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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

サプライチェーンにおける人権問題はブランド企業の責任――トレーサビリティーの徹底を

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右上から時計回りに、稲垣氏、小野氏、山口氏(花王)、山口氏(ファシリテーター)

ポテトチップスやパンなどの加工食品、洗剤、せっけん、化粧品などはパーム油を原料として作られている。国内の使用量の100%が輸入に頼っており、原料の生産には児童労働や森林破壊などの人権・環境問題が潜んでいる。一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会の山口真奈美代表理事は「サプライチェーンにおける人権問題はサプライヤーだけでなく最終のブランド企業の責任。国際動向を把握し、利害関係者がすべて関わることが大事」だと言い切る。花王、テキスタイルエクスチェンジ、デロイト トーマツ コーポレートソリューションがそれぞれの立場で、なぜ原料調達のトレーサビリティーが必要なのかを議論した。(松島 香織)

ファシリテーター
山口 真奈美・日本サステナブル・ラベル協会 代表理事、日本エシカル推進協議会 副会長 
パネリスト
山口 進可・花王 購買部門 原料戦略ソーシング部長
稲垣 貢哉・テキスタイルエクスチェンジ アジア地区 アンバサダー
小野 美和・デロイト トーマツ コーポレートソリューション Social Impact Office マネジャー

花王「2030年までに生産農園のトレーサビリティーを完了」

花王は2007年から、パーム油をめぐる問題と持続可能なパーム油の生産・利用を目指す国際的な認証制度「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」に参加している。パーム油生産は収穫からいくつもの工場を経るため、サプライチェーンが複雑だという。同社は2018年までに油を搾る工程のトレーサビリティーを完了しているが、「その先の生産農園は非常に数が多く、2030年までに完了したい」と購買部門原料戦略ソーシング部長の山口進可氏は力を込める。

また、RSPOなどの国際認証はグローバル競争に効果を発揮する手段であるが、自社での取り組みと第三者認証という「いくつかの手段を持つことが必要」だと付け加えた。さらに以前、RSPO認証のパーム油農園を訪れた際に、生産者がプレミアム価格を知らずに十分な対価を受け取っていない実態があったことも振り返った。

山口氏は、原材料のトレーサビリティーの確保が一番重要だと考えている。サプライチェーン上で問題が起きた場合、スピード感をもって原因を探りメーカーが対応することが必要だからだ。「サプライチェーンを把握していなければ原因を見つけられない。現地に行くとさまざまな問題に気付くことができる」と話す。

パーム油果実の生産を国策としたマレーシアと並び主要生産国であるインドネシアでも、4000haの大規模プランテーションが作られるといった大きな産業となっている。プランテーションの他に契約農園や独立した小規模農園があるが、200万あると推定されている独立小規模農園は家族経営なので児童労働があったり、プランテーションからの技術支援が得られず収穫量が少ないため貧困状態にあるという。山口氏は「プランテーションから取り残された独立小規模農園をサポートする仕組み作りが重要」だと話した。

「ビジネスと人権に関する理解不足」が日本企業の課題

日本政府は、2020年10月にビジネスと人権に関して政府が取り組む施策を示した「ビジネスと人権に関する国別行動計画 (NAP)」を発表した。英国とオランダはすでに2013年に、米国は2016年にNAPを策定しており、各国はNAP策定の前後に人権デューディリジェンス法やサプライチェーン規制を導入している。「企業は事業活動における人権問題を把握して対処していくことが必要になっている」とデロイト トーマツ コーポレートソリューションの小野美和マネジャーは世界の取り組みを紹介した。

一方、サプライチェーン内の強制労働リスクに取り組む企業を評価する団体「KnowTheChain」は、日本は強制労働リスクに取り組む企業が少なく、方針はあるものの取り組みの証拠が不足していると指摘している。小野氏は「ビジネスと人権に関する理解不足」「経営トップの認識・関与の不足」「ステークホルダーエンゲージメントの不足」「必要な情報の把握と、透明性・情報開示の不足」などを日本企業の課題として挙げた。

デロイト トーマツ コーポレートソリューションはサプライチェーンの可視化や透明性確保において、取引管理の新しい手法である「ブロックチェーン」の活用を推進している。小野氏は「データの修正を誰が、いつ、どのように修正したのかも記録され、サプライチェーン全体を通して管理できる」といった情報を改ざんできないなどの利点があると話す。

