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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

サーキュラーエコノミーがつくる暮らしのカタチ―企業がいまやるべきことは?

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サーキュラーエコノミー──言葉こそ以前から知られるようになったが、それが具体的にどういうことを意味しているのか、はっきり認識している人は少ないだろう。サーキュラーエコノミーによって、私達の生活はどう変わるのか? サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、日本におけるサーキュラーエコノミーの第一人者と、取り組んでいる企業の担当者を招き、それぞれのビジョンを語ってもらった。そこから見えてきたのは、対応すべき待ったなしの現実と、企業が求められている役割だった。(いからしひろき)

【ファシリテーター】
サステナブル・ブランド国際会議
サステナビリティ・プロデューサー 足立 直樹 氏

【パネリスト】
一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン
代表理事 
中石 和良 氏

株式会社西武ホールディングス
社長室 室長 兼 経営企画本部 経営戦略部 部長 
原田 武夫 氏

東京ガス株式会社
サステナビリティ推進部 部長 
中島 伸二 氏

イケア・ジャパン株式会社
Sustainability Sustainability Business Partner 
マティアス フレドリクソン氏

この分野の専門家と、街づくりや生活インフラに直接関わる企業の面々が顔を揃えた。

「日本でもサーキュラーエコノミー(CE)という言葉を聞く機会は増えたが、そもそもCEとは何なのか、色々な考え方が混在しているように思える。CEによって多くの人が思っている以上に『違った経済、違った仕組み』が今後現れてくるに違いない。そこをまず体感してもらいたい」――足立氏はセッションの趣旨をこのように説明した。

サーキュラーエコノミー・ジャパンを2018年に立ち上げた中石氏はCEの国内の浸透について「リサイクルやアップサイクルをすればサーキュラーエコノミーになる、循環させることが目的、など、間違った理解をしている人が多い」と分析する。(参考記事=社会が目指すべき真のサーキュラーエコノミーとは)

2011年に国連環境計画(UNEP)と国際資源パネルが打ち出したデカップリングという概念──人間の幸福と経済成長、資源使用と環境影響どう切り離すか──において、サーキュラーエコノミーは大きな注目を浴びた。さらにSDGs、パリ協定の合意を経て、2015年にEUの「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」で明らかにされたのは「SDGsのゴールを達成するための方法としてサーキュラーエコノミーが有効」だという意見だ。これにより、グローバルな企業、都市、国が一気にサーキュラーエコノミーに取り組みはじめた。

さらに今、世界中が早急に取り組まなければいけない気候危機の問題に対しても、CEが完全にマッチするという概念が出てきている。

例えば去年の9月、国連気候行動サミットにおいて、英国に本拠を置くエレン・マッカーサー財団が発表した「サーキュラーエコノミーは気候変動に影響する」というレポート。その直後の12月にも、COP25でUNEPが「資源効率と気候変動のレポート」を発表した。

そして「これがとどめだ」と中石氏が言うのは、EUの「グリーン・ディール政策」。2050年までにEUで温室効果ガス排出ゼロにする。その中心がCEだ。気候変動に対してはCE以外の選択肢はない、という方向にもなりつつあるという。

国内企業の取り組み本格化へ

このようにサーキュラーエコノミーはもともとEUの政策としてスタートした考え方だ。なぜ日本の企業がそれに真正面から取り組もうとしているのだろうか。

西武ホールディングスの原田氏は社会の価値観の変容を指摘した。これまでは、鉄道事業なら利用者を目的地まで運ぶ、ホテルなら快適に泊まってもらう、不動産だったら建物を貸す、そうしたシンプルな事業構造だったが、Society5.0のような価値の変容──例えば電車に乗らなくても仕事ができる、家がホテルになる=民泊など──に伴い、旧来のビジネスモデルでは通用しなくなって来ていることをひしひしと実感しているという。

西武ホールディングスは中期経営でのサステナビリティアクションを開始し、積極的に取り組みを進めているが、鉄道、ホテル、レジャー、不動産業などを広い事業領域を持つ同社ではまだそれぞれの領域での「つながりができていない」という。

同社は歴史もあり規模も大きいため、身軽に動けない現実がある。そうした中、「西武ラボ」という新しい組織を社内に設置し、オープンイノベーションに取り組む。その活動のメインテーマは「Loss to Value 」だ。今まで活用できなかったものを自社のアセットを使ってビジネスに役立てていき「グループ全体では出来ない尖った取り組みを積極に行っている」という。

生活インフラを担う東京ガスの中島氏は「天然ガスは比較的クリーンではあるが、それを燃焼させる以上CO2排出量はゼロにならない。特にヨーロッパでは厳しい目が向けられている」と説明する。その上で、同社は昨年11月、CO2ネットゼロを宣言した。

一方で、コンロの販売なども行い消費者と非常に近しい事業領域であることは強みだ。同社では、2030年以降の「ポストSDGs時代」を見据え、その時あるべき日本の姿をイメージし、大きなテーマを「心」とした。

東京ガスの立ち位置、強み、未来へのビジョンを総合して勘案した結果、「炭素の循環だけでなく、物や自然、人、エネルギーなど、あらゆるものが循環しないと地球は成り立って行かない」と結論づけたとことが、CEに取り組む理由だ。そのためには、「(各企業や個人が)バラバラで動くのではなく、統合的なデザインを描くことが大切だ」と話した。

