サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

生物の進化に倣い「進化思考」でイノベーションを 脱人間中心から事業の進化を考える

  • Twitter
  • Facebook

今、持続可能性を追求するだけでなく、リジェネラティブ(再生可能)な社会を実現するために、「進化思考」の必要性が増している。「進化思考」とは、デザインや発明の仕組みを、約40億年の地球の歴史を通じて変異と適応を繰り返すことによって進化してきた生物や自然に倣い、人間誰しもが持っている創造性を高めることにつなげる考え方だ。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、この「進化思考」の提唱者であり、デザインストラジストとして数々のイノベーションを成功させ、またイノベーターを増やすための創造性教育の分野で活躍する太刀川英輔氏によるオンライン限定のワークショップ「進化思考:脱人間中心から事業の進化を考える」が行われた。その様子を紹介し、あらためて自然の叡智から自らの事業を見つめ直すためのヒントを探る。(廣末智子)

ファシリテーター
太刀川 英輔 NOSIGNER代表
サポーター
山岡 仁美 サステナブル・ブランド国際会議横浜 プロデューサー

はじめに、サポーターを務める山岡仁美・サステナブル・ブランド国際会議横浜プロデューサーが、今回の国際会議のテーマである「リジェネレーション」について、衰えかかったものが生気を取り戻し、精神的に生まれ変わることであり、「地球環境や世界共通の課題を解決するための新しい概念として、今まさに必携である」と強調。「サステナブルを超えてリジェネラティブの境地に到達しないと未来が良くなる方には転じていかない」とし、「進化思考」について、「リジェネレーションにも合致するものであり、今後、必要になってくる」と語った。

創造性はすべての人が持っている みんながイノベーターに

ここから太刀川氏が登壇し、まず進化思考について、「生物の進化と、僕らの創造性ってこんなに似ているんだよということをベースに学べば、イノベーションを構造として理解し、誰もがそれを起こせるようになる」と説明した。前提には、加速化する気候変動や生物多様性の崩壊などを目の前に「未来は持続可能なのか」という強い危機感があり、「変化を起こす人を増やさないと間に合わない。世界人口を約100億人とすると、1000万のプロジェクトを動かしたいが、僕一人ではできない。だから、みんなにすごいイノベーターになってほしい」という思いがあるという。

同氏によると、生物の進化は、「変異による試み」と「適応による選択」の2つを繰り返すことによって起きる。言うなれば、DNAがコピーエラーを起こし、それが、何らかの圧力で適応することを繰り返すことによって生物は進化するのだ。例えば、生まれてはみたものの、逃げ足が遅く、すぐに食べられてしまうような状況が、いろんな理由で適応し、生き残れるようになる。これが繰り返されると傾向ができ、それがまた繰り返されることによって進化が続く。「とにかく変わり続ける仕組みと、選び続ける仕組みが往復すると、勝手に起こるのが進化」だ。

そして、同氏に言わせると、これと同じように、変異と適応を往復することによって、創造も生まれる。逆に言えば、そこを往復しないと創造は起こせない。さらに進化とは「勝手に起こるのがミソ」であり、創造の場合も、「デザイナーなんていなくても、デザインは勝手に起こり、それがループすることで新しい可能性がいっぱい出てくる。そこから本質的な理由で良いものが選ばれていくことを繰り返せばよい」という。

「変異」は漫才のボケに、「適応」はツッコミに似ている

同氏によると、創造における変異とは、「固定観念を破り、発想する方法群」であるとも言い換えられ、葉にそっくりな虫が見せる「擬態」や、鳥の嘴(くちばし)が徐々に変化してきたような「変量」、さらに「融合」や「欠失」といったパターンが幾つかある。これについて、同氏は、「漫才のボケとも似ていると思う。男女が入れ替わったり、モノマネをしたり。そういうパターンがたくさんあって、そこに愛のあるツッコミが入る。そのツッコミこそが、『適応』だ」とも話し、創造の仕組みを参加者がよりイメージしやすいように説明がなされた。

一方、「事象の本質をリサーチする方法群」とも言い換えられる、創造における「適応」は、生物学的にも「(未来の)予測」と「(過去の)系統」、「(内部の)解剖」と「(外部の)生態」という4つの側面に分けて考えられる。そして、この仕組みを理解することで何ができるかということを、同氏は、「極端に言えば」とした上で、「皆さん自身が、所属する組織の目的を過去から系統的に語ることができ、内部の構造を深く理解して、クライアントの気持ちを代弁することもできる。さらにその将来像を考えることができるようになる。つまり、その組織において、誰かに指示をされる必要がなくなると同時に自信が生まれ、自分自身の思い込みからも解放されて、素直になれる」とし、そのメリットの大きさを強調した。

