サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

若者たちが考える「次世代のサステナブルブランド」とは

  • Twitter
  • Facebook

いまや世界中の企業が提供している、サステナブルな商品やサービス。しかしそれらは次世代を担う若者たちの心に本当に響いているのだろうか。企業の一方的な理論や都合で「それらしいもの」を押し付けているだけではないか? サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、そうした疑問を前提に4人のモノ言う若人が集結。自分たちにとって理想なサステナブルブランド、ひいては持続可能な社会のあり方について議論した結果、導き出されたのは企業と若者の「協働」というキーワードだ。(いからしひろき)

ファシリテーターは、持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム 事務局長の新武志氏。

パネリストは株式会社パソナJOB HUB 旅するように働く部 マネージャーの山口春菜氏、TB4S 共同代表の小野澤孝良氏、慶應義塾大学4年生の木村瞭介氏。

人と人の距離を縮めるサービス

株式会社パソナJOB HUBの山口春菜氏は、「社会分野において、革新的なビジネスモデル」と題して、自らの活動の経緯を語った。

山口氏は、名古屋生まれの名古屋育ち。高校1年生の時の東日本大震災が転機となったという。

当時、学校にも家庭にも自分の居場所が無いことに息苦しさを感じていた山口氏。テレビで震災の光景を見て衝撃を受け、ボランティアに参加した。それを本人は「東北に家出した」と表現する。

結果的に、山口氏は東北の地域や人々に触れ、「救われた」という。東北には、他者を自分たちのコミュニティに寛容に受け入れる土壌があったからだ。この「原体験」から、山口氏は故郷の大切さを思い知る。しかし生まれ故郷や第二の故郷が無い人、あるいはあっても仕事の都合などで帰り辛い人も多いのでは無いか? そう思ったことが、後の活動につながっているという。

現在、山口氏が立ち上げを担当しているのが、「旅するようにはたらく」をコンセプトにした「JOB HUB TRAVEL」というサービス。

山口氏いわく、「やっていることはシンプル。複業したいフリーランスなどと、主に地域課題に取り組んでいる地方企業をマッチングすること」。ただし単なるスキルマッチングではない。山口氏は「エモマッチング」と呼ぶ。

それは、両者にきちんと信頼関係ができ、共感が生まれてからでないと持続可能ではないからだ。スキルマッチングだけでは単発の仕事で終わってしまう。数年単位の長いスパンで仕事をしてもらいたいという。それらの活動を、SDGsのゴール17にもあるように、企業や官公庁、20地域の自治体とパートナーシップを組んで行う。

「主に都市部にいる人たちが地域に関わるきっかけを作りたい」(山口氏)

今までのライフスタイルは、仕事は会社に必ず出勤して終身雇用、住まいは持ち家 旅は観光名所めぐるというもの。その結果、都市部と地域のつながりが希薄になり、人と社会環境が分断されてしまった。さらには生産者と消費者の距離も遠くなってしまい、生産者の顔が見えないからこそ物を大事にしない食べ物は残してしまうという状況に陥った。

しかし今後は、どの企業でもリモートワーク可で副業も解禁、住まいは多拠点で、旅はひととの交流が大事になってくるという。

つまりは、地域との濃いかかわりを通し、生産者と消費者の距離を近づけていくことが、自ら立ち上げようとしているサービスの最終目標であると述べた。

LOOPに見る成功のポイントは

続いては、TB4S共同代表の小野澤孝良氏。TB4Sは、社会課題をビジネスで解決するというミッションを持った若者たちの勉強会のコミュニティだ。

プレゼンのテーマは、 テラサイクル社の事例に学ぶ、サーキュラーエコノミー(資源循環型経済)の促進 サステナブル・ブランド・ジャパンだからこそできることは?」。日本でサーキュラーエコノミー(資源循環型経済)を促進するため、「サステナブル・ブランド・ジャパンだからこそできること」を一緒に考えたいという。

まず小野澤氏から以下の2つの課題が提示された。

課題1:「囚人のジレンマ」により、競合企業同士が協力できない


これは競合であるA社とB社が、互いに出し抜かれることを恐れる結果、サステナブルな事業に踏み出せない。両者はこれまで通りの利益を上げることができるが、 犠牲になるのは次世代の人たちの生活だという。

課題2:「鶏と卵のジレンマ」により、消費者と企業が協力できない

サステナブルな製品やサービスが「提供されないから」「買われないから」 という他責の循環から抜け出せないため、サステナブルな製品やサービスが市場に出回らない。ここでも損をするのは次世代である。

どうすれば解決するのか?

