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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

教員と企業が意見交換 日本のサステナブル教育にいま必要なこととは

SDGsやESGなど企業の取り組みに関する言葉は日本でも普及してきたが、ESD(Education for Sustainable Development)と呼ばれる「持続可能な開発のための教育」の考え方はまだ浸透していない。その推進のために企業は何ができるのか。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、日本旅行やファーストリテイリングなど、ESDに関する取り組みを行う企業と全国の教員を結びつけるセッションを開催。活発な意見交換の末に見えてきたのは、企業側のより積極的な働きかけと教育現場へのアプローチだ。(いからしひろき)

パネリストは以下の通り。

日本旅行 営業企画本部 SDGs推進チームマネージャー
椎葉隆介氏

ファーストリテイリング サステナビリティ部 ビジネス・社会課題解決連動チームリーダー
松林貴子氏

日本ケロッグ マーケティング部PRマネージャー
木村正人氏

東京工科大学 工学部応用化学科 大学院サステイナブル工学専攻 教授
江頭靖幸氏

セイコーエプソン 広報IR部エキスパート
立石祐二氏

ファシリテーターは朝日エルの岡山慶子会長が務めた。

会場は、全国から集まった教育関係者で満員となった。まずは各企業の取り組みのプレゼン、その後、会場の教育関係者たちの意見発表という段取りで進行した。

修学旅行を通じて持続可能性を伝える:日本旅行

最初に発表を行ったのは、日本旅行の椎葉氏。テーマは「SDGsを取り入れた教育旅行の取り組み」。同社は創業明治38年(1905年)の老舗旅行会社。2019年12月24日にSDGs宣言を行ったばかりだ。

そのきっかけとなったのは「修学旅行」だ。全国の学校の修学旅行を扱う同社だが、ここ数年、首都圏の高校の修学旅行見積仕様書に「SDGs」というキーワードが目につくようになってきたという。

ただし当初は「SDGsってなに?」といった印象。「パンフレットにロゴでも貼ればいいか」という程度の認識だったそうだが、SDGs関連のイベントへの協力依頼がさまざまな地域で起こるようになり、ついに「本腰を入れよう」と決意したそうだ。

さてそうした経緯で行われた日本旅行のSDGs宣言だが、スローガンは「Tourism for Tomorrow(ツーリズム・フォー・トゥモロー)」。この言葉には「自分たちのビジネスの種である観光資源をきっちり守っていく」という決意が込められている。同社にとっての観光資源とは具体的に「人」「風景」「文化」だそう。「環境」ではなく「風景」としたのは観光を生業とする企業の矜持だという。

取り組むSDGsは、12番、16番、17番だ。特にこだわったのが12番「つくる責任 つかう責任」で、これまでは顧客に言われたものを手配するのが仕事だったが、「今後は(旅行商品を作る会社の責任として)社会に対して必要なものをどんどん発信していく」と椎葉氏は抱負を語った。

すでに、国内外でSDGs関連の旅行商品を扱っており、例えば国内では京都でオーバーツーリズム(観光客が観光地のキャパシティ以上に訪れてしまうこと)を題材に学ぶことのできるプログラム、熊本では熊本日日新聞や肥後銀行など多企業との協働で水資源について学ぶプログラムを開発し、取り組んでいる。

そしてもう一つNPO法人TABLE FOR TWO(東京・港)とのコラボレーションも紹介された。同NPOは、対象となる定食や食品の購入1食につき20円の寄付金を開発途上国の子どもの学校給食にあてる活動を行っており、都内の800社程度にメニューを導入している。日本旅行は、その企業の社食に学生を連れていき、なぜ導入したかの経緯を担当者に話してもらい、実際に食べてもらう(つまり20円を寄付してもらう)というプログラムを行っている。これは同社のSDGs関連における主力商品で、同NPOと開発した弁当を修学旅行で食べてもらうなどの取り組みも行っている。

ちなみに、今回のサステナブル・ブランド国際会議にも全国の高校生を招待。「企業に取り組んでほしいSDGs」というテーマで協力企業にプレゼンを行うという貴重な体験の場を提供した。
 
また、今後はサンリオとの共同プロジェクトとして、例えば修学旅行先でアメニティを使わない、あるいは連泊でシーツを替えないといった活動に協力した学校にはサンリオの人気キャラクター、ハローキティとのコラボ商品などをプレゼントすることも検討しているそうだ。これは学生たちにとっても楽しみだろう。

