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日産・内田社長、カーボンニュートラルと人権対応の姿勢を強調

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7月30日「日産サステナビリティセミナー」に登壇した日産自動車の内田誠社長兼CEO

日産自動車(以下、日産)は30日、2021年度版のサステナビリティレポートの発行に併せ、「日産サステナビリティセミナー(共催:サステナブル・ブランド ジャパン)」を開催した。同社は今年1月、2050年までにカーボンニュートラルを実現する目標を発表。今回のセミナーでは、社長兼CEOの内田誠氏がその進捗と詳細、サステナビリティに関する方向性を説明した。内田氏は「カーボンニュートラルを目指した取り組みと、サプライチェーン全体の人権に対する取り組みは常に両立しなければならない」と強調。ルールづくりだけでなくガバナンスの強化にも着手しているという。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

積み重ねた実績を将来の目標達成に生かす

日産は「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。」というコーポレートパーパスを実現するため、サステナビリティをビジネスの中心に据えた企業活動を行っている、と内田氏は説明した。セミナー当日に発表されたサステナビリティレポートには成果と進捗の詳細がまとめられているが、内田氏はESGに絞ったレポートのポイントと経営への思いを語った。

2010年に発売されゼロエミッション・カーとして注目を集めたEV「日産リーフ」開発の背景にあるのは、2002年から続く会社全体の環境対策活動「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」の推進だ。同社はすでに20年近く、環境への対応をグローバルで継続してきた企業だ。今年3月から始まったフォーアールエナジー(神奈川・横浜)との連携による、EV用バッテリーの二次利用事業にも、リーフで培った10年の経験とノウハウが生かされているという。

また社会性(Social)に関するサステナビリティの目標として同社は「日産車が関わる死亡者を実質ゼロにする」ことを掲げている。ここでも、運転支援技術のパイオニアとして20年間以上に渡って技術革新をリードしてきた継続の実績が生かされる。

「クリーン」「安全」「インクルーシブ」な社会の実現へ

これからの日産のサステナビリティへの取り組みの方向性には、以下の3つの重点テーマが設定されている。

・電動車両とものづくりの技術革新がもたらすよりクリーンな社会の実現。
・誰もが安心して安全に移動することができるより安全な社会の実現。
・あらゆる人々が参画し健康で幸せに生きられるよりインクルーシブな社会の実現。

このうち、内田氏は「クリーンな社会の実現」について語った。

日産は今年1月、2050年までに事業活動を含むクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを実現する新たな目標を発表した。目標達成に向けた第一歩として、2030年代早期から、主要市場の日本、中国、米国、欧州に投入する新型車をすべて電動車両とすることを目指している。

内田氏は改めて「目標の達成には異業種との連携が不可欠だ」と確認。自動車メーカー単体でなく、車のライフサイクル・マネジメント全体で働きかける必要があり、さらに各国政府と企業が一体になって取り組むことが求められるとした上で、熱を込めて次のように語った。

「カーボンニュートラルを目指した取り組みと、調達を含むサプライチェーン全体の人権に対する取り組みは、常に両立しなければならない。つまり価値を追求する大前提として、あらゆるステークホルダーの人権を侵害することがあってはならないということだ」(内田氏)

日産の創業以来の精神、DNAは「他がやらぬことをやる」だ。内田氏は「日産は今後もこの精神で、よりクリーンで、安全で、インクルーシブな社会を実現するため、皆さんとともに全力で取り組んでいきたい」と決意を新たにした。

人権課題重点、ガバナンス向上が「最重要課題のひとつ」

日産自動車の田川丈二氏専務執行役員/チーフ サステナビリティ オフィサー

内田氏に続いて登壇した専務執行役員/チーフ サステナビリティ オフィサーの田川丈二氏は、重点課題について具体的に解説を行った。ESGのうち環境課題は「気候変動」「資源依存」「大気品質」「水資源」という4つの課題を特定し、課題解決に向けて自社の果たすべき役割を明確にしているという。

社会課題について田川氏は、内田氏に続き「日産はすべてのステークホルダーの人権を尊重し、いかなる差別も、サプライチェーンにおけるいかなる人権侵害も容認しない」と断言。また交通安全については、日産車のかかわる死者数を実質ゼロにする「究極の目標」の実現を目指す。

