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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

共創のきっかけ続々と 「リジェネレーション」テーマに盛り上がりーーサステナブル・ブランド国際会議2021横浜 2日目

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持続可能性の先を見据えた「リジェネレーション(再生)」をテーマに、緊急事態宣言の下、パシフィコ横浜ノース会場とオンライン配信によるハイブリッド開催で行われたサステナブル・ブランド国際会議2021横浜。2日目の基調講演には、グローバルに展開する国内外の企業から、損害保険大手MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスの原典之CEOや化粧品大手ロレアルグループのアレキサンドラ・パルトCCRO(最高社会責任者)をはじめ、PwC USや電通インターナショナル、富士通、資生堂、日産自動車のほか、新型コロナウイルスのワクチン開発で注目される英製薬大手のアストラゼネカ、タイ証券取引所が、またNPOを代表し、「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人で元厚労省事務次官の村木厚子氏らそうそうたる顔ぶれが揃った。(廣末智子)

すべての二項対立なくそう Z世代呼び掛けで幕開け

そんな2日目の幕を開けるオープニングに登壇したのは、まさにZ世代の真ん中、2004年生まれの高校一年生で、一般社団法人Sustainable Gameの代表理事を務める山口由人さんだ。「愛を持って社会へ突っ込め」を理念とする同法人は、企業に2050年の事業のあり方について話し合うプログラムを提案するなど、中高生と企業(大人)が互いの強みを知り、共創できる環境の構築を手掛けている。何より大切にしているのは、「自分の過去や知識を用いて他者の状況を理解しよう」とするエンパシー力を培うことだ。

「今の社会は大人とZ世代だけでなく、男性と女性や、健常者と障がい者、地方と都会など、さまざまな二項対立が構造的に存在している。サステナブルな世界を目指すには、すべての二項対立をなくす必要がある」。そう言い切る山口さんだが、約2年前までは不安だらけで行動さえもできなかったばかりか、行動を始めてからも、オンラインで活動するにもデバイスがなかったり、親に活動を理解してもらえない仲間もいる中で自分だけがこの活動に時間を使って良いのかひたすら悩んだ時期があったという。

それでも活動を続ける中で、「私にしか気づけなかった課題があったのではないかと思う」と言い、最後に、この日、いちばん伝えたいメッセージとして、会場にこう力強く呼び掛けた。

「気が付いた課題や違和感は、気が付いた本人がその問題の発信と提言の具現化をしなければより良い社会を生み出す解決策にはつながらない。でもそれを1人で行うのはとても難しい。だからこそ、自分だからこそ気がつける、自分の所属する会社だからこそ気がつける課題の解決に向けて、企業や世代の枠組みを超えて共創し、新たな挑戦を始めるきっかけを今日、皆さんと一緒につくりたい」

保険会社の新たな価値創造とは

続く登壇者、損害保険大手MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスの原典之CEOは、気候変動による自然災害の拡大やデジタル革命による社会の急速な変化によって新たなリスクと不確実性が高まる中、東京大学や芝浦工業大学との共同研究により開発した「洪水頻度変化予測マップ」の公開などを通じ、災害が起こっても被害を最小化する環境づくりをさまざまなアプローチで進めていることを報告した。「洪水発生頻度の変化をシュミレーションすることで、サプライチェーン全体のビジネスリスクをグローバルに把握でき、且つこれは、中長期的な事業戦略の策定にも有効です。いつの時代も企業や個人の夢と挑戦を応援し、社会の発展に貢献してきた保険ですが、今の時代は防災減災をはじめ、再生可能エネルギー事業者への保証とリスク診断、地方創生へとつなげるグリーンレジリエンスなど、企業活動や人の営みのすべてに関わる社会的課題の解決に挑んでいます」。それがすなわち、レジリエントでサステナブルな社会に向けた、保険会社の新たな提供価値だと力を込めた。

課題解決にインパクト投資や寄付も

ビデオ登壇した化粧品大手ロレアルグループのアレキサンドラ・パルトCCROは、昨年始動した新サステナビリティ・プログラムについて、2025年までにすべての拠点でカーボンニュートラルを実現し、2030年までに原材料の95%をバイオテクノロジー、そしてグリーンケミストリーに基づいたものに変えていく予定であると説明。これらはすべてがプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の理念に寄り添う形で設定した目標であり、ビジネスモデルの抜本的な改革であると強調した。

さらに、世界が直面している課題解決への貢献策として、1.5億ユーロの投資を決めたと報告。その内訳は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現と、生物多様性の喪失に伴うエコシステムの復元に向けた、それぞれのインパクト投資に5000万ユーロずつ、残りの5000万ユーロは、弱い立場の女性を支援するコミュニティ団体への寄付に充てたという。弱い立場の女性とは、暴力を受けていたり、貧困にある人、失業者、障がい者らで、その理由について、「われわれの社会には未だ女性差別が蔓延していることが、コロナ禍を通じても明らかになった。彼女らに対して支援することのインパクトはとても大きい」と語った。アレキサンドラ氏はドイツのアムネスティ・インターナショナルなどでも活躍した弁護士でもあり、バリューチェーン全体の社員の賃金についても、「本人と、扶養家族のベーシックニーズを満たすだけのものを確保している」と強調するなど、とりわけ人権についての関心の高さが印象的なスピーチとなった。