職場体験の機会を提供:ファーストリテイリング

続いてはファーストリテイリングの松林氏。「ユニクロ」や「GU」を展開する同社のサステナビリティのテーマは「服のチカラを、社会のチカラに」だ。ここには「よい服をつくり、よい服を売ることで、 世界をよい方向へ変えていくことができる」というメッセージが込められている。同社が社会貢献活動を行うのは、コミュニティ自体が健全な状態にあってこそ事業が継続できるからであると松林氏は述べた。

活動の指針となるキーワードは次の3つ。

*Planet……地球に負荷をかけない服作り
*People……安全で人権配慮された職場環境をつくる
*Community……地域との共存共栄を目指していく

全商品リサイクル活動やスポーツ・文化支援、環境保全活動など6つの領域で具体的な取り組みを展開するが、今回のセッションに関係するのは「子ども・次世代教育」だ。

「子ども・次世代教育」の取り組みは「職場体験」と「出張授業 “届けよう服のチカラ”プロジェクト」の2つを柱としている。

「職場体験」は、主に中学2年生向けに通年実施され、2019年度は47都道府県・867校・約2500人が参加した。学校の近くの「ユニクロ」あるいは「GU」の店舗で、商品の陳列から接客、店内マイク放送などさまざまな仕事を臨場感とともに体験することで、働く意義や考える力、社会の一員としての自立心を養うことができるという。また、企業ならではのマーケティング、チームワーク、課題解決能力を磨く体験もできるのがメリットだ。

「出張授業 “届けよう服のチカラ”プロジェクト」は、全国の小中高校の生徒が中心になって行う学校版の全商品リサイクル活動だ。昨年度は46都道府県・442校・約4万人が参加し、約87万着の古着を回収したという。同社の社員が各学校に赴き、リサイクルの仕組みや難民問題についてレクチャーした後、校内や近隣に呼びかけて衣料を回収、ユニクロの提携先の倉庫に発送し、17のカテゴリーに選別して、難民キャンプへ送る。これにより国際問題や環境問題に関心を持ってもらうだけでなく「服の力を理解し、自分たちも社会貢献できると思えるきっかけをつくりたい」と松林氏は語った。

服は「命を守る」のと同時に「人としての尊厳を守る」ためのアイテムでもあると松林氏は説明した。そうした人間として必要最低限の尊厳すら維持できない状態の難民が世界に約7020万人、地球人口の約1%もいるという。

自治体やNPOと連携し朝食習慣と学習のプログラム:日本ケロッグ

服の次は「食」である。日本ケロッグの木村氏は、まず同社のルーツについて語った。創業者のケロッグ氏はもともと米国ミシガン州で療養所を経営し、そこで食事療法や健康療法、いまでいうヘルスツーリズムを実践していたという。その療養所に来る人のために栄養価の高い食事を提供すべく生み出したのが世界初のシリアル、のちの「コーンフレーク」だ。

現在は世界180カ国以上で展開しているが、そうしたルーツを持つことから、同社は昔から慈善活動に熱心だったという。1930年にケロッグ氏が子どものために設立した「W.K.ケロッグ財団」は現在、米国ではトップ10に入る規模の慈善団体だそうだ。

そんな同社は、子どもの食の課題解決のために「Breakfasts for Better Days(ブレックファースト・フォー・ベター・デイズ)」というプログラムを世界各国で展開している。持続可能な農業の支援や食育なども含まれるが、メインはSDGsの2番「飢餓をゼロに」にコミットメントする食事提供で、全世界で25億食を2025年までに無償提供する計画だ。

日本でも年間30万食をフードバンクやこども食堂に長年無償提供し続けているが、木村氏は「課題を感じている」と言う。というのも、こうした活動を続けているのに、「児童の朝食欠食」という問題がなくならないどころか、年々拡大しているからだ。

原因はさまざまに考えられるが、より複雑化している子どもの食の問題を解決するには、これまでのような食料支援型のアプローチだけではなく、自治体や教育関係者、NPOと連動した「課題解決型のアプローチ」への進化が必要だという結論に至った。