「創造性は人の幸せに直結」の見方も

さらに同氏は、この適応の仕組みを理解した上で、変異のパターンを応用することで、「ものの1時間もあれば数百個のアイデアが出せるようになり、代案を出すのにも困らなくなる。この代案がいつでも出せるという状態は非常に自由であり、精神的にも楽になれる」と自身の体験から指摘し、「創造性は人の幸せに直結する」という見方もあることに言及した。

この後、実際に変異の中で最も多いパターンである「擬態」をテーマに、人型ロボットや、ノート型パソコン、ボタン型カメラなど実際にある事例も示しながら、参加者全員に「○○型○○」の形を挙げてもらう方式によるワークショップが行われた。これを通じて同氏は、「とにかくこれを積み重ねると、アイデアには困らなくなります。数百個のアイデアの中には必ず良いアイデアが、何十個かに1個は混じっている。センスの進化はそうやって起こるということです」と強調した。

生物の変異のパターンは世界を変えた人たちの中にも

話題は「世界を変えた創造性を発揮した人たち」の中にも、生物の変異のパターンは見られることにも及び、ライト兄弟よりも前に、鳥の羽のようなハンググライダーを自らの身体につけて飛行実験を繰り返したドイツのオットー・リリエンタール(1848〜1896)や、世界で初めて自動車の大量生産を行った米国のヘンリー・フォード(1863〜1947)、さらにジョン・レノン(1940〜1980)とオノ・ヨーコ(1933〜)、そしてスティーブ・ジョブズ(1955〜2011)らの写真を示す場面も。彼らに見られる変異のパターンとは、擬態(鳥の真似)をはじめ、交換(それまでの馬車から馬を消し、内燃機関を足した)、転換ないし逆転(パブリックな平和活動をプライベートな場所で行った)、そして欠失ないし融合(ガラケーからボタンを消すとともに、携帯とタブレットを合体)であり、それによって、ジョンとヨーコは「平和活動をめちゃくちゃクールに」し、スティーブ・ジョブズは「インターネットを手元に連れてきた」というのが、同氏の見解だ。

自然を擬人化して考えよう 重要な「脱人間中心」の視点

そして、この日のテーマでもある「脱人間中心」の視点について、同氏は、これを「適応」の4つのカテゴリーの中の「(外部の)生態」に焦点を当てて説明。ものづくりにおいては、「世の中はすべてが複雑につながっていること、周りの生態系を理解することが何より大事だ」と強調した上で、自身が着ているコートを例に、「僕自身、店員にしか接してなく、工場で糸を紡いでいる人も、その糸がどこの綿花から作られ、その綿花畑にはどんな人がいるのかも知らない。意識から取り残している」と指摘。その上で「残念ながら、僕らには世界中のすべてのことを慮って物を作るという能力はない。しかし、今よりも思慮深くなることはできるはずだし、みんなが今よりも思慮深くなるということがすごく重要だと思う」とする認識を示した。

その今より思慮深くなるための方法としては、「どんな関係者がいて、どんな物といつどこでつながっているのかといった“5W1H”を理解することが強い味方になる」と紹介。参加者に対し、その“5W1H”の観点で、今、進化思考を使ってイノベーションを起こしたいと思っているテーマ=Xについて見直してみることを勧めた。その際にあらためて強調したのが、「それは人間だけでいいのか」という、Xを取り巻く状況を考える上で「脱人間中心」の視点を持つことの重要性だ。

同氏は現在、海を母として擬人化するプロジェクトにも関わっている。その理由を「自然は何も言ってくれないから。僕らは一方的に母ちゃんから小遣いをせびり続けて、母ちゃんはすっからかんになっているのに、それでもまだ小遣いをくれている」と海を母に例えて話し、それと同じように「自然が人だとしたら、どういう状況でいるのか、という視点で常に考えよう」と提言。その好例として、ニュージーランド政府が、先住民が崇めていた川に対して「完全な一人の人格としての権利(法律上の人格)」を与えたケースを示した。そこには、「人間中心でしか考えられない僕らだからこそ、自然を擬人化して考えることがものすごくヒントになる」という同氏の強い思いがある。

最後に同氏は、世界を変えるイノベーションを創造するための大事なポイントとして、一人に伝えたら、その一人がまた誰かに伝えるという意味での“再生産数”と、組織や領域を超えて活動する“越境”を提示。

「みなさんが本当に世の中を変えたいと思ったら、一人に伝えた時に、その人が数人に伝える仕組みを考えることが大事だ。それが求心力を持っているという状態。再生産数が大きい人が大きなハブになる。そして、全く異なる領域の人と繋がる、越境できるかどうかが世界を狭くするカギになる。越境する人もハブになりやすく、求心力を持ちやすい」

「この2つを持って、脱人間中心的なコンセプトを世の中に広げていってほしい。そうすることで本質的な意味でも地球環境にアプローチできやすくなると思う」と願いを込めて締めくくった。

太刀川氏による約500ページにもおよぶ著作『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』は4月21日、「海土の風」社より発行される。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。