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2人に1人ががんになる時代 患者ではなく「生活者」として生きられるがんとの共生社会とは

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右上から時計回りに、土井氏、岡山氏、中村氏、桜林氏

人生100年時代とは、単に超高齢化社会を指すのではない。多様な選択肢の中で、人がどう生きていくか、そしてどう幸せな社会をつくっていくかが問われている。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では「人生100年時代、がんとの共生社会に向けて②: “患者さんでなく、生活者”を支える、がん医療の今 ー知っておくべき治療情報ー」をテーマにしたセッションに、乳がん専門医やがん治療を継続している患者が登壇した。日本人の2人に1人ががんになるといわれる中、がん患者が、患者ではなく生活者として、その人らしい価値観やライフスタイルを維持しながら生きていくため、知っておくべき治療情報や、医療関係者や患者当事者らがどう支えあっていくべきなのかを話し合った。(岩崎 唱)

ファシリテーター:
岡山 慶子・朝日エル 会長
パネリスト:
中村 清吾・昭和大学 医学部外科学講座乳腺外科学部門 教授
土井 卓子・湘南記念病院 乳がんセンター センター長
桜林 芙美・AYA GENERATION + group代表、がんサロンMiliMana代表

このセッションは、朝日エル会長の岡山慶子氏がファシリテーターを務め、乳がん専門医の昭和大学教授・中村清吾氏、湘南記念病院 乳がんセンター長・土井卓子氏、そして乳がん体験者コーディネーターとして地域の患者サポート活動を行っている桜林芙美氏の3人が登壇し、どのようにがん治療を受け、QOLを維持・向上させながら治療を継続していくか、そのために必要なことは何かを話し合った。

岡山氏は「患者さんのライフスタイルや価値観を考慮し、納得できる治療を受けて生活していくには本人も含めさまざまな人たちが連携して取り組んでいくことが必要だと思います。患者さんを生活者として支えていくにはどうすればいいか、乳がんの専門医としての提言をいただきたい」と述べ、セッションを始めた。

患者ではなく生活者を支えるがん医療

中村氏は、「飽食の時代で生活が豊かになり糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病が増えるのと同じように乳がんも増えている」と指摘した。がん治療では5年生存率ということがよく言われるが、乳がんでは10年でみていく。早い段階で手術をした場合、8割が10年大丈夫と言われている。しかし、乳がんは10年以降に再発する人が少しいる。また、罹患の年齢分布をみると40代後半から50代、60代にかけてなだらかに分布しているが、若い人でもわずかながら乳がんになることがある。「乳がんの治療は手術だけでなく、化学療法やホルモン療法、放射線治療などさまざまな手段がとてもよく効きます。私たちが治療の選択肢を提示するとき、生命予後の延長が大切ですが、再発させないということも同様に大切。その一方で副作用や医療費の問題もきちんと理解する必要がある。どの治療が自分自身にふさわしいかは、その人の価値観や人生観によって違ってくる。治療と生活をどのように両立させていくかがとても重要なこと」と述べた。

がん治療は、幸せな時間をつくるためのもの

次に、実際に乳がん治療に日々携わっている女性医師の立場から、土井氏が発言した。「患者さんの年齢や置かれた状況によって、自身の乳房のもつ意義は変わり、治療法も異なる。乳がん療法には、命を守る全身療法であるホルモン療法、化学療法、分子標的治療薬などと、病巣をコントールするための局所療法である手術療法や放射線療法があり、まったく違うものです。全身療法で薬物療法を選ぶときは、その目的と意義、副作用をよく知ることが大事です」と説明した。また、医療者、患者、サバイバーとのコミュニケーションによるケアが必要と指摘した。「支え合う仲間が必要なので、私の病院ではピアサポート※、カウンセリング、体操教室、語り合いの会を大切にしています。医療者は診察室の中にしかいませんが、患者さんの生活や人生は診察室の外にあります。ピアサポーターや家族と話し合い、知識を深め、納得のいく治療を選択することが大切です」と主張した。「がん治療には辛いことがありますが、幸せな時間をつくるために治療をします。登山をするとき、山頂に着くまでは辛いですが、登山を不幸なことだと考える人はいませんよね。治療も同様にとらえ、上手に治療法を選択し、頑張って治療するのではなく、頑張らずに治療しましょう」と締めくくった。

※病気を経験した人が自らの体験に基づいて、病気になった人の相談相手となり同じ仲間として問題の解決等を支援する活動。

生きづらさを感じない社会の実現に向けて

最後に、現在も検査を続けながらがんと共に生きている桜林氏が、生活者である患者の立場からプレゼンテーションを行い、5年前にがんを告知されてから今にいたるまでの治療の内容やその間に生じた疑問、不安、恐怖などを包み隠さず語った。抗がん剤の副作用による倦怠感は、なかなか周囲の人にわかってもらえず、せっかく治療により生きることができているのに、生きづらさを感じたという。しかし、病院の乳がん患者サポート体制が整っていたため手術や治療の選択について悩むことはなかった。さらに患者同士のふれあいから不安や苦労を軽減できたと話す。「がんとの日々は決して楽ではありませんが、がんで損をした分、得をしたい!」と考え「がん患者という立場だからこそできる活動」に取り組んでいる。「ただ生きているのではなく、生き生きしているなと自分が実感できる社会づくりを、医療者、企業、自治体、そして皆さんと一緒に変えていきたい。それが、私ががんと共に生きるモチベーションになっています」と述べた。現在、ひとり親として3人の子どもを育てているという桜林氏は、茅ケ崎市で再発転移をした方に向けたがんサロンMiliMana(ミリマナ)の代表、AYA世代※の15~39歳でがんになった方が40歳以降になっても集まれる場であるAYA GENERATION + group(アグタス)代表を務めている。

※AYA=Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)の略で、15~39歳の患者さんのことを指す。

誰もが課題解決に参画し、支え合う社会を

ファシリテーターの岡山氏が「3人からお話を聞いて、患者さんではなく生活者としての時間があること、長い人生を見据えて幸せな時間をつくることが大切だと感じました。それには患者さんたちが社会とつながっていくことが求められます。それには何が必要でしょう」と問いかけた。

桜林氏は「がん患者さんと一口に言っても年齢、立場、状況がまったく違います。その中で治療等に関する情報格差が生まれています。患者さん団体を医療者、企業、自治体の輪の中に入れていただき一緒に考えていけることができれば」と回答。土井氏は「患者さんたちがもっと声を上げること。また、医療者も患者さんのケアを自分たちがやるべきことと認識すべき」と答えた。中村氏は「医療者も患者さんも思い込みをなくす努力をすることが大切です。それには、医学生や研修医など若い世代への教育が重要。一人でも多くの若い人に思い込みではなく思いやりをもって欲しい」と訴えた。

岡山氏は「医療者と患者さんの間で専門的な情報を翻訳する人が必要。桜林さんは翻訳者として素晴らしい活動をしている。誰もがこの課題解決に参画し、あるときは支える側に、あるときは支えられる側になる。持続可能な社会をつくるということは、持続可能な社会をみんなが担っていくことだと思う」と述べ、セッションを終えた。