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G20観光大臣会合で「グリーントランスフォーメーション」に注目 コロナ禍で「観光の希望の兆し」になるか

David Marcu

イタリアを議長国に5月4日に開かれたG20観光大臣会合(テレビ会合)で、新型コロナウイルスによるパンデミックで打撃を受けている旅行・観光業界のより強靭で持続可能かつ包摂的な回復に向け、「観光の未来に関するG20ローマガイドライン」などが採択された。ガイドラインは、持続可能性や環境に配慮した観光政策への移行を目指す「グリーントランスフォーメーション」や「安全な移動」、「危機管理」など7つの政策分野で構成し、これに基づいて各国の観光政策を再考し、再構築する必要性を指摘している。このうち「グリーントランスフォーメーション」に焦点を当て、日本における業界の動きやコロナ禍における需要拡大の可能性についてみてみたい。(廣末智子)

今回の会合で、上記のガイドラインを承認する形で採択された「G20観光大臣宣言」によると、観光は引き続きパンデミックの影響を最も受けたセクターの一つであり、国際観光客到着数は2020年に世界で74%減少、とりわけ脆弱な、中小零細事業者に前例のない影響を及ぼしている。さらにWTTC(世界旅行ツーリズム協議会)の統計によると、世界で18.5%の減少に相当する、6200万人近くの旅行観光関連雇用が失われ、見通しは依然として不透明という。

スロートラベルを教育旅行に

こうした他の分野への直接的および間接的な経済的影響の大きい旅行・観光セクターの持続可能な成長と発展に向けた回復はきわめて重要な課題であり、各国の観光地がすでにその在り方を模索している。日本でも訪れる旅行者への新たな価値提供だけでなく、地域の自然環境や暮らしをも豊かにする持続可能なツーリズムを提唱する動きが各地で見られ、2月末に行われた「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」や「第2回全国SDGs未来都市ブランド会議」でも官民連携でコロナ禍からのツーリズム復興を目指す熊本県阿蘇市や、現存する国内の旅行会社では一番の老舗である日本旅行の取り組みが紹介された。

このうち国際会議で、ESD(持続可能な開発のための教育)の重要性について考えたセッションに登壇した日本旅行教育旅行部チーフマネージャーの今田誠氏は、コロナ禍で修学旅行はもちろん、夏の語学研修など、年間を通じて前年比で約8割の行事がなくなる中、にわかに「スロートラベル」に注目が集まり、同社でもこれを教育旅行に取り入れる動きを強めていることを報告した。「スロートラベル」とは、その土地の人々や文化、食べ物や音楽などとのつながりを大切にし、参加した人たちにその瞬間、そして未来に向けて、教育や感動を与えることを目的とした旅を指す。同社では「京都探究プログラム」や「八重山サステイナブルツーリズム」といった事業を企画。京都では生徒が事前学習を行なった上で持続可能な観光地としてのまちづくりに取り組む住民へのインタビューを通して気付きを得たり、また八重山にはプラスチックごみの漂流物が多いことから、ビーチクリーン活動などを通じて、リサイクルの流れや環境問題への関心を高めてもらうことにつなげているという。

宿泊施設も動き本格化 星野リゾート「エコツーリズムホテル」目指す

また宿泊施設の側でも「グリーントランスフォーメーション」や「スロートラベル」を意識した動きは本格化している。ホテルチェーン大手の星野リゾートは、西表石垣国立公園にある「星野リゾート 西表島ホテル」について、島の自然環境を保護し、持続可能な観光の仕組みをつくるため、「日本初の『エコツーリズムホテル』を目指す」と先月発表した。具体的にはプラスチックごみの削減に向け使い捨てのアメニティの提供をやめる「エコロジカルなホテル運営」と、島の自然や動物を観察・研究する地元在住のナチュラリストをガイドに、サンゴ礁の海やマングローブに囲まれた川などを巡る「島の魅力と価値を感じるネイチャーツアー」の実施、さらに「イリオモテヤマネコの保護活動」への参画の3つを柱としている。

一方、旅行予約サイト大手「ブッキング・ドットコム」の調査によると、世界中で旅行が停滞したことで、人々は旅行が与えるより幅広い影響に敏感になり、世界の旅行者の53%が「新型コロナウイルス感染症の影響でよりサステナブルな旅行を望むようになった」と回答するなど、「責任ある旅行への需要が高まっており、希望の兆しが見えている」という。「観光の未来に関するG20ローマガイドライン」の採択がこうした「希望の兆し」を各国がより強固なものとするための指針として機能することが期待される。

ガイドラインはOECDが議長国であるイタリアのアジェンダの柱(人々、地球、繁栄)を踏まえ、同国政府と調整の上で作成したもので、「グリーントランスフォーメーション」(世界及び地域の環境を維持するための観光マネジメント)と「安全な移動」(旅行における信頼の回復と維持)、「危機管理」(将来の危機における観光への影響の最小化)のほか、「強靭性」(不確実な時代における強固で安定した観光セクターの確保)と「包摂性」(地域の関与及び観光がもたらす恩恵の拡大)、「投資とインフラ」(観光の持続可能な将来のためのリソースの集中)の7政策分野で構成。「グリーントランスフォーメーション」には、▷観光政策において持続可能性原則と環境目標を採用し、主流化する▷観光事業者に対する環境に配慮したマネジメントや、グリーンなビジネスモデル採用の促進、支援、インセンティブ付けを行う▷持続可能な観光マネジメント推進のための観光地レベルの取り組みの支援、といった内容が盛り込まれている。

G20観光大臣会合は日本時間の5月4日19時30分から開かれ、G20(日本、イタリア=議長国、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、EU、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、南アフリカ、トルコ、イギリス、アメリカ、サウジアラビア)のほか、シンガポール、スペイン、オランダ、コンゴ、ブルネイ、ILO(国際労働機関)、ISDB(イスラム開発銀行)、OECD(経済協力開発機構)、UNETO(世界観光機関)、WTO(世界貿易機関)、WTTCの各代表が参加。日本からは小林茂樹国土交通大臣政務官が出席した。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。SDGsを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。