対策方針として、米テラサイクル社の事例を紹介した。

テラサイクル社は2001年に「廃棄物という概念をなくす」というコンセプトのもと、19歳の若者が作った会社だ。「LOOP」というサービスは今やサーキュラー・エコノミー界のAmazonとも言われている。

同社の目的は容器の廃棄物をなくすこと。そのスキームは至ってシンプルだ。

消費者が自分の欲しい商品をネットで注文するとAmazon のように自宅に届く。しかしAmazonと違うのは、使った後にテラサイクル社が容器を取りに来ること。回収された容器は洗浄され、また新しい商品のために使われる。つまり消費財食品メーカーは中身だけを提供するので、容器の廃棄物が生まれない。

この取り組みが成功したポイントが以下の3点だという。

1, 多様なステイクホルダーとの協働
このスキームはテラサイクル社だけが考えたのではなく、P & G などの消費財メーカーと一緒に考え、一緒に実行している。競合同士が一緒にサステナブルな市場作ろうと協働することで、課題1の「囚人のジレンマ」を乗り越えることができた。

2,製品・サービスによる価値提供
店に行かなくていいから便利、容器がかっこいいという付加価値を与えた。

3, 価値観に訴えるPR
ダボス会議などで廃棄物を無くしてこうというミッションを世界中に発信。ポイント2と3を同時に行うことで、「鶏と卵のジレンマ」を打破している。

この3つのポイントを「サステナブルブランドジャパンだからできること」に当てはめてみるとどうなるのか?

時間の都合で、後の質疑応答や個別の意見交換にその機会を譲ったが、「ぜひ中高生などの若者と議論したい!」と会場に投げかけ、プレゼンを終えた。

アンケート結果から考える「次世代のサステナブルブランド」

慶應義塾大学環境情報学部(SFC)4年生で、キヤノングローバル戦略研究所 アシスタントの木村瞭介氏は、「サステナブルブランドのアンケート調査からの考察 ユースの視点を中心に〜」というテーマのプレゼンテーションを行った。

調査概要は、三部構成のアンケート。8日間の調査期間で得られた回答のうち、今回はユースの182件だけに絞って発表するとした。

回答者の属性は女性が2/3。最多の回答は21歳。原住地は東京神奈川大阪で60%を占めた。このことから「女性」「大学生」「環境やSDGsに興味」という属性のアウトラインが浮かび上がった。

調査結果は以下の通り。

第1部 サステナビリティに関する意識調査

まず、「あなたは持続可能な開発目標(SDGs)を知っていますか?」という質問には、おおむね「よく知っている」という回答が得られた。そして「あなたの関心がある社会課題は、SDGsのどのゴールに最もよく当てはまりますか?」という問いには、「気候変動」が1位になったという。
 
木村氏が注目するポイントは次の2つの質問の格差だ。

「あなたは特定の社会課題や国際課題に興味がありますか?」という問いには、おおむね「興味がある」というポジティブな回答が得られたが、「あなた自身、社会問題解決に向けて取り組んでいますか?」という質問には、「そうではない」というネガティブな回答が多くを占めたという。

「ここに大きなギャップがあるが、逆に大きなチャンスがあるとも言える」と木村氏は述べた。

第2部; 企業とサステナビリティ

「民間企業は十分にサステイナブルに資する活動をしていると考えるか?」という質問には、「あまり十分ではない」というコメントが一番多かった。さらに自由回答の部分では「SDGsバッジをつけた人に、あなたの会社の活動はどういったものですかと聞いたら何も答えられなかった」というものもあったという。

「人事担当の人にはさらに衝撃的な事実」と前置きして紹介したのは「あなたは就職・転職する際、企業が社会課題解決に積極的な企業かどうかを意識しますか?」という質問。これは「YES」という回答がほとんど。

さらには、「あなたが知っている企業で、社会貢献性が高いと思う企業を以下の記述欄に記入してください」という質問の回答は、トップがpatagoniaで5人から6人に1人、LUSHも8人に1人。9割近くが B to C 企業だった。

第3部;あなたの周囲の人について

「あなたの周囲の人が、どの程度持続可能な開発目標(SDGs)を知っていると思いますか?」という質問は回答が割れたという。それについては「おそらく周囲の人とはあまり話す機会がないのでは? 逆に言うと話せる場面を作り出せばチャンスになると思う」と分析。

さらにユースのSDGsへの関与については、自分の母校であり大川印刷・大川社長の母校でもある「関東学院高校」の事例を紹介した。実際に母校でインタビューした結果、多くがSDGsに触れており、彼らが将来大学生になり、就職する時点では、「SDGsに関わってない企業は選ばれない可能性がある」と述べた。

また、横浜市のユースらと2月頭に行った議論では、以下のテーマが挙がった。

・サスティナブルの基準とは?
・SDGsに貢献した「実感」が欲しい
・B to Bの企業とB to Cを分けて考える?

