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大和ハウス、2030年までに建築物における森林破壊ゼロへ サプライヤーに先住民の人権配慮など具体策求める

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Frédéric Perez

大和ハウス工業は、2030年までに建築物における森林破壊ゼロを目指す方針を策定した。建物の木材調達に伴う森林破壊を根絶するための4つの方針を掲げたもので、国内のサプライヤーに対し、国際機関の認証を得るなど森林保全を考慮した木材であるのはもちろん、原産国の先住民や労働者らの権利、安全など人権面にも配慮した木材を供給することを盛り込んだ。森林破壊は近年、南米アマゾンやアフリカ、東南アジアなどで急速に拡大しており、生物多様性の喪失や地球温暖化に直結する。さらに新型コロナウイルスのような動物由来の感染症を引き起こすリスクもあるとされ、国内外の企業が「森林破壊ゼロ」を宣言する動きが出ている。同社は2055年までに、全事業の材料調達においても森林破壊を根絶する考えをすでに示しており、今回そのための具体策を打ち出した格好だ。(廣末智子)

同社が今回、建設する建物の木材調達に伴う森林破壊を2030年までに根絶するために策定した4つの方針は以下の通り。

1. 森林破壊ゼロを掲げるサプライヤーから木材を購入
同社のサプライヤーに対して、2030年までに森林破壊ゼロの方針を策定するよう要請する。この方針を策定しないサプライヤーからの木材調達は原則禁止とする。

2. 原産国における先住民、労働者の権利、安全に配慮した木材を取り扱うサプライヤーから購入
原産国の人権侵害防止や安全性重視のため、サプライヤーに2030年までに労働や人権に関する方針策定を要請。これについても、こうした人権に関する方針を策定しないサプライヤーからの木材調達は原則禁止とする。

3. トレーサビリティが確保された木材を購入
適切な方法で伐採された木材の利用を推進するため、生産から消費までの過程を追跡・確認するためのトレーサビリティが確保された木材のみを調達する。

4. 調達先調査の範囲拡大
これまで木材調達の調査の対象としてきた構造材や下地面材、桟木、フロア材のほかに、新たに型枠合板パネルや主要設備、建具、クロスも追加することで、森林破壊ゼロの取り組み範囲を拡大させる。

同社は2016年度に、2055年を見据えた環境長期ビジョン「Challenge ZERO 2055」を策定。このなかで、自然環境との調和(生物多様性保全)を重視し、「自然資源の保全・向上に向け、2030年までに住宅・建築物における建材において木材調達に伴う森林破壊ゼロ、2055年には全事業において材料調達に伴う森林破壊ゼロ」を目指すことを宣言していた。

さらに、環境長期ビジョンの策定に遡ること5年前の2010年10月から、持続可能な事業活動の実現に向け、森林破壊ゼロに向けた木材調達の取り組みを行なってきた経緯がある。今回の4つ目の方針にもあるように、2011年1月からは毎年1回、国内のサプライヤーに対して同社独自の評価基準に基づく木材調達調査を実施してきた。

同社独自の評価基準とは、再生木材と、森林管理の認証を行っている3つの国際機関(FSC、PEFC、SGEC)のいずれかによる認証を受けた木材、もしくは合法性、持続可能性の観点からみた評価点が最も高いとされるものをSランクとし、A、B、CとSの4つのランクで評価するもの。2015年度には調査対象におけるSランクの木材比率が約87%だったのが、2019年度には約94%に向上するなど、この間、森林管理の国際機関による認証を受けた木材や再生木材の利用比率が徐々に高まっているという。

こうしたなか、今回、策定した4方針は、これまでの目標を具体的に進める上での指標となるものであり、特に原産国における先住民や労働者の権利を守るようサプライヤーに方針の策定を要請するなど、森林破壊ゼロを進める上でもサプライチェーンの上流における人権侵害を防止する観点を重視したことが注目される。

森林破壊における人権問題は、環境問題とともに1980年代から重大視され、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」は2016年の「マレーシア・サラワク州で続く違法伐採による先住民族の権利侵害に関する報告書」のなかで、「何世紀にもわたって熱帯雨林とともに生活してきた先住民族の土地に関する慣習権を無視した地元企業の伐採計画に対しても州政府がライセンスを乱発し、また企業はライセンスのない場所でも違法伐採を行って先住民の森林を暴力的に奪い、住民を追い出し、加工・輸入して利益を得てきた」などと指摘。「先住民の人権を侵害し環境を破壊する森林伐採によって得た木材を輸入し続け、対策を講じないことは、サプライチェーン上の人権・環境配慮に違反し、国連が2011年に採択した『ビジネスと人権に関する指導原則』の定める人権尊重に反するものだ」と強く批判している。

同社の広報担当者によると、今回の4方針を踏まえ、今後は同社独自の木材調達調査においても、人権の観点を含めて評価を行う考えで、「当社だけの力では難しいが、2030年、2055年の森林破壊ゼロ実現に向け、サプライヤーの協力を得ながら、サプライチェーンの川下から川上までが同じ方向を見据えた取り組みを進めていきたい」と話している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。