コーポレートガバナンスの向上は「経営に関する最重要課題のひとつとして取り組んでいる」と田川氏は説明する。日産は2019年6月、明確な形で執行と監督・監視・監査を分離できる指名委員会等設置会社に移行し、ガバナンスの強化と経営の透明性を確保している。またコンプライアンスの強化に取り組み、すべての従業員に高い倫理基準に従って誠実に行動することを求めているという。

「単に正しい行為だからそうするというだけでなく、そうすることで全従業員が最高のレベルで業務を遂行することができる」(田川氏)

さらに「D&Iは極めて重要」として、環境と人権に配慮した持続可能なサプライチェーンの確立も目指す。グローバルな行動規範や人権尊重に関する基本方針を発行しているが、ルールづくりだけではなく、CSOの田川氏が議長を務めるグローバル・サステナビリティ・ステアリング・コミッティなどで人権に関するガバナンスを推進。意思決定プロセスに組み込み、浸透と定着を目指している。

日産は主要な市場において、新車からのCO2排出量を2022年度までに40%削減(2000年度比)する目標も掲げ、2020年時点ですでに37.4%の削減を実現した。

「2050年カーボンニュートラル」という目標に向けて、今後の電動化推進のカギは「バッテリーの技術革新」と「e-Powerの効率向上」の2本柱だという。リーフの発売以来EV用バッテリーは技術革新を続け、現在はコバルトフリーバッテリーや、全個体電池の開発にも取り組んでいる。ガソリンエンジンとモーターのハイブリッド機構「e-Power」については、世界最高の熱効率50%を実現するなど、効率を向上し採用拡大を進める。

日産の覚悟と変化

左から田川氏、内田氏、ファシリテーターの田中氏

三者鼎談では、ファシリテーターをサステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサーの田中信康氏が務めた。内田氏は「過去にできていなかったことを振り返って、すべてのステークホルダーに対していかに透明性をもって、敬意を表しながら信頼関係を構築できるか、ということを考え、NISSAN WAY(従業員の心構えと行動の指針)を見直した」と同氏の就任以来の取り組みを振り返った。特にコーポレートパーパスについては、議論を重ねたという。

「NISSAN WAYもガバナンスも、仕組みをつくるだけでは意味がない。血を通わせ、日々それを意識しながら仕事をすることが必要だ。そのためにコーポレートパーパスを掲げた。(社内浸透は)やはり現場に足を運び、従業員と対話をする。現場の方が言っていることは80%正しい。それを会社が向かうべき方向にガイドするのが上司や、われわれ経営層。

日産とはどういう会社か、何を提供するのか、今まで何をやってきたのかをシェアしながら、『日産で良かった』と一人でも多くのお客様に言っていただきたいし、従業員には会社を誇りに思ってほしい。(そうすることで)本当の意味で企業活動のサステナビリティを図ることができる。

(継続する、言い続けるということか、という投げかけに対して)覚悟がなければ伝わらない。覚悟を持って会社を変える。日産がずっとやってきたESGで、再び会社を輝かせたい」(内田氏)

田中信康・サステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサー

日産は今年7月、欧州におけるカーボンニュートラルの実現に向けて、世界初のEV生産のエコシステムを構築するハブ「EV36Zero」を公開した。欧州で販売されるすべての日産リーフの製造に必要な電力を再生可能エネルギーで賄える20MWの太陽光発電施設を持つ、英サンダーランド工場を基盤とした包括的なプロジェクトだ。「日産は気候危機に対し先進的な技術をもって解決を目指している。どのような思いがあるか」との田中氏の問いに、内田氏は「カーボンニュートラルは待ったなし」と課題の喫緊性を強調。

田川氏は「ESGへの取り組み、カーボンニュートラル、SDGsに取り組む先には、常に気候変動への対応がある。気候変動という課題の中で、地球・人類が存続するために何ができるかを考え始めた」と課題を自分事として捉え根本的な解決を目指す考え方への日産の変化を述べた。