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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

日本のものづくり企業が取り組むグリーンテクノロジー

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ファシリテーターの山吹氏、パネリストの徳永氏、稲継氏、松崎氏

環境技術と訳されるグリーンテクノロジーは地球環境を守るための技術であり、さまざまな分野に領域を広げている。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、中高層木造建築や持続可能なタイヤ、革新的なLEDなどグリーンテクノロジーの開発と普及に取り組む企業の事例から最新動向を探った。(岩崎 唱)

ファシリテーター:
山吹 善彦(サンメッセ総合研究所(Sinc) 副所長/上席研究員、サンメッセ ソリューション統括本部、SB Japan Lab)
パネリスト:
稲継 明宏(ブリヂストン グローバル経営戦略・企画本部 サステナビリティ推進部 部長)
徳永 達彦(旭化成 サステナビリティ推進部 部長)
松崎 裕之(竹中工務店 木造・木質建築推進本部 本部長)

時代が求めているグリーンテクノロジーに企業はどう取り組んでいるのか

ファシリテーターの山吹氏は初めに、わが国では2019年、環境研究・環境技術開発の推進戦略において「Society5.0」※1に「地域循環共生圏」※2がビルトインされた社会を目指し、AI、IoTなどのICTを最大限に活用していくことが策定されたと話した。山吹氏は「今回のセッションでは3社のグリーンテクノロジーへの取り組みを紹介していただき、グリーンテクノロジーの最新の動向について議論していきたい」と述べ、パネリストを紹介した。

※1 サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会。(内閣府)
※2 各地域が美しい自然景観などの地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方。(環境省)

100年に一度の変革にグリーンテクノロジーで対応

タイヤ事業が8割強を占めているブリヂストンは、海外売上高が8割、海外生産比率が7割というタイヤ市場をリードするグローバル企業だ。同社の稲継氏は、サステナビリティ分野における使命は「最高の品質で社会に貢献する」ことで、グローバルで多様な人材を活用できるという当社の強みを生かしながら、業界のリーダーとして未来に対する責任をしっかり果たし、サステナビリティの考え方を事業戦略、技術開発に結び付けていくことが重要だと語った。

自動車業界ではCASE(コネクテッド、自動運転、シェアード、電動化)と呼ばれる100年に一度の大きな変化が起こっている。これに呼応し、タイヤ空気圧がゼロになっても一定距離を走行できる「ランフラットタイヤ」、特殊形状のスポークで荷重を支え空気を使わない「エアフリーコンセプト」タイヤ、省資源化を実現した「ENLITEN(エンライトン)」タイヤ、狭幅化と大径・高内圧化で優れた低燃費性能を実現する次世代タイヤ技術「ologic(オロジック)」などを開発した。また、世界初の新材料「SUSYM(サシム)」はゴムと樹脂を分子レベルで結び付け高強度・高耐久を実現し、万一穴が開いても熱を加えると修復できる。同社は、グリーンテクノロジーを活用することで2050年以降に100%サステナブルマテリアル化を実現することを目指し、CO2削減、生物多様性ノーネットロス達成を目標に変革を進めているという。

製品ライフサイクルでの地球への環境負荷を減らす

旭化成の徳永氏は、グループビジョンで示している「健康で快適な生活」「環境との共生」を追求することが「持続可能な社会」につながるとし、人と地球のサステナブルな発展に貢献する旭化成グループの姿勢を「Care for People, Care for Earth(人と地球の未来を想う)」と表現していることを説明した。同社の主な業務は、マテリアル、住宅、ヘルスケアの3分野であり、創業当時からつねに社会ニーズに向き合って事業を広げている。

旭化成は持続可能な社会、循環型経済を構築するためにグリーンテクノロジーを使った新しい事業の創出に取り組み、製品のライフサイクルを通して地球への負荷をいかに低減できるかを考えているという。例えば、素材の分野では、有害物質のホスゲンを使わないポリカーボネイト製法を開発した。また、ヘルスケアの分野では、窒化アルミニウムの結晶から新開発した高出力殺菌用深紫外LEDの事業を行う。この新製品は小型で高出力のため水や空気などの殺菌に応用でき、従来の殺菌ランプのように水銀を使用しない。また、太陽光や風力発電などの余剰電力を高効率なアルカリ水電解システムで水素の形に変えて蓄えておき、必要なときにエネルギー源として利用するシステムも開発している。まったく新しい技術もあれば古い技術を応用したものもある。

徳永氏は「自社の強みを再認識し、お客さまのニーズ、世の中のトレンドを取り入れると、自ずと取り組んでいくべきグリーンテクノロジーが見えてくる。AIやIoTなどのICTを活用し、自社だけに拘らず、広くパートナーシップを求めながら取り組みを進めていきたい」と考えを語った。

中高層木造建築でまちづくりに森を取り込む

竹中工務店の松崎氏は、当社は創業1610年(慶長15年)で400年以上の歴史を持ち、東京タワーや東京ドームなど数々のランドマークの建設に携わってきたが、数多くの伝統木材建築も手掛けていると紹介した。2016年には、社内に木造・木質推進本部を設置し、竹中グループのCSRビジョン「まちづくりを通したサステナブル社会の実現」に応えて「木のイノベーションで森とまちの未来をつくる」ことに取り組んでいる。イノベーションの例として、耐火構造部材(2時間)の国土交通大臣認定を取得した耐火集成木材「燃エンウッド」の開発がある。独自の燃え止まり機構により、火災が生じても断熱効果(燃え代層)と吸熱効果(燃え止まり層)によって柱・梁(荷重支持部)を火災の熱から守ることができ、CLT板材なども使用することで木造の中高層建築を可能にした。

また、植えて育てて利用するという「森林サイクル」の枠を超えた「森林グランドサイクル」の実現に取り組んでいる。建物を木造化・木質化することで木材需要を高め、森林の産業を創出し、日本の森林・林業・地域を活性化していくことで持続可能な森づくりを行っていくという。2019年に竣工した地上10階の中高層木造建築「PARK WOOD 高森」(宮城県仙台市)は、大分県の中津江村で資材調達し、鹿児島県肝付町でCLTに加工し、仙台市のまちづくりの一環として建てた。木材を調達した大分県では伐採後に新しい森をつくるための植林活動も行った。日本では森林荒廃・林業衰退が課題となっているが、それを解決し、「木のある未来」をつくるために、地方創生や再生可能エネルギーの創出、森林グランドサイクル創出に向けた地域連携協定締結にも取り組んでいると述べた。

その後、ファシリテーターの山吹氏とパネリストの間でいくつかの質問が交わされた。山吹氏は「テクノロジーだけではすぐに解決できない面もあり、仕組みづくりも含めて取り組んでいく必要がある。グリーンテクノジーは、商品を生み出すだけでなく社会的な価値を生み出すので、やり続けていくことが大切だ」と締めくくった。