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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ビジョン策定からサステナビリティシフトを

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左からファシリテーターのサンメッセ総合研究所(Sinc) 副所長の山吹 善彦氏、モニターデロイトの山田氏、大和証券グループ本社の川那部氏、花王の上山氏、NTTデータの金田氏

企業に求められている長期ビジョンをどう策定し、どう伝えていくのか。「サステナブル・ブランド国際会議 2020 横浜」では、「2030 VISIONとコミュニケーション」をテーマにセッションが開催され、モニター デロイトはSDGsが求める経済の再検証などを解説し、ビジョンの策定について、花王、NTTデータ、大和証券がそれぞれ自社の策定方法を発表した。ビジョンの策定をきっかけに、企業のサステナビリティシフトが期待される。(松島 香織)

企業に変革を求めるSDGs

2030年はSDGs(持続可能な開発目標)達成の期限である。SDGsは当初、新規事業が見込める「宝の山」だと解説されることが多かったが、SDGsが根本的に問いかけているものは、「資本主義がこのまま続けられるのかということ」だとモニター デロイトStrategy スペシャリストリードの山田太雲氏は指摘する。

リーマンショックのような経済や気候変動の影響の中で資本主義はどこに向かうのか、企業の存在意義が問われているという。山田氏は「サステナビリティやSDGs、デジタルシフトを長期的価値に結び付けていくこと。その方向感覚を持ち、変革することが企業に求められている」と話した。

SDGsは、企業の収益やモデルを長期で見た時、その事業を続けられるのかどうか視座を与えてくれるツールである。SDGs統合型経営戦略ビジョンを策定し、「社会・経済を高次元レベルで融合している、企業のありたい姿を示すこと」の重要性を強調した。

大和証券グループ:トップダウンからボトムアップで社内浸透

大和証券は、2017年に就任した中田誠司社長のトップダウンでSDGsに積極的に取り組んでいる。2030VISIONは出していないが、社員にSDGsの取り組み意義や会社が取り組むことで何を達成しようとしているのかなど、社内浸透に力を入れ、企業としてボトムアップを重要視している。

現在の中期経営計画からSDGsを経営戦略の根底に置き、経済的価値と社会的価値の両立を目指すCSVを主な考え方としている。2018年にSDGs推進委員会を設置し、取締役会、執行役員会に紐づきグループ全体に波及させている。また同年にグループのSDGs推進アクションプラン「Passion for SDGs」を掲げた。社外向けでありつつ社員への宣言でもあるという。

大和証券グループ本社SDGs推進室の川那部留理子室長は「当社は地道な積み重ねをしてきた。共感されるヴィション策定には、社員を巻き込み一緒に考えるボトムアップは有用」と話し、「これまでの証券ビジネスと相関関係が低いものほどやろうとしている」と、ベビーリーフの栽培など、パートナーシップを軸にした「ハイブリッド戦略」を紹介した。

花王:ビジョン策定を常識変えるチャンスに

花王は、2019年4月にESG戦略「KireiLifestyle Plan」を公表した。企業理念「Kao Way」を踏襲し、変化の担い手は生活者へシフトすることなどをESG戦略に統合した。

マテリアリティを分析し、人・社会・地球のために計12のアクションを設定。行動指針には、企業理念の根幹である「実効性のあるコーポレートガバナンス」など「正道を歩む」ことにこだわった。具体的な数字で示すKPIを設定し、SDGsにも紐づくようにした。KPIの進捗は毎年開示し、事業戦略に統合して実行していく。

ESG部門の上山健一副統括は「ESG市場は小さくコストアップにつながるという視点があり、実行が難しい。ハードルを越えるにはトップダウンが必要」だと話した。ESG推進体制には、取締役会に直結したESG委員会を設置し、澤田道隆社長が委員長を務めている。

「環境や社会問題の解決は1社だけでは不可能。今後、ESG視点をベースにしつつ、生活者、自治体、優れた技術者などとの連携を視野に入れて進めていきたい」「環境・社会問題をネガティブに捉えるのではなく、常識を変えるチャンスに」と上山副統括は締め括った。

NTTデータ:クリエイティビティが経営戦略のカギ

NTTデータ総務部サステナビリティ担当シニア・スペシャリストの金田晃一氏は、持続可能な社会をつくるインパクトに必要な要素として「デジタルトランスフォーメーション」「コレクティブインパクト」「クリエイティビティ(今までと違う発想・考え方)」を挙げた。

「持続可能な社会実現のために、経済、社会、ライフスタイルの変革やクリエイティビティで課題解決するよう、国際会議がメッセージを出している。こうしたインパクトを経営戦略にどう入れていくかが重要」だと話す。

同社は、企業理念「Our Way」、グループビジョン、バリュー、社員信条、グローバル・コンプライアンス・ポリシーの5つで自社が目指す方向性を示している。その下に中期経営計画(2019~21年)があり、今年度からESG経営を取り入れSDGsとの関係性も示した。5年前のマテリアリティを見直し、KPIを設定している。

社内浸透には、用語の本質的な意味を整理し段階を踏んで説明しているという。また、課題からビジネスを発想するワークショップを開催し、仕事との統合思考を醸成している。「ビジネスの可能性が広がり、正しい形で社会課題解決ができる」と金田氏は話した。

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。