またブロックチェーンは、国連開発計画(UNDP)がエクアドルにおけるカカオのトレーサビリティーで活用している。UNDPは児童労働をなくし、環境に配慮した作り方をしたカカオを通常の約2倍の価格で買い取る仕組みを構築した。そのカカオでできたチョコレートを消費者がQRコードを使い読み取ると、生産農家にトークン(仮想通貨)を送るか、次回25%オフで購入するかを選択できる仕組みだ。

コロナ禍によるIT化でニーズが高まるコバルト鉱業でも、ブロックチェーンを活用している。コンゴではブロックチェーンを導入し、生産元を透明化したりデータ情報に信頼性をもたせている。鉱物は法制度が進んでおり、購入者側が早々知りたいというニーズがある。ただし原材料を買うまでは把握できるが、その後消費者に届くまでは不透明との課題があるという。

逆にカカオに関しては買う側に情報のニーズが少ないという。さらに企業は個々に現地に出向いて児童労働のない村のカカオを調達しようと対応しているが、仕組みや認証制度が乱立しており、「非常に非効率な状態」だと小野氏は指摘した。

ファッション業界でのトレーサビリティ推進を

テキスタイルエクスチェンジは米国のNPO法人で、パタゴニアとナイキが中心となって2002年に創設されたプラットフォームだ。認証基準の策定と運営を行っているスキームオーナーであり、GAPやH&M、ケリング、LVMHなどの欧米企業が主なメンバーとなっている。国内企業は興和、豊島、伊藤忠といった商社などが加盟しているが、ブランドとしてはファーストリテーリングのみだという。

テキスタイルエクスチェンジの認証基準には、コンテンツクレームスタンダード(土台となる基準)をはじめオーガニック100やリサイクル100など6つがある。リサイクル認証基準のGlobal Recycled Standard (GRS)には、通常のリサイクル基準とさらに「社会」「環境」「化学」の規制があり、取り組むべき社会的要件として、児童労働の禁止、強制労働の禁止、残業の方法が挙げられている。5年前のGRSの取得は640社だったが、現在は10倍以上の6700社になっていて、審査が間に合わないくらい問い合わせが増加したという。

同NPOのアジア地区アンバサダーを務める稲垣貢哉氏は民間企業を経て、現在は同NPOにボランティアで関わっている。テキスタイルエクスチェンジに加盟し、児童労働の撤廃と予防に取り組む国際協力NGO のACEは2009年にインドの綿栽培で児童労働をなくす取り組みを開始し、2013年に一つの村で成功させた。だがそこには、農薬だらけの畑が残ったという。そこで、当時、稲垣氏が所属していた興和とACEが連携して、第2ステップとして農薬をなくす取り組みに携わった。

稲垣氏も花王の山口氏と同様に、「サプライチェーンの履歴を追いかけるのは難しいが、履歴が追えないと責任が取れない」と話す。だが、現地の生産国でメリットがなければ取り組みは進まない。インドの農家は字が読めず、契約内容を理解してもらえなかった。そのうえ、両親が字を読めないことで子どもに教育を与える意義も感じていなかったという。稲垣氏は6年かけて、物づくりを発注して国際相場で現金を支給したり、奨学金を支給したりという取り組みを通して信頼関係を築いていき、農薬を使わないオーガニックコットンの畑を増やしていった。

また稲垣氏は、綿栽培における児童労働・人権問題などを研究している中・高生が制服をオーガニックコットンやリサイクル素材にしたいというアイデアを具体化したり、大学生が企業インターンシップの中で現地の児童労働経験者とオンライン交流会を行うなどしていることを紹介した。さらに理事として携わる一般財団法人PBPCOTTONは現地農家を支援できるアプリ開発を進めており、4月にオープンする見込みだという。

欧米に比べて認証ラベル製品の数が少ない日本

日本サステナブル・ラベル協会の山口真奈美代表理事は「認証は、現地とのパートナーシップやサプライチェーンの把握に有効なツールのひとつ」と説明した。同時に、チェーンが切れてしまうと調達元が分からなくなってしまう認証の難しさや、第三者認証機関が公正に認定しているのかなどの透明性の重要さを指摘した。さらに「日本は欧米に比べて認証ラベル製品の数が少ない」と現状を嘆いている。

山口氏は「持続可能な消費の思いがあっても、実際の消費行動に結びついていないギャップがあるかもしれない。取り組んでいる企業を応援し自分のライフスタイルに落とし込んでいけるようにしたい」と締め括った。


※公益財団法人世界自然保護基金ジャパン (WWFジャパン)

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。