その考えのもと、昨年度から試験的に行っているのが滋賀県甲賀市(こうかし)との連携プロジェクト「こうか・こども朝活サロン」だ。甲賀市では子どもたちの「朝食習慣」を推進するための活動を以前から行っているが、以下のような課題が浮かび上がっていた。

1、なかなか子どもに届かない、食支援だけでは習慣化しない
2、夏休みになるとサポートできない
3、食の乱れが学業にも影響を及ぼす
4、外国人労働者の子どもが隔絶されている

そこで、ターゲットを「夏休みの朝食習慣化」に絞り、支援を行うこととした。

場所は甲賀市の公共施設を利用。日本ケロッグがシリアルを提供した。子どもたちが集まったら朝食タイム。自由に「マイシリアル」を選んで食べるという楽しげなもので、シリアルに慣れた外国人の子どもたちにも好評だったという。食後は「朝勉強」タイム。夏休みの宿題を朝のうちに片づけてしまおうという狙いだ。外国人の子どもたちには、「甲賀市国際交流協会」のスタッフが外国語サポートを行った。

結果的には、初日から最終日まで参加した子どももいるほど好評で、食事がモチベーションとなり勉強のやる気も引き出せたという。また、シリアルを置くだけなので食事提供のコストを低く抑えられることもわかった。

木村氏は子どもの食問題の課題解決に向けて、これからも自治体、NPO、教育専門家とコラボレーションしたアクションを進めていきたいと話し、「よいアイデアがあればぜひ教えて欲しい」と会場の教員たちに呼びかけた。

「サステイナブル工学」は全学科共通科目:東京工科大学

続いては、対象年齢がぐっと上がって大学生へのESDについて。東京工科大学工学部 大学院サステイナブル工学専攻の江頭教授がプレゼンテーションを行った。「サステイナブル工学」とは「サステイナブル社会をつくるための工学」であり、ライフサイクル思想に基づいてPlanet(地球環境との調和)、People(生活の質の向上)、Prosperity(経済の活性化)の3つの「P」の調和を行うという。

工学の目標は「より良いもの」を「より安く」「より大量」に作ることであるから、これまではPeople(生活の質の向上)とProsperity(経済の活性化)のバランスをとることでよしとされてきたが、そこに新たにもう一つ、Planet(地球環境との調和)というバランスの要因を取り入れるのがサステイナブル工学の肝であるという。

具体的には「環境に対する影響評価」であり、「LCA(Life Cycle Assessment)」を実践的に学ぶことだ。LCAとは、江頭氏いわく「何かのサービスや製品をつくる、それが原料採取から処理までどれくらいの環境負荷をかけているか、どれだけの資源を使っているかを評価する方法」だ。

同大学では、すべての学科でサステイナブル工学基礎、サステイナブル工学実習、サステイナブル工学プロジェクト演習を共通科目として学ぶ。

初年度は座学が中心だが、やがてグループワークやプレゼンテーションなどを通して、自ら「どうやったらCO2が減るか」や「この製品にはどんな社会価値があるか」ということを実践的に学んでいけるカリキュラムが組まれているという。学習においても、いかに“自分ごと”にするかが大事だということだ。

施策に必要なのは「技術」「機器」「コンテンツ」連動:セイコーエプソン

セイコーエプソンの立石氏は「これからの教育に向けエプソンができること」と題して発表を行った。同社はプリンターで有名だが、実はプロジェクターも売上高の2割を占めており、世界ナンバーワンシェアを18年間も続けている。今回はそのプロジェクターを活用した「バーチャルスクール」の提案であった。

百聞は一見にしかず、別階の会場フロアとの遠隔通信による実演が行われた。もともと企業向けに開発されたこのシステムで、立石氏いわく「遠く離れたオフィスをいかにも隣にいるように繋ぐことができる」とのこと。TV会議のように「あっちとこっち」に分断されるのではなく、あたかも隣の部署にいるかのように、「あっちの人は離席しているからいま電話できないね。あ、戻ってきたから電話しよう」など、臨場感のあるコミュニケーションができるという。臨場感は子どもたちの教育現場にも必要であろう。スマートフォンとつなぐこともできるので、工場の最深部や山奥など、実際に子どもたちを連れて行くには困難な場所を「社会科見学」させることも可能だ。

