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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

世界の潮流は「気候変動リスク対応」、投資家が注目

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投資家やステークホルダーから企業の非財務情報への注目が大きくなるなか、何をどのように考え開示すべきなのか。ツールのひとつとなるのが、気候変動関連リスク及び機会に関する「ガバナンス」「リスク管理」「指標と目標」についての開示を求めている「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」だ。日本では大和ハウス工業や積水化学工業など271の企業・機関が賛同(※)。世界の潮流は気候変動関連リスク対応に向かっている。(松島 香織)

(※2020年5月18日時点)

【Facilitator】
SB Japan Lab
サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー
サンメッセ総合研究所(Sinc)代表
田中 信康 氏

【Panelist】
大和ハウス工業株式会社 環境部 部長 小山 勝弘 氏
EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティサービス アソシエートパートナー 松本 千賀子氏
積水化学工業株式会社 ESG経営推進部 担当部長 三浦 仁美 氏
PRI事務局 ジャパンヘッド / CDP事務局 ジャパンディレクター 森澤 充世 氏
(50音順)

「サステナブル・ブランド国際会議 2020 横浜」に登壇したEY新日本有限責任監査法人の松本千賀子氏は、コンサルタント会社の視点からTCFDの実践ポイントを解説した。松本氏は「TCFDという開示情報が増えて負担に感じている企業があるが、世界の潮流から見てメリットがある」と強調する。

気候変動リスクは目に見えないネガティブな資産であるが、機会でもあり、有形ではないが価値になると考えられる。非財務情報は「未来財務情報」と呼ばれ、企業が非財務情報をいかに価値化しているか、投資家やステークホルダーが注目しているという。

TCFDの特徴は定量的なシナリオ分析にある。例えば「地球の平均気温の上昇を、産業革命の前と比べて2度未満に抑える」という気候変動シナリオに基づいて企業活動を行った場合、炭素税からのインパクトをバリューチェーン全体で見た時にどのように価格い転嫁してくるのか数字で見ることが出来る。

「変数を使って定量化すると、予想していた結果と違う数字が出てくる場合がある。だからこそ定量分析は価値があり、方向性や規模感を見られるメリットがある」と松本氏は話す。また取り組みのポイントとして「経営層のコミットメント」をあげ、全社で取り組む体制づくりが重要だとした。無形価値を見るための定量化をどうするのか、日本では大きなトレンドになるという。

TCFDによるシナリオ分析で事業の妥当性を再認識

「気候変動が深刻化し、将来家を持ちたいと考える若者がいなくなる危機感がある」と大和ハウス工業の小山勝弘・環境部長は話す。同社は国際イニシアティブである「EP100」「RE100」「SBT(Science Based Targets)」に加盟しているが、脱炭素を進める戦略としてTCFDで数値化しつつ、これら3つの取り組みで加速・循環させている。

TCFDを活用することで、それまでのリスク対応の妥当性が確認できたという。「分析をしたら終わりでなく、実際の活動に落とし込むことが重要」と小山環境部長は話し、住宅や街づくり事業で展開する際の戦略的なアプローチとして活用。その結果、経営層の理解が進みプロジェクト推進がしやすくなった。

積水化学工業の三浦仁美担当部長は、「環境対策は事業成長の質のシフトに欠かせない」と話した。同社がTCFDに取り組んだ理由として、気候変動に与える/与えられる変化はインパクトが大きく、不確実なドライビングフォースの中でも自分たちが取り組むべきであること、中長期計画の方向性策定前に検討することに有用性があること、シナリオ分析は自社のサステナビリティ向上とそれを示すための有効な手段であること、を挙げた。

同社は、気候変動対応2℃・4℃の場合と都市集中・地方分散を軸にしたシナリオを策定し分析した。その結果を現在の取り組みや展開している事業、今後の事業戦略に落とし込んで再確認し、多岐にわたる業種・業務参入による経営の強みを再認識できたという。

PRIはTCFD取り組みのためのガイドを作成

CDPジャパン ディレクターであり、PRIジャパン ヘッドを務める森澤充世氏は、CDPとPRIの両面からTCFDを解説した。

CDPは英国のNGOが管理・運営する環境影響についての情報開示システムであり、2018年にTCFDの提言内容を評価できる指標に大きく転換した。スコアリングの方法は公開しており、高いスコアリングを取るために何に注力すればよいかわかるようにしている。またデータは比較可能で標準化され、投資家の意思決定に役立つ。

PRI(国連責任投資原則)には世界で2500を超える機関投資家が賛同署名している。「気候変動対策のためのシナリオ分析はもっとも革新的で難易度が高いTCFDの提言であると、PRIも認識している」と森澤氏は話す。

そういった中でPRIは2018年に「TCFD提言の実施 アセットオーナー向けガイド」を作成した。TCFD提言を理解すること、有力要因の決定、専門家ツールの活用、対応及び報告の特定といった、気候変動シナリオ分析統合のため4段階のプロセスを設けている。

森澤氏は日本のESG投資について「長期の投資に気づいていない企業が多く、ワーカーズキャピタル(企業年金)が回っていない。日本ではそうした面が活発にならなくてはいけない」と指摘した。

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。