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全国初!卓球とカフェで元気なまちづくり――公民連携で取り組む「健康寿命」延伸プログラムの成果

卓球珈琲(カフェ)プロジェクトの協定締結式は2019年3月21日に行われた。コーヒーを飲んで歓談や卓球ができるスペースを開放する

三重県の桑名市が、ネスレ日本や桑名市総合医療センターなどと公民連携で行った「桑名卓球珈琲(カフェ)プロジェクト」が注目を集めている。同市のまちづくり拠点施設で自由に使える卓球台を設置し、ネスカフェのカフェコーナーを併設した結果、市民の健康増進と集いの場づくりに大きく貢献したという。一見関係性のない「卓球」と「コーヒー」を結びつけたことが成功の秘訣だというが、その本質は? サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、日本初となるユニークなプロジェクトの当事者たちが、その経緯と成果を語った。(いからしひろき)

パネリストは、以下の通り。

桑名市役所 総務部部長 松岡孝幸氏
ネスレ日本 コーポレートアフェアーズ統括部 執行役員 コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來氏
桑名市総合医療センター 理事長 竹田寛氏
桑名市総合医療センター 糖尿病・内分泌内科医長 堀田康広氏

ファシリテーターは、朝日エル会長で、一般社団法人「卓球で日本を元気にする会」理事の岡山慶子氏。

桑名市役所の松岡氏は「卓球珈琲(たっきゅうカフェ)プロジェクト」発足の経緯を次のように話した。

桑名市は、三重県の一番北の市で、人口は約14万人。日本有数の集客力を誇るナガシマリゾートや、「その手はくわなの焼き蛤」の言葉遊びで知られる焼きハマグリ、「日本一やかましい祭り」といわれる石取祭などが魅力だ。

市の基本理念は『本物力こそ、桑名力』。「次世代へと続く 快適な暮らしの中で ゆるぎない魅力が 本物として 成長し続けるまち 桑名」というキャッチフレーズのもと、快適な暮らしを次世代につなげ、桑名にある「本物」をより磨き上げ、サステナブルなまちづくりを進めているところだ。

そのポイントは、「全員参加型市政」だという。これからは人口が縮減していく時代だ。行政だけではなく、民間企業や市民など、さまざまな人を巻き込んでの新たな手法やアイデアによるまちづくりが必須になる。これを進めるために、市では自由に提案を受け付ける窓口「コラボ・ラボ桑名」を設けている。そこに、朝日エル、卓球で日本を元気にする会、ネスレ日本などから提案を受け、本プロジェクトは平成30年夏に始動。約半年後、平成31年3月21日に「卓球珈琲」はオープンした。

コーヒーを主力とする食品メーカーのネスレ日本が、なぜ「まちづくり」に関わっているのだろうか。

そもそも同社の看板商品であるネスカフェ レギュラーソリュブルコーヒーは、1930年代初めにブラジルでコーヒー豆の大豊作による廃棄(価格暴落対策)を防ぐために誕生した商品である、と嘉納氏は説明する。そうしたことから、同社はこれまでも製品やサービスを通じて社会課題を解決し、消費者の生活の質を高め、健康な未来づくりに貢献すべく企業活動を続けてきた。

そして現代の日本の社会課題はなにかと考えた時に、浮かび上がったのが「コーヒーは人と人をつなぐ」ということだった。同社のコーヒーマシン「ネスカフェアンバサダー」は、ボタン一つで本格的なコーヒーが安価に飲めると評判だが、そうした利便性や経済性のベネフィットだけでなく、昨今のオフィスで課題となっている「IT化や喫煙ルーム廃止によるコミュニケーション不足」を解消するなど、エモーショナルなベネフィットも認められている。それを、高齢者の集いや子育て世帯の交流の場、自然災害の被災地の仮設住宅など地域社会のコミュニティーの場づくりにも役立てたいと、今回のプロジェクトに参加したというわけだ。

「桑名市総合医療センター」は、日本では珍しい民営と公営の病院の合併により平成30年4月に開院した新しい病院だ。その背景には国が進める公立病院改革の一環である再編・ネットワーク化があると竹田理事長は説明した。

日本の多くの公立病院は経営難で、この10年以上その総数は減り、反面赤字は増えている。400床以上の大病院でないと経営が成り立たないのが実情で、200-300床以下の小さな病院は再編成して病床数を増やす(しかし全体の病床数は減らす)しか生き残る道はないとされている。

そうした状況の中で、桑名市が含まれる桑員地区(約25万人の医療圏)の「私立山本総合病院(307床)」「私立平田循環器病院(79床)」「市立桑名市民病院(234床)」が合併した。全体の病床数が合計600余から約400に減ったのと同時に、これまで各病院に分散していた医師や施設が集約したことにより「医力の効率化」が起こったことが一番の効果だと竹田理事長は言う。

経営面でも赤字続きが一転開業翌年の今年は黒字見込み。「市民に愛される市民のための病院」を目指し、病院食に地元鮮魚の刺身や桑名の名物を出すなどソフトサービスにもさらに力を入れようとしている中で、今回「卓球珈琲」プロジェクトの提案を受けた。

