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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

サステナブル・ブランドであるために環境再生型ビジネスを行う

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サステナブル・ブランド国際会議2020横浜は「グッド・ライフの実現」をテーマにビジネスや次世代教育といったキーワードを軸に開催された。2日目の基調講演のトップバッターを飾り、参加者を惹きつけた米パタゴニアの経営哲学の責任者ヴィンセント・スタンリー氏はランチセッション「The road to regeneration(環境再生型ビジネスへの道)」にも登壇した。司会はサステナブル・ブランドの創設者で、サステナブル・ブランド ワールドワイドのコーアン・スカジニアCEOが務めた。多くの参加者がランチを食べながらも真剣に、世界的リーディングカンパニーの経営哲学に耳を傾けた。(やなぎさわまどか)

スタンリー氏はパタゴニアを創設したイヴォン・シュイナード氏の甥にあたる。シュイナード氏が著書『社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論』を出していることを引き合いに出し、「私は別にサーファーではないんですよ」と爽やかな笑いを誘いながら、セールスマネージャーを20年間していたことや、現在は1980-90年代に築き上げてきた同社のフィロソフィー(哲学)をすべての従業員に伝えていることなどを話した。また、イェール大学経営大学院の客員研究員でもあるため、学生世代との話題などにも触れた。

スカジニア氏から「この中で哲学の担当者がいる企業の方はいますか」という問いかけがなされると、会場からの挙手は数名にとどまった。

「特にこの1―2年はビジネスにおけるパーパス(存在意義)が話題になっています。しかし掲げているだけでは意味がなく『パーパス・ウォッシュ』に陥る可能性もある。そうならないために、高い理念を伝えて、社員たちが自ら体現することが欠かせません」(スカンジニア氏)

スカジニア氏が「社会を変えるヒーローはブランドではなく顧客。顧客をヒーローにすることが求められている」と話すと、スタンリー氏は哲学「ミッション・ステートメント」を共有する意味に触れ、こう話した。

「顧客をヒーローにすることも大切です。でもそれだけでなく、社会的、環境的危機に対して一緒に何ができるかを考えてほしいと思っています」

野心的な、高い目標の達成に向けて確実に歩みを進めるには、事業規模が大きい企業であればこそ「小さく簡単なプロジェクトから解決していくといいでしょう」とアドバイスをした。パタゴニアも会社の成長とともに少しずつ目標を高め続け、現在は常に野心的なゴールを掲げている。

「自社の製品ライン全体でオーガニックコットンを使用するという転換を行ったことはとても大きなことでした。2018年、化石燃料で作られた素材の使用を2025年までにやめるという目標を設定しました。当初はそんなことできるのかという不安もありましたが、来年までには80%達成できる見込みで、予定通り達成できると確信しています」

目標を高くすることで、「協力すべき相手が必要になる」とコラボレーションを大切にしている。米国の小売最大手ウォルマートは、サステナビリティを向上させるためにパタゴニアに学びを請うてきたという。2社は2009年に「Sustainable Apparel Coalition(サステナブル・アパレル連合)」を立ち上げ、バリューチェーンのサステナビリティを測定するツールを開発した。

「われわれのような規模の企業にあのような大手企業が話を聞きに来てくれたことに驚きましたが、大変光栄なことです。サステナブル・アパレル連合には現在、250以上の組織が参画していて、素材の評価や消費者に対する透明性の確保、新技術の開発などに取り組んでいます」

リジェネラティブ(環境再生型)に関わる文脈に進むと、「われわれはサステナブルという言葉をあえて使わないようにしています。そもそも本当に環境にとってサステナブルとはなんだろうかと考えたら、自然が自らを再生できる持続可能な状態にすることなどできていないと感じています」と根底に抱えた大きな問いを吐露した。

「サステナビリティを実現するために、レスポンシブル(責任ある企業)であろうと思いました。地球の土壌に着目し、健康な土壌をつくることで、自然から奪う以上に多くのものを返せると考え、食品事業『パタゴニア プロビジョンズ』を始めるにいたりました。サステナブルであるためにはリジェネラティブでなければならないと思っています」

環境に対する企業の責任を、われわれ人間の基本的活動であるビジネスが果たしていくことで、「政府よりも環境に貢献できる可能性もある」というふたりの意見に、背中を押される参加者が多くいた。

やなぎさわまどか

神奈川県出身。ナチュラリストの母により幼少時代から自然食や発酵食品で育つ。高校在学中から留学など度々の単身海外生活を経験。都内のコンサルティング企業に勤務中、東日本大震災で帰宅難民を経験したことをきっかけに暮らし方を段階的にシフトする。現在は横浜から県内の山間部に移り、食や環境に関する取材執筆、編集、翻訳通訳のマネジメントなど。