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サステナブル・コットン推進へ 日本初のイニシアチブ誕生

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Esin Deniz

私たちの生活に欠かせないコットン。しかし世界の綿花の大半はアジアを中心とする途上国の零細農家によって栽培され、農薬や化学肥料の過度で不適切な使用による環境汚染や、そこで働く人々の健康被害、そして児童労働や強制労働といった社会問題が顕在化している。こうした問題の解消に向けて、「サステナブル・コットン」と呼ばれる持続可能な栽培方針に基づき生産されるコットンの使用を推進しようという世界的な流れが強まってきた。その一環で、日本でも繊維産業を中心とする企業や団体に参加を呼び掛け、消費者も含めてサステナブル・コットンの普及を進めるイニシアチブである「日本サステナブル・コットン・イニシアチブ」がこのほど設立された。(廣末智子)

6団体が設立呼び掛け

日本サステナブル・コットン・イニシアチブ(Japan Sustainable Cotton Initiative =JSCI)は国際基準に基づく「サステナブル・コットン」を推奨する世界的なイニシアチブとも連携し、日本企業や関連団体がサステナブル・コットンを普及させる上での障壁を取り除き、その調達量を増やすための具体的な行動計画の策定につなげる支援を通じ、コットンを巡る日本国内外におけるサプライチェーン上の課題解決に貢献することを目的としている。

イニシアチブの設立を発起団体として呼び掛けたのは、一般社団法人「ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)」と非営利組織「テキスタイルエクスチェンジ(TE)」、認定NPO法人「フェアトレード・ラベル・ジャパン(FLJ)」、一般社団法人「ソリダリダード・ジャパン」、一般社団法人「日本サステナブル・ラベル協会」、一般社団法人「持続可能なサプライチェーン研究所」の6団体。

いずれも持続可能なサプライチェーンの推進を目的に、活動の一つとしてサステナブル・コットンの推進に携わってきた。「サステナブル・コットン」の定義は一つではなく、さまざまなスタンダード(基準)と認証スキームが存在しているが、これらの団体が日本で一つのイニシアチブのもとに連携し、サステナブル・コットンの推進に向けたプラットフォームを形作ることで、参加企業が責任ある原材料調達の一環として、個々のビジネスに合った形によるサステナブル・コットンの調達量を増やしていくための環境整備を行う。

設立総会は5月27日にオンライン上で開かれ、経済産業省の長坂康正副大臣が出席。「繊維産業は、糸や生地の製造にはじまり、企画、製造、流通、販売にいたるまでサプライチェーンが長いことが特徴だが、その中でサステナビリティに対する責任ある取り組みを進めることは、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスとなる可能性を秘めている。このイニシアチブが世界的なサステナビリティの動向をいち早く把握し、わが国の繊維産業にタイムリーに情報提供するなど、情報伝達のハブとなることが重要で、それによりサステナビリティへの取り組みがより加速されることを期待している」と挨拶した。

サプライチェーンの最上流の課題認識を

この後、設立発起団体を代表し、ASSCの下田屋毅代表理事が世界の農業の現状について、「世界には農業従事者が10億人以上いるが、特に発展途上国で割合が高く、人口の約半数が農村に住み、テクノロジーが進化した現在においても従来の方法により農業を行う。農薬と化学肥料の不適切で過剰な使用による深刻な環境汚染が地球温暖化ガスの排出を助長しているのみならず、農家はその費用負担から貧しい生活を余儀なくされている」と改めて説明。このように、日本企業のサプライチェーン上の環境・社会課題は最上流の発展途上国の農家においても発生しているにもかかわらず、「その実態を認識している企業や消費者は少ない」と指摘。JSCIを通じて「日本の企業や組織がサステナブル・コットンの重要性を理解し、一般消費者を巻き込みながら、どのように調達量を増やしていけば良いのかの議論を深め、行動変容へとつなげていきたい」と抱負を述べた。具体的には世界的にサステナブル・コットンを推進するイニシアチブである「Cotton2040」との連携により、綿花の生産国が抱える課題を整理・発信するとともに、サステナブル・コットン推進のための模範事例を共有する形で活動を進める。

