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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

移動のその先へ 社会を前進させるモビリティづくりに挑戦し続けるーー神田昌明・日産自動車理事

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2021年1月、日産自動車は、2050年までに「クルマのライフサイクル」全体におけるカーボンニュートラルを実現する新たな計画を発表した。柱の一つは、2030年代の早期に主要市場で投入するすべての新型車を電動車両とし、電動化のイノベーションを推進するというものだ。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜の基調講演で、同社の神田昌明理事は「日産にはそれができる根拠がある」と強い自信を見せた。講演のタイトルは「Beyond Mobility〜移動のその先へ、社会を前進させるモビリティ〜」。2010年に他社に先駆けて電気自動車の量産を開始し、2018年からは、その大容量バッテリーを災害時の電力供給やエネルギーマネージメントに活用する活動を日本各地で推進する同社は、自動車産業の一大変革期にあって、この先にどんな社会を見据えているのかーー。(廣末智子)

創業者の「他がやらぬことをやる精神」受け継ぐ

1933年、横浜市で創業した日産は、日本で初めて自動車の大量生産を手掛けた会社だ。神田氏いわく、創業者の鮎川義介は、「他がやらぬことをやるという精神で、さまざまなチャレンジを行い、本邦初、世界初の商品や技術、サービスを世に送り出してきた」。その、「ゼロから1をつくり出すことへの情熱」が日産のDNAであり、日産が2050年カーボンニュートラルの実現に向けた目標を達成することへの自信を持つ大きな根拠となっている。「私たちはこれまでのチャレンジを通じて蓄積した貴重な経験、データを活用し、その先進技術によってお客さまにどのような価値をもたらすことができるのかを常に考えています。お客さまを第一に考え、電動化や自動運転の技術に生かしているのです」。神田氏はそうまっすぐに語る。

同社が2010年12月、他社に先掛けて発売した100%電気自動車「日産リーフ」は販売から丸10年が経過し、その販売台数は世界で50万台、国内では14万台を超えている。この間の技術の進化に伴い、航続距離は2010年の初期型に比べると約3倍に。さらに、神田氏は何より誇らしげに「日産リーフは、これまでの間、バッテリーに起因する火災事故を1件も起こしていない」と話し、水没や落雷、雨天時の充電などの実験を通じてもバッテリーに破損が見られず、高い耐久性を示していることをスライドで示した。「これは電気自動車のフロンティアカンパニーとしてのプライドとエンジニアのこだわりのなせることだと自負しています」。

その高い信頼性を誇るリーフの大容量バッテリーを災害時の電力供給やエネルギーマネジメントに活用する取り組みが、2018年5月に開始した「日本電動化アクション『ブルー・スイッチ』」だ。「自然災害の多い日本。大きな災害では必ず停電が起きます。停電は生活を不便にするだけでなく、時には人の命まで脅かす。電力系統が復旧するまでの間、電気自動車があればかなりの電気を被災地に届けることができ、さらに再エネの自家消費や電力のピークカット、系統安定化など、エネルギーの効率化にさまざまに貢献することができます」。その取り組みは全国に広がり、同社と地方自治体や企業との連携はすでに100件を超えている。それだけ多くの地域が同社の電気自動車を社会インフラの一部として取り入れているのだ。

利用終えたバッテリーの再利用でCO2削減へ
福島県浜通り地域で新たな協定締結も

さらに、神田氏は、電気自動車の「モビリティを超えた」取り組みについて、「当社は社会的ミッションとして、低炭素社会の実現のため、クルマとして利用を終えたバッテリーを回収・再利用することで、CO2削減に貢献している」と説明。また2月2日には福島県浜通り地域において、これまでのブルー・スイッチ活動の枠を超え、新たな移動手段となるモビリティサービスの構築や再エネの利活用などを通じて町のコミュニティを活性化し、強靭な未来のまちづくりの実現を目指す協定を、自治体や業界の枠を超えた11者との間で締結したことなどを報告した。

「当社は電気自動車のリーディングカンパニーにとどまらず、バッテリーの再利用を含めたライフサイクルマネージメントの実現、そしてブルースイッチ活動を通じた異業種や自治体との強靭な社会ネットワークを築いてきました。これらは10年以上にわたり自動車業界の電動化をリードしてきた経験と実績であり、われわれの大きなアドバンテージ(優位性)であると考えています」

最後に、神田氏は、2018年9月の台風15号の災害に見舞われた千葉県の房総半島に、販売会社らとともにリーフを52台届けた時の体験を「それまで当たり前のようにあった電気がつかなくなった時のみなさまの不安がひしひしと伝わってきました。そんな中、電気自動車からの給電で、扇風機を回すことができ、温かいお湯を沸かすこともできた。大きな災害の中で、少しでも夢のあることができ、私自身、ブルー・スイッチ活動の意義をあらためて感じました」と振り返った。そして、「こうした活動こそが、SDGsの実現に向けて、われわれ企業の存在意義であり、取り組むべきミッションだと考えています。日産自動車はこれからもお客さまの期待を超え、より良い社会、ワクワクする未来のために挑戦し続けていきます」と力強く語った。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。