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リジェネレーションとは これからの世界をつくる上で欠かせない人類としての視点

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われわれはみんな、宇宙の星くずのようなものだという表現を聞いたことがありますか――。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜で、気候変動や社会変革の専門家であるマーク・バックリー氏の基調講演は、聴衆を宇宙からの視点にいざなう呼び掛けで始まった。そして1968年12月にアポロ8号が撮影し、人類が初めて目にした地球の写真や、1972年12月にアポロ17号が撮影した、青く、美しい地球の姿を映し出し、「この宇宙船地球号に乗っているわれわれが今、認識しなければならないのは、人類が食物連鎖の一番上に立っているのではなく、全員が、この地球の一部であるということ。すなわち、ホモ・サピエンスから、共生する人間へとスイッチする(切り替わる)ことが重要なのです」と提言。さまざまな天文家や生物学者らによる、人類を循環再生的な地球上の複雑な「系」の一部であるとする考え方の解説などを通して、本会議のテーマである「リジェネレーション(再生)」の本質に迫る、氏ならではの世界観による発信が繰り広げられた。(廣末智子)

われわれはみんな、星くずでできている 生命の元素は宇宙の塵のようなものだ

冒頭の問い掛け、「われわれ人類は星くずでできている」という表現は、バックリー氏の師の一人である、米国の天文学者、カール・セーガン(1934〜1996)によるものだという。彼は「われわれのDNAに含まれる窒素や歯に含まれるカルシウム、血液に含まれる鉄分、そしてアップルパイに含まれる炭素も、崩壊した星の内部でつくられたものであり、われわれはみんな、星くずでできている」とする言葉を残している。そしてバックリー氏自身もこれを引き継ぎ、「酸素、炭素、水素、窒素といった基本的な生命の元素は宇宙の塵のようなものなのです」と語り、「まず皆さまに意識してほしい点」として、「こういう生命の基本的要素というものは星の崩壊でも見られるわけですし、またわれわれの地球もこういった要素からつくられているわけです」と続けた。

ここで画面にはアポロ8号が1968年12月24日に撮影した、人類が初めて目にした地球の写真が映し出され、「これは世界一般に大きな影響を及ぼしました。全体概要の効果、あるいは宇宙的視点と言われていますが、認識のシフトが起こり、これによって世界観が変わったのです」と話し、この写真が、世界中の人々が「大きな地球に対する視点」を得るきっかけとなったことをあらためて振り返った。

次にバックリー氏は、「ザ・ブルー・マーブル」と呼ばれる、1972年12月7日にアポロ17号が撮影した、よりフルサイズで鮮明な美しい地球の画像を映し、「アル・ゴアをはじめ、多くの気候変動の活動家がこの画像を常に使っていますが、それとは違った理由で私も使いたい。皆さまを一つの旅に、お招きしたいのです。そして、われわれの地球とのつながりというものを違った見方で、認識の変化を持って、地球を見つめていただきたい。皆さまは共生できる地球の本質的な部分であり、人間はこの宇宙船地球号の乗組員として十分に将来を導くことができる存在であるのです」と投げ掛けた。その上で、「この宇宙船地球号に乗っているわれわれが今、認識しなければいけないのは、人類は食物連鎖の一番上に立っているのではなく、動物や土壌など、さまざまな地球上の相互作用に依存しているわけです。ですから、エゴの意識ではなく、エコの意識に立たなくてはなりません。われわれ全員がこの地球の一部であり、すなわち、ホモ・サピエンスから、共生する人間(ホモ・シンビオシス)へとスイッチすることが重要なのです」と語り、さらに「今、求められているのは、私たちの世界の仕組みは複雑に絡み合っているんだということを認識する、システム思考へのシフトです」として、より柔軟な思考で地球との関係性を捉えることの必要性を強調した。