「環境・社会・人権・生物多様性への考慮」を共通項に世界で増加

続いて、同じく発起団体の一つで、世界の繊維産業の有害な影響を最小限に抑え、プラスの影響を最大化することに焦点を当てた活動を行うグローバルな非営利組織であるテキスタイルエクスチェンジ(TE)の稲垣貢哉理事が、現在、世界で「サステナブル・コットン」と定義されているコットンについて包括的に説明した。

それによると、TEではサステナブル・コットンを「プリファード(好ましい)コットン」と呼んで推奨している。もっともその中にもさまざまなスタンダードや認証スキームがあり、TEがCotton2040と共同で発表した「コットンアップガイド」の中では、「ベター・コットン・イニシアチブ(BCI)」「コットン・メイド・イン・アフリカ(CmiA)」「フェアトレード」「myBMP(Best Management Practices)」「オーガニック・コットン(OCS、GOTS)」「リサイクル・コットン:Global Recycled Standard(GRS)」「The Recycled Claim Standard(RCS)」「U.S.コットン・トラスト・プロトコル」などがプリファードコットン=サステナブル・コットンとして取り上げられている。

同ガイドでは、サステナブル・コットンを「環境への影響を最小限に抑えながら、生産レベルを維持できる方法で栽培され、長期的な環境の制約と社会・経済的な問題に対応しながら生産者の生計とコミュニティを支えることができるもの」と定義。名前が挙がったコットンに共通するのは、環境、社会、人権、そして生物多様性などについて鑑み、「農薬や化学肥料の使用量をモニタリングし、水資源についても考慮した持続可能な農法で行う。また綿花農家の健康被害をなくし、農家単体でなく、地域全体の生活の向上につながっているかについても検証する。労働現場ではジェンダー平等はもちろん、差別のない公平な仕組みを導入し、動物や昆虫もちゃんと生きていける環境を整えながら生産されているコットン」(稲垣氏)であることだ。これらの条件が一つでも欠ければ、「サステナブル・コットン」と呼ぶことはできない。また同氏によると、これらサステナブル・コットンの生産量は年々増加しており、2012〜2013年には141万トンだったのが現在は約640万トンにまで増え、その割合は世界の綿花生産量の約25%に達しているという。

総会ではさらに発起団体と関連団体の代表が、それぞれの立場から「なぜサステナブル・コットンの推進が必要なのか」と題して報告。フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長の潮崎真惟子氏は、弱い立場にある末端の小規模生産者が産品を安く買い叩かれてしまう結果、生活水準は低下し、コスト削減のために児童労働や強制労働が発生してしまう世界の構造を改めて説明し、フェアトレードの仕組みの必要性を訴えた。またオランダを本拠に、小規模農家の支援に50年以上取り組む国際開発組織「ソリダリダード」の日本法人の楊殿閣氏は、ブラジルとインド、エチオピアの小規模な綿花農家を対象に、特定のブランドや小売業者を超える規模のマーケットへのインパクトを及ぼすため、コットンの供給側と需要側の双方に対して働きかけを行ったプログラムを紹介し、「政府や企業などとの連携を通じてセクター全体の変革を目指している」と強調した。

各企業や組織がいちばん大切にしている部分が重なる認証の選定を

また「コットンアップガイド」に名の挙がった「サステナブル・コットン」の中で、ASSCは、23カ国で210万の認定農家をサポート(2018〜2019年の実績)している「BCI」を推奨し、テキスタイルエクスチェンジはGOTSやOCSといったオーガニック・コットンやリサイクル・コットンに関する情報提供に力を入れる方針であることを説明。さらに関連団体として登壇した一般社団法人「日本綿業振興会」の福枡浩氏は、昨年秋に運用が始まった、新しい米国綿のサステナビリティプログラムである「U.S.コットン・トラスト・プロトコル」を同振興会として推進していることを表明した。同プログラムは、土地利用効率、土壌炭素、水使用、エネルギー使用、温室効果ガス排出、土壌侵食の6つの主要サステナビリティ指標について継続的にデータを取得し、改善していくもので、参加するアパレルや小売企業にとっては「自社のサステナビリティ目標の達成度を数値化し、実証することに寄与することが可能」という。

