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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ブリヂストンが追求する「真のグローバル企業」の姿

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「真のグローバル企業にはまだ遠い」。タイヤ世界最大手ブリヂストンの津谷正明CEO(肩書は講演時。以下同)は2月20日、サステナブル・ブランド国際会議2020横浜の基調講演でそう話した。真のグローバル企業であるために、ブリヂストンは社会性を持ち、常に時代の先を読み、軌道修正しながら、タイヤ業界のすべての部門において「断トツ」を目指していくと力を込めた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)

石橋正二郎氏が1931年に創業したブリヂストンは国内、世界の同業他社に比べると歴史は短いが、現在ではタイヤの世界シェア1位。日本が誇るグローバル企業だ。それでも「これから真のグローバル企業になる」と向上心を持ち続ける姿勢は、社会性と先駆性を重視する創業の精神から生まれたものだ。津谷CEOは創業者の言葉を紹介した。

「単に営利を主眼とする事業は必ず永続性なく滅亡するものであるが、社会、国家を益する事業は永遠に繁栄すべきことを確信する」

「絶えず時世の変化を洞察し…時勢に一歩先んじ、よりよい製品を創造して社会の進歩発展に役立つよう心がけ(る)」

「社会に貢献する事業でなければ存続・発展できません。時代の先を読まなければ、事業を継続的に発展することはできません」。津谷CEOは2012年に就任して以来、持続的に業績を伸ばすことを常に念頭に置いてきたと語った。

最高の品質で社会に貢献

ブリヂストンは1988年、米国の大手企業ファイアストン社を買収した。当時、ブリヂストンの売上高は約6000億円。ファイアストン社の売上高はそれより少し低く、買収額は約3300億円(26億ドル)だった。大きな夢を持ち、新たなグローバル事業体をつくるために「大きな賭け」に出たが、買収後の20年間は「苦しいことの連続」だったという。その経験により、同社は基本に立ち返り、ブリヂストンの根本を問い直した。そうして2011年に企業理念を改めた。

使命(ミッション)は創業者が制定したものと変わらず「最高の品質で社会に貢献」。それを実現する4つの心構えとして「誠実協調」「進取独創」「現物現場」「熟慮断行」を定めた。

津谷CEOは「時代はいつも変わっていきます。その中で、企業の立ち位置も変わっていきます。この企業理念のリファイン(刷新)も最後ではないと思っています」と話した。

これに加え、数年ずつ時間をかけて「安全宣言(安全はすべてに優先する)」「品質宣言(お客様価値・感動を創造する)」「環境宣言(未来のすべての子どもたちが「安心」して暮らしていくために)」の3つの宣言をつくり、公表した。

CSRを重視し、「モビリティの進化に貢献する」「一人ひとりの生活と地域社会を支える」「環境負荷を低減し、より良い環境を残す」の3分野に力を入れる。多様な人材とグローバルネットワーク、世界一のリーダーシップを生かして、技術とイノベーションによるソリューションを提供し、ステークホルダーを巻き込んで解決策を考えていくことは同社の基盤領域だ。「これらのことが最低限守れないと事業として存続することが許されない」と津谷CEOは説明した。

ブリヂストンは世界に約14万人の従業員を抱える。重点課題として「グローバル企業文化の育成」「グローバル経営人材の育成」「グローバル経営体制の整備」を掲げる。コミュニケーションとチームワーク、ボトムアップによって重点課題に取り組み、経営の最終目標「真のグローバル企業 業界において全てに『断トツ』」であることを目指している。

「14万人の従業員一人ひとりに考えて欲しいと思います。もちろん経営者も含まれます。社会も企業も人間が営むものです。一人ひとりの考え方、姿勢が変わらなければ変わりません」

持続可能なモビリティ社会を支える商品を開発

津谷CEOは持続可能性を考えて開発された、革新的なタイヤを紹介した。

樹脂製のタイヤ「エアフリーコンセプト」は、タイヤの側面に張り巡らせた特殊形状の樹脂スポークが変形することで、車の重量を支え、衝撃を吸収する。空気を入れなくていいので、パンクすることもない。樹脂を使っているのでリサイクルできる。東京オリンピック・パラリンピックの会場でも使用されるという。

ランフラットタイヤは、パンクしても一定の距離を走ることができる商品だ。「ランフラットタイヤを使えば、ほとんど使われることなく廃棄されてしまうスペアタイヤが必要なくなります」と津谷CEOは説明し、こうした商品は安全に快適な運転をするためにも、タイヤ産業の未来にとっても重要と話した。

このほかにも、PlusStopという特殊な形状のバス停バリアレス縁石を横浜国立大学などと共同で研究・開発している。車いすやベビーカーを使う乗客、高齢者がスムーズに乗り降りできるように配慮したもので、縁石側面の特殊な形状などにより縁石がタイヤをガイドし、バスを停留所に寄せやすくする。都市化や高齢化、環境問題が深刻化し、公共交通の重要性が高まる中で求められるものだと同社は見ている。

さらに、100年に一度の大変革期といわれる自動車業界の中で、ブリヂストンは昨年、オランダのデジタルフリートソリューション事業を行う企業トム トム テレマティクス ビーヴィー社を買収。ドライバーや運行状況に関するさまざまなデータの管理・提供を通して、運送業者やドライバーの安全性・効率性・生産性の向上に貢献していくという。

最後に、津谷CEOは「もう一つだけみなさまにお話をさせていただきたい」と言い、こう説いた。

「われわれの社会にはさまざまな課題があります。しかし人類は世界の大きな課題を解決し、乗り越えながら今にいたっています。人間がつくっているものですから、パーフェクトなものなどありません。色々な課題がありますが、それを一つひとつ乗り越えて、その中でまた改善をしながら、解決策を見つけていくことが大切です。ブリヂストンもまだまだ色々な課題を抱えています。ただこれから、みなさま方と一緒になって社会課題を解決することができればと思っています」

小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。