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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

持続可能な社会の実現に向けた5GとMaaSの可能性

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【Facilitator】
サンメッセ総合研究所(Sinc) 所長/首席研究員
川村 雅彦

【Panelist】
ヤマハ発動機株式会社
白石 章二 先進技術本部NV事業統括部 フェロー/統括本部長

株式会社情報通信総合研究所
岸田 重行 ICTリサーチ・コンサルティング部 上席主任研究員

デジタルテクノロジーの変革は、持続可能な社会の実現にどのように貢献できるのか――。政府が掲げる未来社会のシステム「Society 5.0」を実現するには、5G(第五世代移動通信システム)やMaaS(Mobility as a Service)といった技術が必要だといわれている。サステナブルブランド国際会議 2020 横浜では、このふたつの技術で何が可能になるのかを解説。ビジネスとして今までにない新たな価値を生み出し、社会課題の解決につなげることなどを議論した。(松島 香織)

5Gのメリットは新たなサービスやビジネスを展開できること

情報通信総合研究所の岸田重行上席主任研究員は5Gの活用について、「産業基盤になる技術であり、高齢者のモビリティ確保、農業や地場産業、働き方改革、防災・減災などの社会課題を意識している」と説明した。

現在、さまざまな企業が5Gを試しており、イベントの配信や製造をICTで管理するスマートファクトリーなどの事例があるという。また経験値を積ませるノウハウをデジタルで作成し、技術の継承が安易になるなど適応範囲は広い。

「5Gの真のメリットは、これまでにない新たなサービスやビジネスを展開できること」と岸田上席主任研究員は強調する。一方で、生活全般に関わるインフラになった時、5Gに依存し過ぎるとつながらない時に大きなトラブルになる。「いかにメンテナンスし継続させていくかが重要。社会を空気のように支えるものにしなければ」と話した。

MaaSで交通のあり方を変え、未来型都市を実現

ヤマハ発動機の白石章二統括本部長はMaaSについて、「ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとして」とらえるという国土交通省の定義を紹介した。

公共交通の利用促進が目的だが、もうひとつの目的は資源・エネルギー使用の効率化であり、「実現するためには、マルチモーダル(陸運や海運など複数の交通機関を連携させる交通施策)であり、シームレスでないといけない」と指摘する。

例として、2017年からフィンランドのヘルシンキで実用化されている「ウィム(Whim)」を紹介した。利用者はウィムから提案された経路と料金を選択し決済を行う。経路には公共交通機関のほか、レンタカー、車や自転車のシェアなども含まれている。

このサービスにより、公共交通の利用が促進されマイカー利用が減った。ただし、CO2排出量に関する公表はないという。「交通が変わることで街が変わる。MaaSは未来の街づくりに貢献できる」と白石統括本部長は力を込めた。

高齢化社会やアジア・アフリカ諸国の課題解決に貢献

遠隔医療や、住んでいる人を自動的にモニタリングし、転倒したら救急車を呼び、玄関のカギを開けたりする「スマートハウス」などが実装化されている。「5Gを使うと見守りが変わる。センサーを作る企業の新しいビジネスになり、それらが重なってイノベーションが起きる」と岸田上席主任研究員は話す。

高齢者が一人暮らしで外に出なくなると認知症になる可能性が増す。家から出る機会を増やすことが必要だが、そうした場合にもなるべく数人で一緒に動くようにして、より効率的に全体のコストをかけないことが大切だ。「互いに助け合う、そういう社会を実現したい」と白石統括本部長は語る。

経済発展には交通の活発化が非常に重要になるが、マイカーでは渋滞が起きCO2排出量が増える。「通信技術は設備投資がかかり、国や地域の経済力に左右されていた。今まで通信技術はこうした格差を助長した側だったかもしれない」と岸田上席主任研究員は反省を込めて指摘する。通信ができないと生活の質が上がらない。いかに安くつなげるかが課題である。

会場から「こうした技術で時間・距離・場所の制限がなくなる。人が移動することに価値あるのか」という質問があった。白石統括本部長は「現実的に世界では人の移動が増えている。移動して人に会って話をする、社会性を維持することは人間にとって価値がある」と、技術や便利さにとらわれず、人間性や社会性を見失わないようにすることが大切であると示唆した。

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。