こうした発起団体、関連団体の発表を終え、自らも発起団体の一つである「持続可能なサプライチェーン研究所」の吉田秀美氏は、「サステナブル・コットンについて情報があり過ぎて、どの認証スキームがいいのか混乱してしまった方もいるかもしれないが、それぞれの会社や組織がいちばん大切にしている部分が重なるものについてさらに調べ、関わりを持っていただければ」とアドバイス。その上で「アジアやアフリカの小規模な農家と、アメリカの大規模な生産農家とではサステナビリティの定義も違う。その辺りや日本の状況も含めて、どういう風にサステナブル・コットンを捉えていくかということもこのJSCIで議論を深めていきたい」と話した。このサステナブル・コットンの定義については、「日本サステナブル・ラベル協会」の山口真奈美氏も「これがサステナブル・コットンだという確固たる定義を作るというわけではなく、世の中の変化に合わせて私たちはどういう風にサステナブルなビジネスモデルを構築し、持続可能な、責任ある原材料調達を行っていくのかということを、特にコットンという誰もが生活の中で関わる素材を通じて考えていくのがJSCIの役割だ」とする考えを示した。

一方、総会では、「なぜ企業がサステナブル・コットンを推進するのか」と題したセッションも行われ、2009年にオーガニックコットン国際認証(GOTS)を自社工場単独で取得し12年目になるというベビー向けニット製品製造の小林メリヤス(山梨・南アルプス)と、フェアトレードコットンタオルの製造・販売を行うホットマン(東京・青梅)、2018年からGOTS認証によるオーガニックコットンを採用し、Cotton2040にも参画している百貨店向け子供服ブランドを展開する三起商行(大阪・八尾)の3社が登壇。このうち小林メリヤスの木村彰社長は、昨年、工場で使うすべての使用電力を再生可能エネルギーに切り替えるなど、「オーガニックコットンに取り組んだことで、工場としてより環境に配慮したものづくりを目指そうという動きが活発化した。ものづくりに携わる会社してやるべきことが見えてきた」などと話し、コットンに関わる企業がコットンを通じてサステナビリティに取り組む意義を強調した。

コットンを扱うブランド、小売、商社、工場、団体などの参加募る

JSCIでは6月から毎月一回、テーマを決めて勉強会を行い、議論を深める方針。6月はサステナブルコットンの潮流、7月はコットンサプライチェーンに関わる環境課題、8月はコットンサプライチェーンに関わる人権課題、9月〜11月はサステナブル・コットンを構成する各種スタンダードを3回に分けて紹介し、12月以降はサステナブル・コットンを調達する際の障害をブランドや小売、紡績工場や織物工場などセクターごとに分析し、対応策について検討する予定で、参加する企業や団体、個人を募集している。対象はコットンを使用し、販売しているブランド企業、小売企業、コットンを取り扱う商社、コットン製品を製造する企業(紡績工場、織物工場、縫製工場など)、コットンに関係する関連組織・団体、コットンのサプライチェーン上の環境・社会問題に関心のあるNPOやNGO、その他関心のある企業・団体・個人としている。

折しも世界の綿の2割を占める中国産綿の8割が、少数民族であるウイグル族への強制労働が疑われる新疆ウイグル自治区で生産されているとされる問題が、世界のグローバル企業を揺るがす中、サステナブル・コットンを推進するイニシアチブが日本に誕生したことで、コットンに関わる日本企業のサプライチェーン上の最上流における課題への対応に風穴を開けることができるかどうか―。JSCIの今後の活動に注目したい。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。