世界は協力や協業で動いている 競争がベースの適者生存の世界ではない

ここでバックリー氏は、カール・セーガンの妻であった生物学者のリン・マーギュリス氏(1938〜2011)が、「生物の進化の中で、核を持たないバクテリアが、どのように、人間の身体の中にあるような有核細胞へと進化していったのか、ということに疑問を持った」と語る動画を紹介。バックリー氏は、彼女が研究の結果、それまでのネオダーウィンイズムやネオリベラリズム、すなわち進化というものは強いものが競争を勝ち抜いて生き抜くことによって起こるという、適者生存や自然淘汰の考え方に異を唱え、それが間違っていることを実証したと説明した。バックリー氏によると、マーギュリスが実証したのは、「われわれはみんな共生し合う存在である」ということであり、「それに対抗するものは、それこそ生存できない」ということだった。

「考えてみると、微生物は廃棄物を出し、それが他の微生物のエネルギーになるという循環再生のプロセスがあるわけです。そして、それこそが世界の仕組みです。要するに世界は協力とか協業で動いており、競争がベースではありません。適者生存の世界ではないわけです。ネオダーウィンイズムやネオリベラリズムは適者生存を重視していたわけですが、そういった考え方はわれわれの惑星を永続化するのに役立ちません」

リジェネレーションとは自分自身を常に再生し、さまざまな変化にも対応していくこと

次にバックリー氏は、オーストリア出身の米国の物理学者でシステム理論家でもあるフリッチョフ・カプラ氏(1939〜)らが2016年に発刊した『The Systems View of Life』という本を取り上げ、この本が「われわれが実は、この非常に複雑な『系』である地球というものの一部に属しており、切っても切り離せない関係である」ことを主張するとともに、本の中に出てくる「リジェネラティブ(再生型の)」という言葉が、「刻々と変化する生命環境の中で、生命が絶えず自己を更新し、新たな形態に移行し、繁栄するための条件を整えることを意味する」と書かれていることに触れ、「自分自身を常に再生して永続化する。さまざまな変化にも対応していくということで、非常に重要な言葉だと思う」と述べた。

さらにここでバックリー氏は、「もう一度(冒頭の)カール・セーガンの言葉を思い出してほしい」と続け、その言葉が「世界が一つの生命体だという意識、新しい考え方が出てきていること」を象徴していること、そして「その新しいレベルの意識とはどういうことかというと、まさに、われわれ人類が循環再生的な地球、そして共生的な地球上の複雑な『系』の一部なんだという意識が出てきているということだ」と述べ、カプラ氏らが本の中で主張している考えとつながっているという見解を示した。

その上で、バックリー氏は、そうした、人類が循環再生的な地球の複雑な「系」の一部であるという新しい考え方について、「それはビジネスモデルとしても優れているし、生活や、調和の中で仕事をするといった時にもより良い戦略となる」と強調。さらに「豊かな自然のプロセスとして、何世紀、何十億年と続いていく可能性がある」と付け加えた。そしてここで、生物学に着想を得たシステム設計を専門とするダニエル・クリスチャン・ウォール氏による2016年発行の著書『Designing Regenerative Cultures』を推奨した。バックリー氏によると、最近は英国の市民運動でも気候変動の話をする時にはこの「Regenerative Culture(再生文化)」という言葉が使われると言い、「この再生文化というのは非常に重要な考えです。というのも、人類は何千万、何百万という年月をかけないと進化できないのに対し、今の世界は加速度的に成長し、変化しています。ですから、それに追い付くためにも文化的な進化が必要なのです」と話した。

再生力のある経済は、新しい市場経済モデルであり文明モデル

続いてバックリー氏の話は「Regenerative Economy(再生型経済)」に移り、その考え方について、「修正能力や再生能力を持った自然に触発されて」出てきたものであり、「廃棄物や汚染を出すことがないよう、製品や材料は最初から使い続ける発想で設計すること」、そして、「包括性と多様性のある社会の実現に向けて、エコシステム自体、自然自体を修正し、保護していく」という原則に基づいた経済であると説明。またこのほかにも再生型農業をはじめ「リジェネラティブ」と名のついた活動にはさまざまなものがあるとした上で、「皆さまに考えていただきたいのは、より高次元な、私たちの生活のあらゆる側面において地球とつながっているという考え方であり、これは新しいシステムであると同時に新しい市場経済モデルであり、新しい文明モデルでもあるのです」と強調した。

