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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

「就活で自分の活動を話せない」サステナビリティ志向の学生が困惑――問われる企業の対応

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右上から時計まわりに、川内氏、山本氏、廣木氏、島崎氏

SDGsや持続可能な開発のための教育(ESD)など広くサステナビリティの活動に取り組んでいる学生たちは、就職活動の面接時に自分の活動について「うまく話せていない」という実態が浮かび上がっている。理由はSDGsなどについて企業の担当者の理解が不十分で企業側と「話がうまくかみ合っていない」と感じるからだ。自分なりの志や思いをもって時間をかけて活動しているにも関わらず、就活で社会的な活動をアピールできないことは非常に残念であり、企業としても優秀な人材を見逃してしまうというリスクがある。どうしたら双方がWin-Winの関係になり、ともに持続可能な社会を目指すことができるのか、横浜で就活している学生2人とキリンビール横浜工場で総務広報を担当する山本武司さんが「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」で実体験を踏まえて議論した。(松島 香織)

ファシリテーター: 
島崎 由真氏 One HR 共同代表 
パネリスト: 
山本 武司氏 キリンビール 横浜工場 総務広報担当 部長補佐  
廣木 亮哉氏 東京都市大学 学部4年生 (当時)
川内 美月氏 横浜市立大学 4年/ 横浜市立大学大学院 博士前期課程1年 (当時)

社会貢献活動をしている学生は企業の理念・ビジョンに注目

横浜市立大学4年生で横浜市立大学大学院の博士課程でも学ぶ川内美月さんと、東京都市大学4年生の廣木亮哉さんは、就活とサステナビリティへの意識調査を2021年1月25日から2月1日に横浜に在学、在住の学生を対象に行った。回答数は355件で、それぞれの学年がほぼ同じ割合で回答している。

SDGsの認知度については「内容を知っている・ある程度知っている」が約7割、自身が活動しているかについては「過去または現在している」が約4割、そのうちの約6割が市内で活動し、地域のコミュニティづくりや生物多様性の活動に取り組んでいるという結果を得た。さらに活動をしている学生は、就活時に「企業の理念・ビジョンに共感できる」「社会課題解決のための製品・サービスがある」を大きなポイントにしていることが分かった。

一般的に大学生は、就活時に大きな不安を抱えている。「企業とのつながりが持てず、さらにSDGsの認知度が高くなり多くの学生の企業に対する価値観が変化すれば、学生と企業の距離がさらに広がる恐れがある」と廣木さんは危機感を募らせている。サステナビリティに関係する活動をしてきた学生は、就活の対象企業で持続可能な社会を目指した自分のやりたいことを実現できるのか、これまでしてきた活動を理解し評価してもらえるのかを知りたいという。

「流行りのSDGs」と言った人事担当者に疑問

川内さんと廣木さんはさらに、就活中の学生や入社後の4人にインタビューした。就活を終えたばかりの大学院修士課程の2年生は、サステナビリティ活動をしていたにも関わらず、面接の時に活動の話ではなくアルバイトの話をせざるをえなくなった。面接官と話が合わず、サステナビリティ活動の話は封印してしまったという。その学生は、就活の準備として対話する場がなかったことを挙げた。

社会人2年目の先輩は、活動していることを社内で話すことができずに、気を遣いながら社内で活動の仲間づくりをしているという。理由は、社内で自分のことを「面倒くさい人」と思われるのではないかと思ったからだという。就職前から社員と頻繁にコミュニケーションを取っていたが、自分が配属された実際の職場の雰囲気は違っていた。

就活中の4年生は、企業説明会に参加し、担当社員が「流行りのSDGs」と発言したことに大きな疑問を持った。SDGsは流行りではなく、社会課題として全員が時間をかけて取り組むべき目標であり、人事担当者がSDGsを理解していない状態では自分の活動について話せないと思ったという。

これから就活を始める2年生は、会社のことを正確に知りたいのでコミュニケーションを頻繁に取りたいと考えている。企業のホームページで理念・ビジョンを見たり公式のSNSアカウントで情報収集するが、実際の取り組みはそれだけでは分からないので、直接企業側と交流をもちたいと考えている。

川内さんは「サステナビリティ活動をしている学生は、自分が活動していることで未来がより良くなると信じている。そうした思いが就活の軸にマッチしていないと考えてしまう人が多い」と学生たちが自分の活動を就活にうまく結びつけられない歯がゆさを語った。

社会的価値の基軸がないと社内で活躍できない

SDGsに関して活動している学生を企業はどのように見ているのだろうか。キリンビールの山本さんはまず、「SDGsを流行りと言ってしまうことは理解に苦しむ」と、他社の人事担当者の言葉ではあるものの、企業が取り組むべきサステナビリティやCSVの考えについての勉強不足を嘆いた。

キリンビールは日本ビール産業発祥の地・横浜に拠点をもつ。企業ビジョンにCSVを掲げており、社会的価値に加えて経済価値を追求している。山本さんは「持続可能性を考えれば、経済的価値は重要。地域課題を解決した結果、売り上げにつながれば」と話す。横浜工場のレストランは横浜近辺の農産物にこだわり、地産地消に取り組んでいる。また工場では節水に取り組み約25年で半減させ、1999年から工場の水源地である丹沢地区に1万5000本を植樹するなど水源の森を守る活動をしている。「節水への取り組みは工場ではコスト削減という経済価値からだが、社会的価値も生んでいる」と話した。

「大切にする価値観、理念は、『熱意、誠意、多様性』であり、当社ではサステナビリティ活動をしている学生を、SDGsをよく理解していると評価する。熱意をもって取り組んでいたことを面接官にしっかりと伝えればいいのでは」「インターンシップに応募したり、面接時に逆に質問をしてみるのもいい。相手の反応で自分の考えやビジョンに合っているのか確認を」と山本さんは学生にアドバイスした。さらに「社会的価値の基軸をもっていないと、結局は社内で活躍できない」と強調した。

ファシリテーターを務めたOne HRの島崎由真さんは、「学生が自分の活動を面接で話せないというのは、相手の存在を受け入れ傾聴するような安心感を与える中で話を聴かれていないという印象があり心配している。きちんと話せる社会的環境を整えたい」と企業側への配慮を強く訴えた。One HRは、これからの企業と個人の関係をHR企業と企業人事主導で考えるための団体だ。また企業から歩み寄って学生にコミュニケーションを取ること、さらに学生には「自分が活動していることに価値があるなら、それを伝える努力を。言語化して相手に理解してもらうことはSDGsの要素でもある」と実践を促した。

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。