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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

先進的な企業は何が違うのか? 大和ハウスなど4社が語るサステナビリティへの取り組み

左から富士通サステナビリティ推進本部の藤崎氏、大和ハウス工業サステナビリティ企画部の近久氏、大川印刷社長の大川氏、YKK AP副社長の岩渕氏、ファシリテーターの見山氏

ビジネスの現場では、サステナビリティを意識し、事業戦略に取り込んでいかなければ、世界とは競争できない状況になっている。しかし「何をどう取り組めばいいのか、分からない」という経営者やSDGs担当者も多いだろう。第4回サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、サステナビリティに先進的であると自他共に認めるYKK APや大川印刷、大和ハウス工業、富士通の代表や担当者が一堂に会し、取り組み事例や社員への啓発の苦労等について語り合った。(いからしひろき)

「戦略的視点(なぜやるか)」と「組織的視点(どうやるか)」

パネリストは、YKK APの岩渕公祐副社長、大川印刷の大川哲郎社長、富士通の藤崎壮吾氏サステナビリティ推進本部CSR・SD統括部 統括部長、大和ハウス工業の近久啓太サステナビリティ企画部長(最初の発言順)。ファシリテーターはフィールド・デザイン・ネットワークス社長で専修大学経営学部特任教授の見山謙一郎氏が務めた。

歴史上、「持続可能な開発(Sustainable development)」という言葉が初めて使われたのは1987年、国連の「環境と開発に関する世界委員会(通称ブルントラント委員会)」の報告書だと言われる。「〈持続可能性と開発〉は両立できるか」という問いかけが、時代とともに〈環境保全と経済発展〉→〈将来世代と現役世代の利益〉→〈社会課題解決と企業価値向上〉と進化した。そうした二律背反するギャップとどう向き合っていくかが常に企業に問われてきたと見山氏は述べた。

その上で見山氏は、今回のテーマを2つ提示した。「戦略的視点(Why なぜやるのか?)」と「組織的視点(How どうやるのか?)」だ。

先進企業はどう取り組みを進めているのか

YKK APは、住宅の窓やビルのカーテンウォールのメーカーとして、2018年の売上高は4280億円、従業員を国内外に1万6000人抱えるグローバル企業だ。産業部門に比べ省エネ化が遅れている〈家庭部門〉でのCO2排出量削減に力を入れているという。

同社の岩渕副社長によれば、まず取り組んだのが、熱の出入りが大きな「窓」の断熱性能を高めることだという。熱伝導率が低く省エネ効果が高い「樹脂窓」の日本の普及率が欧州に比べて3分の1であることに目をつけ、2009年から普及率の向上に努めた。結果、当初は全出荷の9%だった「樹脂窓」の出荷割合は2019年には約3割にまで高まっており、これを4割にするのが直近の目標だという。

YKK APは企業理念に「善之巡環(他人の利益をはからずして自らの繁栄はない)」を掲げるが、「あまり発信してこなかった」と岩渕副社長は話す。今後は、積極的に社会に発信していこうと考えているという。

大川印刷といえば、地元横浜で1881年に創業し、今年で139年目を迎える老舗企業だ。崎陽軒のシュウマイ弁当の黄色い包装紙の印刷も同社の仕事。最近ではサステナビリティ先進企業であるパタゴニア社の日本での印刷も担っている。2016年からはJクレジットを使っての〈ゼロ・カーボン・プリント〉も実現した。

そんな先進的な取り組みで国内外から注目を浴びる大川印刷、そして大川社長。SDGsに取り組むことは「中小企業の経営課題を解決し、強靭な会社(レジリエントカンパニー)にしてくれる」と言う。同社はSDGsに取り組んだ結果、「売上高」「社員の採用率や定着率」「労働安全衛生」などが大きく向上したというのだ。

また、わざわざ大川印刷を指名しての仕事の依頼が増えているそう。それは同社がサステナビリティに取り組んでいるからに他ならない。中小企業にとってSDGsを推進することは強力な「武器」になると大川社長は訴えた。

富士通の藤崎氏はまず、同社がなぜSDGsに取り組むかを説明した。端的に言えば、同社の理念である「FUJITSU Way(快適で安心できるネットワーク社会づくりに貢献し、豊かで夢のある未来を世界中の人々に提供する)」を、SDGsという文脈で世界に発信していくためだという。