さらには、「スマートグラス」を併用しての授業が効果的だという。メガネ型のウェアラブル機器といえば、目を覆って一人の世界に入るイメージがあるが、これはシースルーになっているので、実際に見えているものに“追加”で情報が出てくるイメージだ(AR/拡張現実に近いか)。これを使えば、聴覚障害の子どもにリアルタイムで教員の言葉を「文字テロップ」として表示することができるという。

こうした映像機器など、先端技術の活用を推進する施策は、文部科学省も近年打ち出していることだが、「通信技術」「映像機器」「コンテンツ」の3つからなるサークルがつながって初めて動かすことができる。そして、そのカギを握るのが現場で実際に運用する教員だ。立石氏は、「どんな使い方があるか、ぜひ教えてほしい」と、日本ケロッグの木村氏同様、会場の教員たちに呼びかけた。

現場の教育者のリアルな声は

会場に集まった教育関係者からも活発な意見があった。登壇者の発表への感想だけでなく、持続可能な社会を担う若い世代へのESDの役割と課題、企業との連携についての課題と希望などがテーマだ。すべての意見が傾聴すべきものであったが、主な意見を以下に抜粋する。

【大阪府・中学校教師】
「これまで、海外の大学とつなぐ、聴覚障害児への対応、子ども食堂の立ち上げなど、やりたいことがたくさんあったが、リソースがなくて頓挫すること多数。(企業の力を借りるべきだが)現場の先生にはそれを良くないと考える人も多い。また、テレビ会議などの操作運用についていけない先生も。そうしたことを教えてもらう機会もぜひ提供してほしい」

【徳島県・小学校教師】
「我が校ではSDGsアワードでパートナーシップ賞をもらうなど、教職員一丸となってSDGsに取り組んでいるが、違う学校に行ったら『何それ?』という反応。社会課題に対して教員間でも温度差がある。社会課題を知らない教員の下にいる子どもは社会課題について学べない。もっと全体的に知っていく必要があると感じている」

【北海道・高校教師】
「企業と子どもをつなぐコーディネーターの役割として、生徒に還元する立場でありたい。田舎の小さい学校だが世界を見られる子どもたちを育てたい」

【広島県・中学教師】
「主体的な学びについてこの1年考えてきた。何事にも自分ごとで考える教育がESDなのだとこの2日間で実感した。ただ教育現場ではESDの浸透度が低い。ぜひ自分が今回の経験を伝えていきたい」

【兵庫県・高校教師】
「淡路島という小さな島の学校だが、企業との連携を進めている。ただし今は知識を得ている段階で止まっている。今後はもっとおもしろいことを生徒と一緒にやっていきたい。企業が学校と連携するメリットは何なのか。どんな学校と連携したいのか。それが分かれば学校もアピールしやすいので、ぜひ企業側もアピールしてほしい」

【横浜市・中高一貫校教師】
「教員自体が一番遅れていると実感した。肩書にとらわれ、新しいことにチャレンジできていない。変わらないといけない。企業と手を組みながら教員も学びながら進む必要を感じた。ただし、中高一貫校で教員の異動が少なく、昔からいる先生の反発も予想されるのが課題だ」

【熊本県・教員】
「教育課程を変える必要性を感じた。例えば6時間授業を4時間で終わらせ、午後からは子どもたちのやりたい探究の活動にあてる時間にして、そこに教員の力を注ぎたい。特別メニューに企業も参加してほしい。世の中について知らない先生も多いので、どんどん企業に入ってきてもらって、社会課題などについて教えてもらいたい」

【広島県・小学校教師】
「まわりの教師はSDGsに詳しくない。来年から本校で使う教科書の表紙にはSDGsが出るが、『これ何のこと?』という人が多い。問題意識はあるが行動に移せない。ここに企業の力を借りることができないか。きっと学校だけではできない、インパクトがあるダイナミックな活動ができるはず」

教育現場ではESDに熱心なのは一部の学校や教員に限られること、社会との接点が少なかったり、古い慣習に縛られがちであったりするため、新しい取り組みには消極的であること、それを打破するためには企業側の積極的なアピールと教育現場へのアプローチが求められていることが分かった。セッションの最後には、会場で企業担当者と教員が個別に交流しマッチングする機会を得た。今回のセッションが、サステナブルな未来への「一歩」となることを願うばかりである。

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」「東京もっこり散歩」(いずれも自由国民社)がある。