アンケート結果やインタビュー、議論などを踏まえ、同じ横浜市のユースを代表して木村氏が総括するには、次世代におけるサステナブル活動の姿は、

・わかりやすいこと
・一体感があること
・無理がないこと

がキーワードになるという。

世代を超えた「協働」を

パネルディスカッションは主に3つの質問で構成された。

1, 次世代のサステナブルブランドとは結局なんなのか?

この質問に対して、山口氏は「根本的にワクワクしないと誰もやらないんじゃないか」と口火を切った。それが若者のモチベーションであり、持続性につながるから。そのワクワクとして楽しい活動が「結果的に地球に優しいというのが理想」だと述べた。

小野澤氏は、コロナウイルスが蔓延するダイヤモンドプリンセス号に乗り込んだ岩田健太郎教授のYouTube動画を例に挙げた。同教授の動画に心を動かされたという小野澤氏は、その理由を二つあるとした。1つ目は、現場に入り込んだこと。現場を見てどんな課題があるのかを的確につかんだ。2つ目は現場に入ることで自分ごとにすることができた。だからこそ熱意を持って語りかけることができ、130万再生という結果につながったという。「ブランドとは消費者とのコミュニケーションであり、消費者の心を動かすことがサステナブルブランドの本質なのではないか」とまとめた。

木村氏は、アンケートを紐解き、そこからキーワードとして挙げられるのが「無意識」だとした。それはネガティブではなくポジティブな無意識だという。例えば、自由回答の「どんなものでもいいので身近なものに直結してほしい」「サステナブルであることが当たり前の社会」というコメントに表れている。若者が目指しているのは無意識にサステナブルに貢献している社会。これは山口氏の意見にも通じる。

2, それに企業がなるためにはどんな障壁があるのか?

木村氏は、「企業間の分断」と「企業と消費者の分断」の2つのキーワードを挙げた。アンケート調査でサステナビリティに貢献していると思う企業の9割が B to C 企業だった通り、B to C 企業は消費者の反応もあるので頑張れる。しかし、B to B 企業は最終消費者に訴求しづらいので、そこに企業間の分断が生まれ、ひいては企業と消費者との分断が生まれているという。しかし、B to B 企業であっても、B to B to C to S という形でS=ソサエティ=社会にインパクトを与えることが出来る。だから「B to C 企業と B to B 企業の協働がもっとあっても良い」と意見を述べた。

小野澤氏は、「不信感」をキーワードとして挙げた。プレゼンで説明された2つのジレンマは、企業同士の不信感、企業と消費者の不信感が根底にあるからだ。「お互い少しくらい損をしてでもサステナブルな市場に一緒に行こうと同時に動ければ、誰も負けずに市場が動くのではないか」という。それを克服するためには「課題意識と理想状態とをしっかりと共有することが大事」だと述べた。

山口氏は、自分の体験を例に、「若い人にもっと貢献させてください」と訴えた。若者は大人を否定しているわけではなく、一緒に頑張りたいと思っている。それを頭ごなしに否定されると萎縮してしまうからだ。

3, その障壁を乗り越えるには どんなアクションが必要なのか?

小野澤氏は、「伝えたいこと」として2つ述べた。
1つ目は 「ブランドの力はすごく強い」ということ。消費者の価値観を変える力を持つのがブランド。サステナブルな世の中にするという信念のもと、若者らとともに議論し、消費者にメッセージを発信して欲しいと訴えた。
2つ目は「若者を巻き込んで欲しい」ということ。特に各企業にいる若手社員。社会課題について議論する場や安心して発信できる場を設けてもらいたいと述べた。

木村氏も、2つのポイントを挙げた。
1つ目は「外発性・内発的」ということ。これは小野澤氏の意見とも通じるが、商品やサービスという外発性をきっかけに、若者の価値観を変え、内発的に行動させることができるのが、企業だからだ。
2つ目は「支援」。社会課題解決に意欲のある若い世代に、企業が資金やプラットフォームなどで支援することで、ユースと協働できると説いた。

最後に山口氏は、「言いたいのは一つだけ。若者と一緒に現場に行ってください」と訴えた。実際に現場に行き、実際に人と話し、関係を継続させていくことを若い人達と一緒にやってほしいという。

最後にファシリテーターの新氏が、「企業と若者は同じステークホルダー。持続可能な社会にするための同じ責任者だ。同じ目的を持ち、現場感を持って協働できるか。それが肝になってくる」と語り、セッションをまとめた。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。