世界がグレートリセットを後押し

PWC USのアレクシス・クロウ氏はニューヨークから登壇。コロナパンデミックが起きた直後、世界の多くのビジネスリーダーが資本維持の観点から、一時ESG投資に疑問を投げ掛けたものの、経済の再構築を模索し始める中で、世界経済フォーラムのテーマに決まった「グレートリセット」を後押しするようになった経過を説明。さらに2050年脱炭素化に向けた各国の気候変動対応とエネルギー政策とを細かに解説した上で、「私はポジティブな見解を持っている。政府も企業も気候変動活動家も、エネルギー転換に個人やコミュニティーが対応するための支援策を考えていくことこそが大切だ」と語った。

マーケティングとブランディングはサステナビリティの両輪

続いて、富士通の山本多絵子CMOと、資生堂の岡部義昭チーフブランドイノベーションオフィサーが、マーケティングとブランディングの執行役員である立場から、それらをサステナビリティにどうつなげていくのか、というテーマで対談。

東京・銀座の旗艦店で、美容液の詰め替えサービスを始めるなど、世界88カ国で展開するブランドSHISEIDOにおいて、顧客にジャパンビューティを体現してもらうアクション「Sustainable Beauty Actions(略称SBAS)」を進めている同社のブランディングについて、岡部氏は、「資生堂らしさ、日本のブランドらしさを目に見える形で世界に発信していきたい」と強調。一方の富士通は、IT企業から、顧客のビジネス、あるいは社会的課題をテクノロジーを駆使して解決する「DXカンパニー」へと変革を進めており、山本氏は、「マーケティングがサステナビリティ経営に貢献できることはたくさんある。BtoBの私たちにとってみると、社員がお客さまの声を自分ごととして取り組み、レジリエンスを高めていくことがマーケティングとしてやっていかねばならないことだ」などと話した。

2人の話に、ファシリテーターを務めたSB国際会議の足立直樹サステナビリティ・プロデューサーは、「ブランディングとマーケティングは、車の両輪になってサステナビリティを前に進めていくものだとお示しいただいた」と締めくくった。

少女たちに本当の意味でエンパワーメントを

元厚労省事務次官の村木厚子氏は、NPO「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人として立ち、貧困や虐待、いじめといった厳しい状態の中で苦しんでいる少女や若い女性を支援する活動を行うプロジェクトの内容を紹介し、企業に支援を呼びかけた。

日本では年間十数万件の児童虐待の通報がある中で最終的に施設に保護される子どもは毎年5000人と、わずか3%に過ぎない。「多くの子どもたちは自分でなんとかしようと思って頑張っている。そして、そういう子たち、特に女の子にとっては「社会はリスクに満ちている」のが実情だ。

村木氏らが今、とりわけ力を入れているのは、そうした少女らを支援するため、財政基盤が弱い中、少ないスタッフでやりくりしている全国の施設や団体を応援すること。そのために、少女たちに心を寄せる企業をつないで、企業が本業で持っている物品やサービスなどを施設に提供するデジタルプラットフォームを開設し、まだ小規模ながらファーストリテイリングやネスレなどの企業の協力を得て、施設のニーズに合わせて必要な支援を届ける仕組みが始動している。この活動を強化する方針で、「どうかたくさんの企業に参加をいただきたい。いずれは教育や医療、就労といった分野ともつながり、社会に大きな応援団を形成したい」と願いを語った。

SDGsの17目標のうち、日本は、「ジェンダー平等を実現しよう」の分野が最も遅れている。

「女性活躍のスタートにすら立てない少女たちに思いを寄せ、活動に力を貸してほしい。本当の意味で彼女たちのエンパワーメントや自立につなげていきたいんです」

アジアの潜在能力予測 一方でリスクも

電通インターナショナル(英ロンドン)のチーフサステナビリティオフィサー、アナ・ラングレー氏は、アジアの今後について、2030年までに世界の経済成長の6割を、2030年までには世界の総消費量の40%を占め、2050年には世界の都市人口の90%近くがアジアとアフリカに集中することが予測されている、と指摘。多様な文化と伝統を持ったアジアはイノベーションの豊かさと活気に満ち、世界の経済の重心が欧米からアジアへと根本的に変化することもあり得るとした上で、一方、世界銀行によると現在、アジアの10億人以上が銀行口座を持たず、コロナ後には3億4700万人もが貧困ラインを下回る可能性があり、世界の新たな貧困層の大部分を占めるとする推定がなされていることにも触れ、「成長のチャンスに乗り出す上で、だれ1人として取り残さないための選択肢をとらねばならない。ブランドは人気のあるものを超えて重要なものへと移行し、人間中心のビジネスモデルへと変革することが最重要課題だ。アジアの潜在力を解き放つためにも、変化のペースを甘く見てはいけない。今こそ考え方を変えるときだ」と主張した。

