで双方向のやりとりにつなげ、ひいては「日本の多様な自然に紐づいた食文化を次世代へと残していく」ことを目的としている。(廣末智子)

「ポケットマルシェ」は、全国の農家や漁師と直接やりとりをしながら旬の食べ物を買うことのできるプラットフォーム。東日本大震災をきっかけに、1次産業の生産者を経済的、そして精神的に支援していくため、生産者が価格決定権を持った上でなぜその価格なのかを消費者に説明し、価値を理解してくれる消費者に買ってもらう仕組みの構築を目的として開設された。2016年9月にサービスを開始し、現在、北海道から沖縄まで約5900の農家・漁師が生産者として登録。約1万2000品の食材が出品され、約37万人の消費者がユーザーとして利用している。

返礼品の豪華さ競う傾向大 従来のふるさと納税の課題打破へ

この生産者と消費者がつながる仕組みをそのまま生かし、従来は寄付者と生産者の間に「自治体」が入る仕組みで成り立っていたふるさと納税の形を大きく変えたのが今回の新サービスとなる。従来の制度では自治体が業務として実施していた返礼品の生産者の開拓や管理などもポケットマルシェや登録生産者が行うことで、何より自治体間で返礼品の豪華さを競い、それに引かれて消費者が納税先を選ぶといった傾向の強いふるさと納税の課題を打破することが大きな狙いだ。

生産者にとっては、これまでふるさと納税の返礼品の対象にはなりにくかった数に限りのある食材や旬が短い食材、獲れる日が確定していない鮮魚なども出品しやすい仕組みであるため、返礼品のラインナップが格段に広がる。また申し込みから発送までの平均所要日数は4・5日と短く、最短で翌日に届くことから、寄付者は従来の制度に比べて返礼品を早く受けとることができる。

納税するには、アプリやECサイトの「ポケマルふるさと納税」から食材を探し、その詳細説明が記載された画面から申し込む。納税はポイント制で、納税額1000円ごとに300ポイントが自治体からの返礼として付与される仕組み。この付与されたポイントを使用して、生産者の出品する食材を注文する流れになっている。

「生産地を“第2のふるさと”に」 関係人口増大へ

同社によると、「ポケマル」のユーザーは同じ生産者のリピーターになる確率が高く、実際にアンケートを行ったところ、生産者575人のうち10%以上が「『ポケマル』を通じて知り合ったユーザーが生産現場に遊びに来た」と、またユーザー500人のうち7割以上が「生産者を実際に訪ねたい」とする回答を得たという。さらにユーザーの6割以上が「出身地および現居住地以外でかかわりを持ち、ふるさとのように感じられる地域を持ちたい」と答えていることからも、ふるさと納税の新サービスをきっかけに生産者のファンがさらに増え、生産地を“第2のふるさと”のように思う“関係人口”の増大につながることを期待している。このため返礼品には、食材だけでなく、実際に生産地を訪問したり、コロナ禍においては生産者とオンラインで交流するプログラムなども用意している。

真鯛zoom捌き教室

27日に開かれたオンライン会見には、生産者の中から、「真鯛zoom捌き教室 鯛めし 干物付き」の体験商品(納税額1万7000円、送料無料)を返礼品として出品している三重県度会郡南伊勢町の水産業、橋本純さんが出席。コロナ禍で養殖業界もピンチに立たされる中、こうしたオンライン教室を通じて漁師として多くの消費者とコミュニケーションを取り、魚の美味しさを伝えてきたことを報告した。ポケマルを通じてコロナ禍でも実際に訪ねてきてくれた消費者も多く、中には結婚記念日に漁師体験を楽しんでくれた消費者もいたという。

「南伊勢町は80%以上が高齢者で、高齢化率では三重県でもトップを走っている。ふるさと納税が、そんな地域に人が来てくれるきっかけになり、地域を維持できる形につなげていければありがたい。こうした関係人口の作り方がこれからのニューノーマルになるのかなと思っています」。これまで通りのポケマル上での販売方法を維持しつつ、その商品がふるさと納税に組み入れられるというシステムが生産者にとっても参加しやすいことがメリットで、今後は、漁師体験と宿泊券がセットになった商品や貸し切りのプライベート商品なども返礼品に加えていく予定という。

同社によると27日時点でふるさと納税サービスには、北は北海道余市町や青森県深浦町、岩手県花巻市、南は和歌山県有田川町、和歌山県白浜町など20自治体の約200人の生産者が参画。さらに2022年度中に100自治体の参加を目指している。現在、生産者と消費者が直接やり取りができることを最大の特徴とする「ポケマルふるさと納税」の仕組みで特許を出願中という。

『東北食べる通信』を創刊したことでも知られる高橋代表

会見に臨んだ高橋博之代表は、「日本中を歩いていろんな自治体の方とお話しする中で、返礼品合戦のようになってしまっている既存のふるさと納税に対する疑問の声を多く聞く一方、生産者からは、一部の特定の高級食材しか返礼品に選ばれず、返礼品になったとしても寄付してくれた方とつながることができないので、お客さまとしてつなげていくことができないという実情を聞き、それならばこういうふるさと納税があればいいのではないかと考えた。本来の地方活性化の趣旨に立ち返るための制度にし、自治体や生産者の底力につなげていきたい」と力を込めた。

ふるさと納税は菅義偉首相が総務相時代に主導し、2008年から始まった制度。生まれ故郷や自分の応援したい自治体を選んで寄付すると特産品や宿泊券などの返礼品がもらえ、寄付金のうち2000円を超える部分については所得税の還付や住民税の控除など、税制面で優遇措置が受けられる。コロナ禍の“巣ごもり消費”の増大を背景に、2020年度は過去最多の6724億9000万円の寄付があった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。