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地域課題を深く掘り下げ社会全体を巻き込もうーー第2回未来まちづくりフォーラム②

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第2回未来まちづくりフォーラムのスペシャルシンポジウムには、先進的にSDGsに取り組むトップリーダー5氏が登壇した。テーマは「SDGs未来都市と関係者協創の最前線―関係者連携による「協創」で日本一・オンリーワンを目指すにはー」。議論を通して見えてきたのは、地域課題を深く掘り下げ、その解決に向け、社会全体を巻き込む形でSDGs化を進めることの重要性だ。(廣末智子)

まちも変わってきたなという手応え

2018年にSDGs未来都市に認定された山口県宇部市の久保田后子市長は、SDGsの17の目標を、「人生のあらゆる場面を支える、基礎自治体の政策とすべて一致する」と説明。石炭産業が盛んでかつて「世界一灰の降る町」と言われていたが、宇部方式と呼ばれる独自の環境改善策によって1997年にはUNEP(国連環境計画)のグローバル500賞を受賞した。そこから現在にいたる同市の歩みを念頭に、「これまで(SDGs未来都市認定以前)は行政だけで取り組んできた地域の課題解決が、SDGsと市民、地元企業と出合うことによって、一緒に解決するための共通言語だったと気づいた。今では職員も担当部署がSDGsのターゲットの何番に当たるのかはっきり言える」と胸を張った。

一例として、医師や養護教諭ら専門職と地域住民が運営する「みんにゃ食堂」の活動を紹介。「お寺の一角で、地元の商店や企業も巻き込んで交流し、働く大人の姿を子どもに見せる場にもなっている。SDGsに取り組み始めてまちも変わってきたなという手応えの一つ」と成果を強調した。教育行政におけるSDGsの位置付けも効果を上げているという。

夢と現実の間の課題解決に本業がある

地銀初のSDGs宣言を2017年に表明し、地域金融の拠点としてSDGsに取り組む滋賀銀行(第2回ジャパンSDGsアワード 特別賞SDGsパートナーシップ賞も受賞)。高橋祥二郎頭取はCSR(企業の社会的責任)からSDGsへの変換の陣頭指揮をとり、銀行としては型破りな「サステナビリティ・デザイン・カンパニーを目指す」という言葉を経営計画に明示するようけん引した。

滋賀経済同友会が課題解決型ビジネスに取り組む企業を支援する「滋賀 SDGs×イノベーションハブ」にも座長として立ち上げから関わり、行員を派遣してさまざまなアイデアをビジネスにつなげる橋渡しに力を注ぐ。地方銀行9行による組織「TSUBASAアライアンス」でも強烈なリーダーシップを発揮している。

「お客さまの夢と現実の間にある課題を解決するところにわれわれの本業があるのではないか。金融仲介業をベースとしながらも、課題解決型金融情報サービス業としてビジネス展開したい」。SDGs時代を生きる金融機関の可能性を見据える。

Work in Life実現できる会社に

働きやすい職場の提案などを通じて住み続けられるまちづくりに寄与する、オカムラ。薄良子・フューチャーワークスタイル戦略部共創センター所長は、「大事なのは、働き方改革を(人事でなく)自分ごとにしていくための仕掛けづくり」と強調。「従業員一人ひとりのライフキャリアを会社が後押しできるよう、丁寧にストーリーで紡いでいる」と語った。

目指すはワークライフバランスならぬ「Work in Life」を実現できる会社。「自分たちの経験を通じて社会をより良くしていきたい」という思いをもとに、働き方改革を経営の最重要課題に据える。推進委員会には全事業本部の役員に労働組合委員長まで加わっているのもポイントだ。

メリットでなくインセンティブの議論を

野口氏
田口氏

一方、地方創生に軸足を置いたSDGsのキーパーソンとして、「メリットという言葉を使わず、報酬として何が受け取れるか、それによって何が便利になり、どういった社会貢献ができるかといったインセンティブを議論しよう」と呼び掛けたのはPwCコンサルティングの野口功一常務執行役員。100以上の課題の中からテーマを絞り込み、先進的なモビリティ社会を世界で最初につくったフィンランドを例に、「まずは地域課題を徹底的に掘り下げることが大事」「市民参加型の実証実験を繰り返すことで市民の意識が高まり、行動が変わった。それだけでも成功」などと語った。

SDGsの前提となる地域課題の見極めについては、東京丸の内を拠点にまちづくりの仕掛けを手がけるエコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)の田口真司氏も、重要性を強調。

「企業はどうしても、ソリューションに走ってしまいがち。原点に立ち返るためにも、課題を掘り続けるというのは絶対に大事だ」と力説。

もっともこの日の討論を踏まえて田口氏は、「数年前は、都市から見てマーケットの小さい地方はビジネスチャンスにならないという話がほとんどだった。それが今、まさに自分ごととして、首都圏の企業が地方のSDGsに関わっている。企業も組織もそこに勤める人も、いよいよ自分ごととして地域に関わり始めた。いろんな人がいろんな地域に行って人と出会い、歴史と未来を学び、成長して帰ってくる」とSDGsの広がりを評価した。

進行役を務めた笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長は、「本日登壇してくれたような関係者とコラボすることでSDGsの怖さ(やる人とやらない人の差がどんどん付いている、という意味合いによる)を乗り越え、新たなものに展開できる。ぜひ、今日の学びを実際に生かし、昔ながらの日本の三方よしに発信型を加えた形でのSDGs化を進めてほしい」と締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。