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気候変動問題への対応などDXで保険会社の貢献は広がる――原典之・MS&ADインシュアランスグループホールディングスCEO

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新型コロナウイルスによるパンデミックのさなか、気候変動問題への対応を喫緊の課題に、世界の主要国が2050年脱炭素社会の実現に大きく舵を切ったこの1年。この大きな変革の時にあって、「その重要なカギとなるのがAIやIoTなどのデジタル技術を活用した革新的なイノベーションだ」と強調したのは、損害保険大手、MS&ADインシュアランスグループホールディングスの原典之CEOだ。同グループは2010年の発足以来、気候変動に伴う自然災害の甚大化などを背景に、デジタル・トランスフォーメーション(DX)によるアプローチで防災・減災に努める環境づくりを強力に進めてきた。レジリエントでサステナブルな社会に向けた新たな価値創造への挑戦が始まっているという。(廣末智子)

洪水頻度予測、リアルタイムで被災地特定
サプライチェーン全体の気候変動リスクに対応

〈私たちは今、激動の惑星に生きている。地球環境の変動、気候変動の進行、自然災害の拡大・・・〉

〈けれどリスクの兆しを見つけることはできる。そのリスクの影響を可能な限り小さくすることはできる。もしもあるリスクが現実のものとなった時、経済的な負担を小さくする。お客さまも私たちも歩みを止めない。共に前へ。保険の可能性を信じて、社会的課題の解決を目指す・・・〉

上記は、講演の冒頭に流れた、同社の掲げるCSV(共通価値)についての考えを示した動画の言葉の一部だ。これを踏まえ、原CEOは、あらゆる気候変動リスクについて、同社が提供しているソリューションを具体的に説明した。その筆頭が、東京大学、芝浦工業大学との共同研究により開発した「洪水頻度変化予測マップ(LaRC-Flood)」だ。このマップを活用すれば、温室効果ガスの排出量シナリオに応じた世界各地の洪水発生頻度の変化をシミュレーションすることができ、サプライチェーン全体のビジネスリスクをグローバルベースで把握することもできる。重要なのは、「洪水リスクを事前に把握することは、中長期的な事業戦略の策定にも有効だ」という点だ。

次に、横浜国立大学などとの産学協同で立ち上げた、リアルタイム被害予測ウェブサイト「cmap(シーマップ)」について紹介。同サイトは世界で初めて、豪雨や台風などの災害時にリアルタイムで被災地域を特定するとともに、被災規模を把握することを可能とし、このサイトの無償公開を通じて被災地への迅速且つ適切な支援活動がなされ、地域コミュニティの復興にも役立っていることが報告された。同サイトについては今後も台風が上陸する前からその被害を予測したり、過去の自然災害シミュレーション機能を追加するなど、防災減災に役立つツールとしてさらなる開発を進めていくという。

また、異常気象や天候不順で深刻なダメージを被っている事業者に対するソリューションである「天候デリバティブ」についても言及した。天候デリバティブとは、気温や降水量、積雪、日照時間などの天候データの指標を条件に定め、その条件を超えれば補償額を支払うシステムの金融派生商品で、日本では同社グループが初めて販売した。このほか、世界の天候リスクを扱う子会社との共同で、衛星観測データを活用した精度の高い天候リスク商品を世界中に提供するなど、損保として、さまざまな自然災害のリスクを引き受け、社会との共通価値の創造に日々、挑戦している。

DXの掛け合わせで社会的課題解決
IoT活用し、一般家庭向け火災保険の防災・減災も

もっともここで原CEOは一旦話を区切り、こうしたこれまでの活動に掛け合わせることで、より多くの社会的課題の解決に貢献し、同社の社会的存在意義を一層高めることができるものが、「デジタルトランスフォーメーションだ」とする考えを強調した。その一例として、昨年、同社が資本提携した米国のインシュアテック企業「Hippo Insurance」の事業を紹介。Hippo社は、フォーブスの全米で最も有望なAI企業ランキング2019で8位にランクインしているユニコーン企業(急成長を遂げ、世界的に高い評価を得ている未上場企業を指す)で、ホームオーナーズ保険部門において、IoTを活用してリスクを未然に防ぐサービスが顧客の高い評価を得ているとした上で、「その居住者の視点に立った保険サービスは、当社が目指す保険サービスと一致している」と説明。この提携を通じて一般家庭向けの火災保険における防災減災のノウハウを吸収し、グローバルに展開していく考えを示した。

「DXの推進により、事故や災害による経済的損失を補償する保険本来の機能に、事故災害を防ぐ機能、その後の回復を支援する機能を合わせ、付加価値の高い商品、サービスをシームレスに提供できるようになる。DXを活用することで、保険会社が社会のサステナビリティに貢献できる範囲はさらに広がると考えている。気候変動リスクだけでなく、スマートモビリティやスマートシティといった社会変革がもたらす新たなリスクについても当社グループは的確に捉え、DXの力で解決策を提供し、事業環境の変化を成長の糧に変えていきたい」

ステークホルダーと共に、“いい方の未来へ”

同社は、2013年に世界銀行の主導で設立された「太平洋自然災害リスク保険」のスキームに、保険会社としては唯一、継続して参加している。同スキームは、未だ保険制度の確立していない太平洋の島嶼諸国に、地震やサイクロンなどによる一定規模以上の自然災害が発生した場合、被災国に速やかに復興資金を提供することを目的とするもので、こうしたグローバルな官民連携による取り組みへの参加も、多様なパートナーシップの発揮が求められるSDGs達成への参画の一環として、同社が世界各国・各地域が抱える社会的課題の解決に貢献しているという自負につながっているようだ。

「将来の不確実性が増し、企業を取り巻く環境が絶えず変化する中、当社グループはどのような状況にあってもオープンイノベーションを通じて自らを変革し、社会のサステナビリティを支えていきたい。そしてSDGsを道標とした社会との共通価値の創造を推進し、ステークホルダーと共に、いい方の未来へと歩みを進めていきたい」

最後に原CEOは、日経広告賞も受賞した同社の新聞広告シリーズのキャッチフレーズ、“さあ、いい方の未来へ”という言葉を用いて力強く決意を語り、講演を締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。