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「未常識」を常識へ、1人ひとりが食品ロスを考える意識改革が必要

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ファシリテーターの農林水産省 三浦氏、パネリストの三浦氏、杵島氏、桑原氏

食品ロスは一般家庭からの発生が多い。国民1人当たり1日に茶碗約1杯分が捨てられており、消費者として1人ひとりの意識改革が必要とされている。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、食品ロス削減になぜ取り組まなければならないのか、取り組みが進まないのはなぜなのか、コンビニ大手のローソン、システム開発により業務改善に成功した外食チェーン、食品ロス削減に取り組む大学生らが登壇し議論した。(松島 香織)

ファシリテーター:
三浦 寛子 (農林水産省 食料産業局バイオマス循環資源課 課長補佐 (食品リサイクル班))
パネリスト:
三浦 弘之 (ローソン 事業サポート本部 環境社会共生・地域連携推進部 マネジャー)
杵島 弘晃 (きじま 新規事業開発室 新規事業開発室長)
桑原 慧 (Youth Earthtainment Japan 共同代表)

日本の食料自給率は37%(農林水産省「平成30年度食料自給率について」)であり、約6割は海外からの輸入に頼っている。世界では9人に1人が栄養不足(国連食糧農業機関『The State of Food Security and Nutrition in the World 2018』)と言われているが、多くを輸入に頼りつつ日本では食品を「捨てている」という現状だ。

だが、小売は「3分の1ルール」を守り賞味期間を残した商品を消費者に提供したいと考え、消費者の中には賞味期限の長いものをわざわざ棚の奥から取る人もいる。「こうした行動を変えない限り食品ロス削減は進まない」と農林水産省の三浦寛子氏は話した。

2019年8月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した「土地関係特別報告書」には、食品ロス及び廃棄物の削減が温室効果ガス排出を抑制する可能性が高いことが明記されている。また国内では、2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行された。

「食品ロス削減は国民運動。『未常識』を『常識』にするため、自分たちの意識を変えることが必要」と三浦氏は意気込んだ。

ローソン、目標は2050年までに食品ロス100%削減

ローソンは、「Lawson Blue Challenge 2050!~“青い地球”を維持する為に!~」を掲げ、2050年までにリサイクルを含め食品ロスを100%削減することを掲げている。「まず発生抑制(リデュース)、次に再使用(リユース)し、再生利用(リサイクル)を考えている」と同社の三浦弘之氏は説明した。

現在、1店舗で1日に廃棄される食品は約11キロ。その内訳は、売れ残った食品が約9キロ、揚げ物に使った廃油が約2キロという。

発注はこれまでオーナーの勘に頼っていたが、ビックデータを活用した「セミオート発注」で適正な発注を進めている。さらに技術革新による低温保存で鮮度を保ち販売期間の延長が可能になった。また、時刻を見計らい値引きをするなど、売り切るようにしている。

2019年6月11日から8月31日まで、沖縄県と愛媛県の全店で、棚の前方から商品を購入した場合は5ポイントを付与し、さらに5%を地元団体に寄付する「アナザーチョイス」を実施した。しかしCMなどで告知したが周知が不足し、今後の課題となったという。

全国フードバンク推進協議会と合意書を締結し、店舗に納品できなかった食品を30団体のフードバンクに寄贈している。「メーカー独自の考えや鮮度管理を考慮する必要があるなど、クリアするハードルが多かった」と三浦氏は法制度による支援を求めた。

システム投資で食品ロス削減に成功、新たな付加価値に

神奈川県で和食レストランを展開しているきじまは、システム開発に投資したことで食品ロス削減と労働時間約7万時間削減に成功した。その余力で有機栽培野菜を利用したり合成洗剤の使用をやめ、和食料理店で初めてMSC(持続可能な漁業)やASC(責任ある養殖)認証があるサステナブルシーフードを使用するようになった。

きじまには年間約40万人の来店があるが、システム開発に投資したことが、人員配置の効率化や需要予測の精度を上げることを可能にした。「取り組みでできた余力で、生産者から直接アニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮した放牧の豚肉や平飼いの鶏肉を購入したり、以前の原価率を維持したまま無添加の食品を提供するなど、新たな付加価値を生み出すことができた」と杵島弘晃氏は話す。

楽しみながら、食品ロス削減の土壌を日本に作る

法政大学4年生(当時)の桑原慧氏はYouth Earthtainment Japan(ユース・アーステイメント・ジャパン)を設立し、東京オリンピック・パラリンピック大会開催時に発生する食品ロスの解決に取り組む。しかし、大会組織委員会や公式スポンサーなどと交渉をしてきたものの、同大会での食品ロス対策は進んでいないという。

その理由を桑原氏は「日本全体で食品ロス削減の土壌が整っていないという根本原因がある」からだと分析している。

桑原氏の団体はZ世代として、今後、さまざまな団体と連携しながら、食品ロス削減の土壌を作り、関心を高める活動を進めていく。「食品ロスに『取り組まなければならない』ではなく、『取り組みたい』と思うようにしたい。有効活用といった発想の転換も必要だし、取り組む人も楽しめるものにしたい」と抱負を語った。

東京オリ・パラ大会組織委員会の運営計画には、適量の発注など持続可能な取り組みが盛り込まれている。農林水産省の三浦氏は「会場周辺の飲食店にも食品ロス削減の啓発を進める」と付け加えた。

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。