そしてこのネスレ日本と桑名市総合医療センター、そして桑名市を結びつけたのが、1986年に創業し、長くピンクリボン運動など社会課題解決のためのアクションを業務にしてきた朝日エルの創業会長で本セッションのファシリテーター岡山氏だ。ネスレ日本とは、子どもたちへの栄養と運動プログラム「ネスレ ヘルシーキッズ プログラム」の日本での立ち上げと活動を通して出会い、そして桑名市総合医療センターの竹田理事長とは20年来の付き合いだという。

地域交流促進、健康効果のエビデンスも

さて、日本初のプロジェクト「卓球珈琲」は、桑名市に何をもたらしたのか。

桑名市の松岡氏は、「まずは、めずらしい取り組みで取材が増え、市のメディア露出がアップした」という。そして「地域の輪も広がった」とも。例えば、地元の小学生が高齢者と一緒に卓球を楽しんだり、地域イベントの後に皆で一緒に卓球を楽しんだり、地元の人がコーチを引き受けたりという姿は、見ていて心あたたまるものだったという。

会場で動画により紹介された利用者の声も「健康になるだけでなく、友達が増えた」「先輩から健康づくりのアドバイスもらえた」「出かけるのが楽しくなった」など、前向きなものが多かった。これについて岡山氏は「健康寿命延伸のためには、食、健康、生きがいを自然な暮らしに作ることが大事だが、それが自然に実現できた」と胸を張る。

そして今回注目されるのが、プロジェクトがもたらす健康効果について「エビデンス」をしっかり取ったということ。

担当した桑名市総合医療センターの堀田医師によれば、3カ月の「卓球珈琲」活動の前後で、参加した市民へのアンケートと身体測定を1回ずつ計2回、そして血液検査、血圧、血糖の検査などを行ったという。その結果、身体面では特に「中性脂肪に減少傾向」が認められた他、体内水分均衡の改善、体の痛みの軽減、心理面では活力・日常生活機能・精神状態に関する数値が大きく伸びた。生活状況についても、歩く速度が上がり、睡眠も十分とれているというアンケート結果が得られた。

さらに堀田氏が注目ポイントとして挙げたのは「高齢男性の社会参加が促された」こと。一般的に男性は高齢になると社会参加率が下がるが、本プロジェクトには60〜80代の男性が参加。堀田氏は「超高齢化社会の日本では、いかに高齢男性を外に引っ張り出すかが全国の自治体の課題だ。これを解消する効果があるのでは」と分析。竹田理事長はその理由について「男性は勝負事が好きだからではないか」と推測したが、さもありなんだ。

「卓球珈琲」の取り組みの本質は――

各者のプレゼンテーションを受けて、岡山氏は、成功の理由を以下の3つにまとめた。

1、手段のユニークさ(卓球とコーヒーの組み合わせ)
2、体制のユニークさ(皆で持続可能な地域をつくろうという志が一致)
3、成果検証のユニークさ(エビデンスによって信憑性が担保され、参加を促す効果あった)


さらにネスレ日本の嘉納氏は、「オフィスはすでに人がいるが、地域は積極的に働きかけないと人が集まらない」とした上で、「桑名市が常に利用できる公共施設を開放し、専任の担当者をつけたことが大きい」と分析。「桑名市がどれだけ本気かわかる。それが大きなポイント」と、まちづくりには自治体の姿勢が大事であると示唆した。

それに対して桑名市の松岡氏は、「今回のプロジェクトは地域住民が主体であり、行政は側面サポートに徹するべき」としつつ、市役所内のさまざまな部署が横断的に連携し、現場の活動にも積極的に関わった結果、「職員が刺激され、地域の役に立ちたいといきいきと仕事ができている」と、予想外の効果があったことを打ち明けた。さらに、医療機関に関わってもらったことは健康増進という本質を求める上で非常に有効だったとも述べた。

今後について、竹田理事長は「これからは予防医学が大事。特に生活習慣病をいかに防ぐか。その上でこのプロジェクトは模範的な活動だと思うし、ますます全国に広がっていくだろう」と展望した。

松岡氏は「『卓球珈琲』がきっかけで地域自体にも話しやすい環境が生まれた。他の地域からの視察も相次いでいる。参加している人は皆良い顔をしており、人と人のつながりがあると、精神的にいい循環を呼び込んで、心のなかに温かい風吹くかのようだ。エビデンスをもとに、この活動をますます推進していきたい」と抱負を語った。

ネスレ日本の嘉納氏は、「自分たちは、コーヒーマシンを通して立ち上げのわずかなきっかけづくりをしたにすぎないが、集まった人たちにさらに楽しんでもらいたいし、プロジェクト継続の役に立ちたい」と決意を述べた。

最後に岡山氏が総括として述べた、持続可能なまちづくりや健康増進プロジェクトに必要なのは「ほどよさ」という言葉が印象に残った。言い換えれば、自然に参加できる環境、ストレスのない人間関係、無理のない運動負荷でないと長くは続かない、ということだ。

その点、暮らしに馴染みのあるコーヒーと、同じく馴染みのある卓球を一緒にしたことは、理想的であった。言わずもがなだが、コーヒーはストレスを発散して人間関係を円滑にするし、卓球はさほど広い空間を必要とせず、運動負荷もアマチュアレベルなら強すぎない。

その本質は、さらに岡山氏の言葉を借りれば「まぜてもらう喜び」だ。これをいかに提供していくかが、今後の健康寿命延伸に関する活動の課題であり、ヒントといえそうだ。

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」(自由国民社)がある。