ワクチンを世界中に公平に届ける

新型コロナウイルスのワクチン開発で注目される英製薬大手の英アストラゼネカからはEU・カナダ地域のFinance VPであるアナ・ポンソーダ・アルバレス氏が、先月まで勤務していたという日本を懐かしみつつ、オンラインでスペインから登壇した。臨床開発段階にあるプロジェクトは145あり、昨年の新薬の承認件数は29件、社員数はグローバルで7万人を超えている。女性管理職の比率は45%以上、16カ国に26拠点を持ち、日本本社は大阪、工場は滋賀にある。健康をビジネスの中核であり、社会貢献の中核でもあると位置付ける同社は、コロナパンデミックの初期の段階から強いコミットメントを持って、ワクチンを公平に幅広く世界中に届けたいと考えてきた。コロナの間は利益を出さないという心構えだという。

サステナビリティについては、薬を必要な人に届ける「健康へのアクセス」と、環境保全、つまり「地球の健康へのアクセス」、そして、「倫理と透明」の3つを柱に取り組んでおり、日本ではすでにおよそ1万3000メガワット時の電力消費量を2020年には100%再生可能エネルギーでカバーすることに成功しているという。インクルージョンとダイバーシティにも100%コミットしており、「サステナビリティは、働きがいのある職場を実現するための鍵であると信じている」と確信を持って話した。

モビリティ超えた活動に挑戦し続ける

日産自動車の神田昌明理事は、「Beyond Mobility〜移動のその先へ、社会を前進させるモビリティ〜」と題して講演。はじめに、先月末に発表したばかりの、2050年カーボンニュートラル実現に向けた新たな目標について、そのマイルストーンとして2030年代の早期に主要市場で投入するすべての新型車を電動車両とし、電動化のイノベーションを推進すると表明した。

同社が2010年12月に他社に先駆けて販売した100%電気自動車である、日産リーフは、これまでに世界で50万台、国内で14万台以上を販売され、その航続距離は2010年の初期型から比べ約3倍に伸びている。2018年からはその大容量バッテリーを災害時の電力供給やエネルギーマネージメントに活用する活動を日本各地で行っており、すでに多くの地域が社会インフラの一部として採り入れている。また今月2日には福島県浜通り地域において、電気自動車を活用した新しいモビリティサービスやエネルギーマネジメント、強靭化などの取り組みを通じて未来のまちづくりの実現を目指す、自治体や業界の枠を超えた協定を11社との間で締結するなど、電気自動車としてのモビリティを超えた活動に挑戦し続けていることが報告された。

タイの市場「より良い未来が待ち受けている」

最後にビデオで登壇したタイの証券取引所のプレジデントである、Dr.Pakorn Peetathawatchaiは、タイの資本市場においてもESG経営や持続的な成長を遂げるための事業戦略を描くことの重要性が増していることを指摘。1997年にタイの金融危機が起こって以来、情報開示や会社の透明性を推進し、法律や規制によって投資家を守る取り組みなどを進めた結果、今、先進的なサステナビリティインデックスに属するタイの企業は東南アジアでも有数の規模となり、いくつかの業種で世界のリーダーとなる企業が数多く上場しているという。もっとも今の市場では、地球、人、経済の繁栄、この3つをいかにバランス良く、共に伸ばし、成長させるのか。これが新しい規範になっている。同取引所では「自分自身がその貢献者となっている」と言い、パートナー企業とともに、事業活動におけるCO2の削減や廃棄物の管理、また植林活動などを行っており、その効果測定に重点を置いていることが語られた。さらに不公平からくる収入格差をなくすため、ファイナンシャルリテラシーのプログラムを取り入れ、学生や高齢者、新社会人にも教育を行っているという。こうしたことを一貫して継続することで、「より良い未来が待ち受けていると信じている」。

「全国SDGs未来都市ブランド会議」同時開催
コロナ禍で「We are Regeneration」に手応え

この日も午後は、さまざまな企業や団体、自治体の代表らが集結するブレイクアウトセッションがあらゆるテーマで開かれ、大いに盛り上がった。また全国のSDGs未来都市の指定を受けた自治体の関係者らがそれぞれの取り組みを議論する「全国SDGs未来都市ブランド会議」も同時開催された。

2006年に米国で誕生したサステナブル・ブランド。日本では、2016年に「サステナブル・ブランド ジャパン」の活動が始まり、サステナブル・ブランド国際会議の国内での開催は今回で5回目。コロナ禍の緊急事態宣言下で厳戒態勢によるリアルとオンラインのハイブリッドで行われたが、過去最多の約3800人という参加者を記録するなど、サステナビリティへの関心の高まりはもちろん、コロナ禍で新しい企業価値の創造を追求する企業の多さを感じさせる、まさに「We are Regeneration(ウィー・アー・リジェネレーション)」のテーマにふさわしい会議となった。サステナブル・ブランド ジャパンは今後もさらにサステナブル・ブランドを目指す企業や団体、自治体が集まるプラットフォームであるだけでなく、社会にインパクトをもたらすアイデアやビジネスを生み出すプラットフォームとして活動をさらに進化させていく。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。