サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

コロナ禍からのツーリズム復興 阿蘇市と日本旅行が取り組む「サステナブル・ツーリズム」: 第2回全国SDGs未来都市ブランド会議③

  • Twitter
  • Facebook
左から庄司氏、椎葉氏、石松氏

第2回全国SDGs未来都市ブランド会議の2つ目の事例紹介は、阿蘇市と日本旅行による連携事業。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、世界的に旅行業界は大きなダメージを受けている。しかし、その中で自然や持続可能性を尊重し、配慮した観光活動が注目されはじめた。「『サステナブル・ツーリズム』の可能性と課題ーコロナ禍からのツーリズム復興ー」をテーマに、ナビゲーターの庄司真人・高千穂大学教授が、新しい生活様式に沿い、サステナブル・ツーリズムに取り組んでいる阿蘇市と日本旅行の事例を聞いた。(岩﨑 唱)

ナビゲーター:
庄司 真人 高千穂大学 商学部 教授
パネリスト:
石松 昭信 阿蘇市 経済部観光課 課長補佐
椎葉 隆介 日本旅行 事業共創推進本部 マネージャー

これからの旅行業が目指すべきツーリズムとは

UNWTO(国連世界観光機関)が2021年1月に発表した数字によると、全世界の海外旅行市場の推定損失は約1兆3000億米ドル(約142兆円)に上るといわれている。「その中で希望の光があるとすれば、自然ベースの観光活動やスロートラベルです」と日本旅行事業共創推進本部の椎葉隆介マネージャーは述べた。1905年創業の日本旅行は、現存する旅行会社の中では一番の老舗。業界をリードするという思いもありSDGsにいち早く取り組んでいる。「これから必要な旅行業とは何なのかを全社で議論し、サステナブル・ツーリズムに取り組んでいこうとしています。そこで、環境庁の『誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成』実証事業で阿蘇市と連携し、シンポジウムを開催しました」。シンポジウムはコロナ禍ということもありオンラインとリアルのハイブリッド型で実施。全国の観光業者、DMO、自治体、そして観光業を志す大学生を集め、未来の旅行業に関するディスカッションやワークショップを行った。また、シンポジウムを運営するにあたり、日本旅行、阿蘇市、サステナブル・ブランド ジャパンが連携し「阿蘇サステナブル・ツーリズム協議会」を立ち上げた。

阿蘇でサステナブル・ツーリズムを発展させる

続いて阿蘇市からオンラインで登壇した、阿蘇市経済部観光課課長補佐の石松昭信氏がシンポジウムについて説明した。石松氏は、阿蘇くじゅう観光圏の形成や阿蘇ユネスコ世界ジオパークの認定、阿蘇サイクルツーリズム学校「コギダス」設立に尽力し、現在はコロナ禍でのワーケーション環境づくりに取り組んでいる。「シンポジウムはオンラインで800人近い参加者がおり、そのほとんどが県外の学生でした。リアル参加は約200人。企業関係者が35%、学生が50%、官公庁・自治体が15%という割合で、半数が県外からの参加でした」と報告。

シンポジウムは午前中にエクスペリエンス・プログラムが組まれ、ワーケーション施設の見学、教育旅行プログラム体験を実施。午後にセミナープログラムとして、事例講演とワークショップを行った。ワークショップは①エコツーリズム、②グリーンツーリズム、③文化観光、④ロングステイの4グループに分かれ、各テーマについてディスカッションが行われた。「今回のシンポジウムは、新しい生活様式を踏まえサステナブル・ツーリズムの推進に向けたキックオフとなる重要な機会でした。阿蘇の重要な資源の一つである千年の草原がいま危機的状況にあります。この草原をツーリズムに活用しながら維持していく仕組みをさらに広げ、サステナブル・ツーリズムを極めていきたい」と締めくくった。

官民が手を携えてサステナブル・ツーリズムを創生

ナビゲーターの庄司氏は「お二人の話をお伺いして、先を見据えた長期的な視点が重要だと感じました。また、大きく変わろうとしている旅行業の中でサステナブル・ツーリズムが一つの明快なきっかけになる」とし、今後の可能性や課題について質問した。

椎葉氏は「Z世代との共創を積極的に行っていかなければいけません。さまざまな関係者と対話し、地元の方と力を合わせて必要なコンテンツを提供していきたい。また、今回のシンポジウムではリアルの効果を改めて感じました。ICT技術は重要ですが、リアルを引き立てる役割として活用していきたい。そして環境に配慮することを大前提に置きながら、行動変容につながる旅の提供を目指していきたい」と答えた。

石松氏は「阿蘇市が持続可能な観光を考えていく中で3つの課題があります。1つ目が観光防災への取り組み。阿蘇は火口がある活火山なので、安心・安全に観光ができる体制をつくる必要があります。2つ目が草原景観の維持。草原は人が育んできた二次的自然資源です。草原の景観を保つための取り組みが必要です。3つ目が阿蘇地域に伝わる古くからの神話や農耕祭事を次世代に継承していくこと。これらのことを今後3年間でカタチにし、10年後、20年後のあるべき姿を考え地域全体で利益を追求していきたい。そのためには観光マネジメントができる人材の確保が必要だという課題も見えてきました」と述べた。