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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ブランディングとマーケティングはサステナビリティ推進の両輪――資生堂と富士通の「CXO」が対談

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岡部氏、山本氏、足立氏

企業価値の創造につなげるサステナビリティを進める上で、ブランディングやマーケティングをどう生かしていけばよいのかーー。企業によってはこうした点に頭を悩ませている社員も多いのではないだろうか。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜の基調講演では、資生堂の岡部義昭チーフブランドイノベーションオフィサーと、富士通の山本多絵子チーフマーケティングオフィサーの2氏による対談のセッション「CXOが語る、企業価値を創るサステナビリティ」で、ブランディングとマーケティングの観点からサステナビリティ推進の糸口を探った。(廣末智子)

「CXO」とは、企業活動における業務や機能の責任者の総称を指し、岡部氏は資生堂のブランディングを、山本氏は富士通のマーケティングを担当する、それぞれ執行役員だ。ファシリテーターを務めた、SB国際会議の足立直樹サステナビリティ・プロデューサーの「これからの時代は、マーケティングやブランディングの責任者がサステナビリティをどう捉え、企業価値を高める上でどう生かしていくのかが問われている」という観点から、両氏の対談が実現した。

資生堂:サステナビリティは日本の美德の一つ

セッションでは、最初に岡部氏が、1872年、東京銀座で調剤薬局として創業した資生堂の社名の由来について、中国の古典『易経』の一節で、「至哉坤元 万物資生=至れる哉(かな)坤元(こんげん)、万物資(と)りて生ず (意味:大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか。すべてのものは、ここから生まれる)」から来ていると説明し、「まさにサステナビリティを体現するような名前ではないでしょうか」と続けた。そして同社のミッションについて、美を通じて世界をよくしていきたいという思いから「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTRR WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」を掲げていること、さらに、サステナビリティを日本の美徳の一つと捉え、世界88カ国で展開するブランドSHISEIDOにおいて、「MOTTAINAI(リサイクルやリユース)」と「HARMONY(社会や環境との調和)」「EMPATHY(共鳴)」を3本柱に、顧客にジャパニーズ・ビューティを体現してもらうアクション「Sustainable Beauty Actions(略称SBAS)」を進めていることなどを報告した。

富士通:社会的課題をテクノロジーの力で解決

次に山本氏が、富士通について、ITサービスのプロバイダー企業から、顧客のビジネスにおける問題や社会的課題をテクノロジーの力で解決していく「DXカンパニー」へと一大変革を進めている最中であることを説明。パーパス「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を実現するために、財務指標と非財務指標の両方において目標を立てて事業を推進していることを報告した。特にウェルビーイングの分野では、コロナ禍において、理研と富士通が共同開発したスーパーコンピュータ「富岳」は飛沫の飛散シミュレーションに活用され、昨年1月末に長崎港に入港したものの出航ができなくなった海外のクルーズ船で、多くの感染者が出たのにもかかわらず、日本語の通訳が1人しかおらず、対応に苦慮した長崎県から依頼を受けたのを機に、わずか9時間でチャットを通じて患者の健康観察を行うアプリケーションを納品するなど、テクノロジーを駆使した支援に力を発揮した。

またマーケティングに関しては、顧客や社員の声をデータ化して分析し、その結果を落とし込んだアクションが機能しているかどうかの声を集める「デジタル・フィードバック・ループ」の循環を進める中で、「顧客のサステナビリティ経営をきちんと支援できているか」、「顧客はサステナビリティに対するどんな課題を持っているのか」といった声をデータとして集めている。さらに13万人いるという社員のインナーブランディングともいうべき、社内カルチャーの変革を、KPIを設定する形で進め、半期ごとにサステナビリティ経営委員会を開いて進捗状況を確認するとともに、オンラインを中心とする教育にも力を入れているという。

「マーケティングがサステナビリティ経営に貢献できることはたくさんある。BtoB企業として、社員がお客さまの声に自分ごととして取り組み、その声に応えられるようレジリエンスを高めていくことがマーケティングとしてやっていかねばならないことです」

サステナビリティとマーケティングは衝突しないのか

これを受け、足立プロデューサーは、「そうしたサステナビリティの活動の中で、最もブランディングに紐付けているところは何か」と両者に質問。これについて、岡部氏は、「やはり環境領域。私たちはBtoCのビジネスなので、より消費者の方たちにサステナビリティを実感していただけるよう、資生堂らしさ、日本のブランドらしさを目に見える形で世界に発信していきたい。MOTTAINAIという言葉をあえてローマ字で表現しているのもその一つです」と答えた。山本氏は、「テクノロジーカンパニーとして、ウェルビーイングや人権、ダイバーシティ・インクルージョンなど社会への負の影響が大きい部分に注力して取り組んでいる。深刻な気候変動問題への対策としては、自社のクラウドを2022年度までに再生可能エネルギーで運用することを宣言している」と話した。

また、足立氏は、「これまでのマーケティングの感覚からすると、どうしても商品をたくさん売りたいというようなイメージがあるように思うのだが」とした上で、「サステナビリティの取り組みが、既存のマーケティングとコンフリクト(衝突)を起こすことはないのか」と疑問を表明。

これに対し、岡部氏は、「細かい視点では壁が出てくるかもしれないが、やはりこのサステナブルなアクションに関しては必ずやるべきことであり、必須なもの。消費者がモノを選ぶ基準として、そのブランドや会社の行動をちゃんと見て、判断して選ぶ時代が来ており、消費者に見える形でサステナブルな姿勢をブランドに取り入れていくのは大前提です」と強調。山本氏も、「DXカンパニ―へと変革していく中でマーケティングというのはパーパスに沿って活動することであり、そういったコンフリクトは全くありません」と答え、両氏ともサステナビリティの推進に関してブレない姿勢を見せた。

「ブランドとマーケティングが向き合って」(岡部氏)
「お客さま、若者の声聞いて会話を」(山本氏)

最後に足立氏が、「サステナビリティを推進しなければいけないことは重々分かっていても、会社の中でなかなか理解してもらえないといった立場にある人たちに対してアドバイスを」と求めたのに対しては、「確実に、ブランドも、マーケティングの担当者自体も意識が変わってきています。ブランドチームと、マーケティングチームがきちんと向き合うことで解決策は出てくるのではないでしょうか。ただ、これ(サステナビリティの重要性)に早く気づいてアクションを起こさないと本当に取り残されてしまうので、ぜひ向きあっていただきたい」(岡部氏)「まずお客さまの声、そして今後社会に出てくる若者の声を聞いてみてほしいです。サステナビリティ関連の仕事は、お客さまのため、社会のためになくてはならない役割ですので、まず聞いてみて、社内で会話する機会を作ることで一歩前に進むのではないでしょうか」(山本氏)と、それぞれメッセージを送った。

セッションを終えて足立氏は、「サステナビリティというのは、決してブランディングやマーケティングと反するものではなく、お互いに車の両輪になって会社を前へ進めていくものであり、すでにそれがいろいろなビジネスになっている」と総括した。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。