また「2050年にネットゼロ」という世界標準の目標は、モノをつくる量そのものを減らさなければ達成できない。シェアリングもその流れの一つであり、「そこにCEを取り入れれば、商品寿命を飛躍的に延ばすことができる」と中島氏は期待を寄せる。

さらに中島氏は「個人的な考え」と前置きした上で、「それを日本が率先してやるべきだ」と話す。鎖国政策を採用していた江戸時代、エネルギーを外国から一切輸入せずに江戸だけで150万人という人間が生活していた。しかも我慢してではなく、文化や芸術も花開かせ、楽しく生きながらだ。「ここにヒントがある」と中島氏は言う。

サーキュラーエコノミーで何が変わるのか

さて、サーキュラーエコノミーが大事だということは分かった。その一方で気になるのは、「私たちの生活はCEによってどうなるのか」ということだ。ただ我慢するだけではなく、豊かな生活も両立して目指せるのだろうか。

イケアはサステナビリティの先進地域と言われる北欧、スウェーデン発の企業だ。イケア・ジャパンのフレドリクソン氏は約10年前から日本に住むが、フリマアプリの流行に見られるCtoCの拡大といった消費者の動向は「日本とスウェーデンであまり変わらない」という。一方で明らかに差があるのは「インフラ」だと話した。

スウェーデンでは食品廃棄物の分別を徹底して行い、それをバイオガスにして公共バスを走らせている。また、家庭排水の汚れからはバイオマス・エネルギーを作り、地域に供給して日常的に活用している。これらはサーキュラーエコノミーという言葉が生まれる前から行われていることだという。

さらに、スウェーデンではオークションサイトで利用者にかかるコストをイケアがサポートするなど、製品寿命を延ばす地道な取り組みも行っている。日本ではイケア・ジャパンは2017年から家具買い取りサービスを始めている。買い取った家具はリペアし、バーゲンで再販売する。

「自分でリペアができるようにすることも大事」とフレドリクソン氏は続ける。そうすれば商品の価値を維持することができるし、長く使えば使うほど簡単には「捨てたくない」と思うからだ。

そして、「イケアがこれから一番力を入れていく」というのが「サーキュラーデザイン」。つまり、循環しやすいデザインだ。独自の「サーキュラーデザイン基準」では、リサイクル前提の素材の選定基準や、部品数を大幅に削減し標準化するなどを定める。2030年までにすべての製品にサーキュラーデザインを採用することを目指しているという。

このように国内では企業のあり方や製品、サービスそのものが変容していくことが求められている段階だ。西武ホールディングスの原田氏は、「バーチャルの世界ではグローバル化が進むが、リアルの世界ではコミュニティが小さくなるのでは」と述べた。そうすると重要になるのが「いかにリレーションをうまくつくるか」だと語る。

「事業の中身は変わらないが、地域とのつながり、コミュニティとの関係性は密接になってくるのではないかと思う」(原田氏)と言い東京ガスの中島氏は、「ローカリズムの時代になると思っている」と同意した。

「地方の自然の豊かさ、自ら体験できるということが非常に高価値になっていて、人間が幸せになるためにそれを求めるという内発的な動きの受け皿としても、ローカルが必要になる」との考えだ。

中石氏は、「サーキュラーエコノミーの3つの原理」が、世界中の国や都市で適用されていることを説明した。つまり、「人間と環境に有害なものを排出しない」「製品や原料をずっと使い続ける」「自然システムを再生する」ということを世界では実践しはじめている。

「環境に負荷を与えないというだけでは間に合わない。本来の形に再生することが大事。経済を成長させながらどう自然を再生させるか」(中石氏)

サーキュラーエコノミーを「使って」、新たな社会を形作る――

ではCEを実現するには具体的にどうすればいいのか。足立氏が水を向けると中石氏はこのように答えた。

「政策があって、そのビジョンに向かって国と企業と市民が一体となって進めるのが一番良い。しかし今の日本の現状では、その政策を待っている時間はない。したがって企業から動く必要がある。まず企業が動き、市民に気づきを与え、一緒にやっていくこと。そこに政策を巻き込んでいく形が、日本では今一番現実的だ」

また中島氏は「企業が動かなければいけない。さらに、一社では解決できないので、複数社でやっていかなければいけないと思う。その時に大事なのは本音でぶつかり合うこと。日本人は忖度したり、体裁を整えたりしがちだが、正解がないことに対しては通じない」と話した。

「サーキュラーエコノミーがつくる暮らしのカタチ」。本セッションのタイトルを、ファシリテーターの足立氏は「誤りだった」と語り「CEがつくるのではなく、私たちがサーキュラーエコノミーを使って『新しいカタチをつくっていく』ことが必要だ」と続けた。

「前提としては、もうこのままでは続かない、という現実がある。しかし小さく縮こまって行こうというのではなく、そうした制約条件があるからこそ、より豊かな社会を目指すことができるという希望も見えてきた。

それを実現するための方策の一つに、例えば地域で小さなループをたくさんつくっていくことが挙げられるが、これは企業だけではできないし、行政だけでもできない。この議論は皆と一緒に行っていきたい」(足立氏)

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」(自由国民社)がある。