「私たちが経済システムを方向付ける本質的な論理を変えなければ、その流れに逆らって泳ぐことができるのはほんの一握りの人だけであり、論理が変われば、正しいことをするのが自然で当たり前になります。これが、再生文明を支える私たちの経済の新常識です。そして、循環経済やリデュース・リユース・リサイクルなどさまざまな課題のベースにあるものは一つ、われわれは共生的な地球の一部だということです」

講演を通して繰り返されたのは、人類を循環再生的な地球上の複雑な「系」の一部であるとするシステム思考へのシフトを促す言葉だ。

SDGsは、われわれ個々の仕事

またバックリー氏は、SDGsの提唱者の一人でもあることから、SDGsについて、「2030年の年末になってもわれわれが安全な形で生きていられるように、地球を修復し、再生していこうというロードマップと行動計画であり、世界で初めて197もの国が投票して決めた、地球規模の壮大な目標である」と言及。さらに「2030年の終わりにこういったことが達成できていたら、どんな希望を持つのだろうかと想像してほしい」という思いを込めて、国連の定めたSDGsのマニフェストであるカラフルな文字を映し出した。

そして、SDGsの構造を表す「SDGsウェディングケーキ」と呼ばれるモデルを示し、「SDGsを紹介する時、この図の一番のベースになっている生物圏に必ず触れなければいけません。というのは、われわれが食品であるとか、車や飛行機、携帯電話やコンピューターなどあらゆるものを作る上でこの生物圏がなければ作れない。ここから資源を得ているからです。生物圏がなければ人類として機能できないのです」と生物圏の持つ重要性をあらためて訴えた。

「SDGsというとよく、企業や都市や国の仕事だと思われがちですが、実はわれわれ個々の仕事です。というのも、この地球上で生存し、繁栄していくためのわれわれの基本的ニーズにつながっており、すべて世界にあるものは、地球圏と大気圏、生物圏、水圏、雪氷圏の5つの要素をベースとしたシステムの中にあるからです」。このように、バックリー氏の話は、SDGsについてもシステムや調和といった文脈に置き換えられ、その流れで人体の系についても話が及んだ。

「人体には骨格や神経など11の系があります。その中の一つが他を支配しているというわけではなく、一つの系がうまくいかないと、別の系がそこを補完するという形でシステム全体をうまくカバーしています。それぞれの系が調和の中で機能しているのです。われわれの世界もそれと同じように、複数の系、システムで成り立っているのです」

ここでバックリー氏は、「気候科学のバイブル」とされている米国の環境科学者であるドネラ・メドウズ(1941〜2001)による著書『成長の限界』や『世界はシステムで動くーいま起きていることの本質をつかむ考え方』について触れ、世界を再生して機能させていくためには、彼女の考えである、システム思考やダイナミックモデルをベースとした企業活動が実現されなければできないと話し、それらを図式化したものを「システム思考による企業の在り方の土台の一例」として示した。さらに国連が打ち出している「2030年までにエコシステムを修復する」方針(UN Decade on Ecosystem Restoration)について、「われわれがリジェネレーション(再生)を実践し、よりこの惑星と調和した形で生きていこうということを訴えている」と解説した。

講演の最後、画面には、カール・セーガンが「私たちはここまで来てしまったけれども戻れるのだろうか。戻れます。私たちは宇宙から自分たちを見ることができるのだから。私たちの道のりはここから始まります」と語り掛ける動画が流された。この言葉にバックリー氏は、「私もその通りだと思います。その道のりが、皆さまの頭を切り替えることから始まるのだと理解していただければと思います」と語り、宇宙からの視点の大切さを強調する形で講演を締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。