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「循環型オフィス」を実現するために何が必要か

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cradle to cradleをコンセプトにデザインされたオフィスチェア(Herman Miller)

サーキュラーエコノミー(CE)の概念は広範にわたり社会全体で実現していくものだ。しかしそれを推進する上で、産業ごとに具体的な課題や有効なアプローチを議論することが有効だ。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜で行われたセッション「サーキュラーオフィスで循環経済を具現化する」では、「オフィス」という観点でCEを実装する具体的な事例や考え方が共有された。企業が「CEを実現する」と言ったときに、まず足下のオフィスをどのように構築すればいいのだろうか。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

【Facilitator】
PwCサステナビリティ合同会社 
シニアマネージャー 山﨑 英幸 氏

【Panelist】
So Now Asia Pte Ltd
Chief Executive Officer Sann Carrière 氏

DSM株式会社
イノベーションディレクター、サステナビリティリード 栗木 研 氏

WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)は1月、ダボス会議でCircular Transition Indicatorsを発表した。CEの取り組み、進捗を評価する企業の枠組みだ。山﨑氏は「いよいよ企業が、どう自分たちでCEを実現するのかを考え始めた証拠と考えている」と話す。オフィスでの実装をテーマにした本セッションだが、そもそもサーキュラーエコノミーの重要点として、

・一社で資源循環のループを閉じることは難しいため、協力してアプローチすること
・経済合理性を実現しながら環境負荷を低減すること

の2点を山﨑氏は強調した。「CE先進国」と言われるオランダではどのようにコレクティブインパクトと経済合理性を実現しているのだろうか。同国に拠点を持ち、欧州とアジアを中心にCEに関するコンサルティングを手掛けるSo Now AsiaのSann Carrière CEOは次のように紹介する。

「バリューチェーン全体で協力するだけでなく、政府も役割を果たすことが必要だ。オランダは以前、欧州の中で持続可能な国とは言えなかった。2012年、オランダ政府は『2050年までに国全体としてCEを実現する』と打ち出した。大きな一歩として調達の基準を循環型にした」

パブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)の中で、政府が調達・購入するものを企業がレビューする。グリーン・ディールの一環として最初に特化して分析したのは政府オフィスで使用されている家具類だという。

具体的には、オランダ政府がオフィスでワークステーション(業務用コンピューター)を使っていることに着目した。ひとつの課題はコストだった。2012年にレビューを始め、2020年までの8年間で年間5000台のワークステーションを削減。日本円で年間約9億6000万円から約13億円のコストを節約したという。まさにコレクティブインパクトと経済合理性を実現した例だ。

「リニアから循環型へ変化させる」という意識

RE100に加盟するPwCは、主要なオフィスで100%再エネ調達を目指し、日本国内では2020年を目標達成の目途にしている。

山﨑氏は「会社が与える環境負荷は、出張による移動が7割、オフィスからが3割」と同社の現状分析を説明する。そこでPwC UKでは2007年から「Going Circular」と名付ける、オフィスを循環型にするプロジェクトを実施している。2012年まででオフィスから埋め立て地に向かうごみをゼロにして、2017年までにはビル内の100%リユース・リサイクルも実現した。ビル内で出るごみはバイオマス燃料に変え利用する。山﨑氏は「日本でもこのようなことを実現したい」と意欲的だ。

では、ハード面ではどうすれば循環型を実現できるのか。

DSMは1902年に炭鉱事業から始まり、石油化学工業、スペシャリティケミカルと事業を転換し、いまはライフサイエンス分野で事業を行っている。この20年間で約80%のビジネスポートフォリオを転換したというラディカルな企業だ。事業領域は多岐に渡るが「世界で最大のビタミン供給企業」であり、プラスチック製品も多くつくっているという。

「サステナビリティにつながること以外はしない、というのが会社のポリシー」と語ったのは栗木氏。SDGs、サステナビリティに関して独自のKPIを持ち、社内リーダーの報酬にも直結しているという。エコプラス、ピープルプラスを両立する製品の割合もKPIとして設定されている。「サステナビリティと経済合理性の統合は宿命だ」という。

「サーキュラーオフィスというとプラスチックに問題があると考えるかもしれない。一番の問題はリニアに使用していること。それをどうサーキュラーにするか」と問題意識を持つ。DSMが開発した技術「Niaga」は使用する接着剤の原料の一部が石油由来だ。しかしそれを利用したカーペットは素材のリサイクルが可能になる。

「米国の埋め立てごみでもっとも多いのは紙おむつ。そして2番目に多いのがカーペット」だと栗木氏は説明する。Niagaはそのソリューションだ。プラスチック製品の是非の議論はあるだろうが、リニアのモデルをどうやって循環型に変化させるのかという着眼点のシフトは重要だ。

一方、So Now AsiaのSann Carrière CEOはハード面でのオフィスのサーキュラー化について「サプライヤーの観点でビジネスケースを考える必要がある」と話す。

オフィスチェアの例では、米国の家具メーカーHerman Millerがcradle to cradle(ゆりかごからゆりかごまで)をコンセプトとした製品を発売している。たくさんの素材、パーツから成り立つオフィスチェアをデザイン段階から細かく分解可能にし、「モジュラー形式」にすることで素材を60%削減。さらに部品の交換や保守が容易になり、製品寿命を大きく伸ばしたものだ。製造段階での組み立て人件費の削減にも貢献するという。

しかし、オフィスの椅子やデスクは寿命が延びても「内装が変わったり移転したりで、まだ使えるものが3年程度で捨てられてしまうことも多い」という。

製品のライフサイクルの中でメンテナンスや交換が可能であるという観点でビジネスモデルを考えれば、ひとつの解決策はリサイクルすることで価値を延長することだ。その他にもリース方式で、オフィス家具を「as a Service」とすることも考えられる。Carrière CEOは「欧州での経験をもとにすると、リースの場合36カ月~48カ月で利益が出始める」という。

このようなサービスはこれから日本でも行うことを検討しているという。日本国内にオフィスのオペレーションを見直すニーズがあり、付加価値を生み出すことは「できると考えている」と話した。

市場全体でコンセプトの共有を

「循環型」をコンセプトにした製品やサービスは、導入するときに従来型の(サステナビリティに配慮していない)製品やサービスに比べ、価格が高い場合が多い。Carrière CEOは「同じものを何度も使うことによって、価格競争力がついてくる。最終的なコストを考えてほしい」と「利用の仕方」への根本的理解の必要性を語る。サプライヤーと利用者がビジネスモデルを共有し、確立していくことが重要だ。

DSMの栗木氏は「価格の問題は難しい」と前置きし、カーボンプライシング、炭素税、ごみ税といった「非サステナブルなもの、非循環型のものへの値付け」が必要なのではないかと話した。

「いま、会社が全体として危機感を持たなければないことは、利益と社会貢献の両立は絶対に必要になるということ。顧客や投資家だけでなく、社員がそれを求めている。アピールするだけでなく、実務を伴っていることでいい社員が集まり、どんどんプロフィットを獲れるようになると考えている」(栗木氏)