同社のサステナビリティ戦略の一番の応援者が、昨年6月に就任した時田隆仁社長であるという。時田社長は「IT企業からデジタルトランスフォーメーション(DX)企業への転身」を掲げており、そのためには社会にある悩み、痛みに「共感」を持つことが必要だ。

ただし、現場レベルではなかなか理解が進まないのが悩みのタネだとも明かした。顧客企業の経営者の視点に立って考えれば、自ずと解決すべき課題が見えてくるはずだが、目の前の売上や技術に固執しがちな営業職やSE職にとっては、論理の飛躍がありすぎる。そこで同社がワークショップなどで行っているのが「経営者」と「現場」の双方の視点でアプローチする手法。現場の担当者が課題にたどり着き、それが経営者的な視点と融合した時、具体的な落とし所が見えてくるという寸法だ。

「『プラクティカル・ウィズダム(暗黙知、実践知)」による社内変革』と『世界のサステナビリティに貢献するビジネスの推進』、この両輪を回す『交差点』にこそ、人々に幸せをもたらすものがあるのではないか」と藤崎氏は話す。そして大企業の責任として「社会に大きなインパクトを与え、自社も持続的に成長してくことが必要」であると述べた。

大和ハウス工業は「儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる」という創業者の精神に基づいて「社会の変化をとらえて柔軟に対応し、それを強みとしてきた」と近久氏は説明する。同社ではそれを「統合思考」という言葉に変換してサステナビリティ戦略の精神的支柱に位置づけているという。「社外の課題」と「社内の課題」の統合を図り、それを元にしたビジョンを掲げて、実際の中期経営計画に落とし込む。

そこには当然ながら、ESG(環境・社会・ガバナンス)による経営基盤の強化も含まれるが、特に「人材基盤の強化」は中心的な取り組みだ。近久氏は「実施にあたって最も苦労したのが、縦割りの各部門にいかに『横串』を刺すかということ」だと話す。横串の機能を担うのは、言うまでもなく近久氏が長を努めるサステナビリティ企画部である。

また、同社は8割以上を地域契約で請け負うため、札幌から沖縄まで全国津々浦の事業所のマネジメントも重要だ。現場は通常四半期、長くて1年というスパンで仕事をしていて、サステナビリティやESGという視点を持つことは難しい。そこで仕事の平準化や生産性向上への貢献を数字に置き換え、きちんと業績評価に盛り込んでいくことが肝心だと述べた。つまりは、企業理念から降りてきて、事業の社会価値を示し、それを各部門や事業所において詳細にマネジメントしていくことがSDGsへの貢献につながるとの考えだ。

サステナビリティに先進的な企業は何が違うのか?

セッションの中で見えてきたのは、サステナビリティに先進的な企業の「問題意識」の高さと、推進の意思だ。

例えば、見山氏が「SDGsは目的ではなく、手段ではないか」と確認の意味も込めて問いかけると、大川印刷の大川社長は大きく頷き、昨今のSDGsトレンドにおける「手段の目的化」の危険性に警鐘を鳴らした。

「最近『うちの会社もSDGsをやろう』『SDGsをやらなければ』という発言をよく聞くが、本来はゴールの達成が目的なのだから『SDGsをやる』というのは意味が分からない。手段を議論しているだけではないのか。大事なのは誰のために何をやっているのかということ」(大川社長)

富士通の藤崎氏も、見山氏の「SDGsの変遷をどう見るか?」という問いに対する答えの中で、以下のように述べた。

「ビジネスの社会的必然性が流行り廃りを超えた普遍的潮流になっている今、課題解決のための共通言語としてのSDGsがより重要な存在になっている。(自社のサステナビリティのあり方としても)以前は『社会やステークホルダーとの関係性を改善することで尊敬される企業になり、消費者からも選ばれる』というレベルだったが、今後は『マインドセットとカルチャーを変えるようなビジネスモデルで社会課題を解決し、かつ自社の持続的な成長に結びつける』ような取り組みに、積極的に挑戦していきたい」(藤崎氏)

登壇した4社からは現場での啓発に苦労しつつも、全社一体となって取り組もうという決意と、その姿勢を積極的に内外に示そうという努力がひしひしと伝わってきた。サステナビリティに先進的な企業というのは、問題意識を持つだけでなく、実行への意識も極めて高いのである。

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」「東京もっこり散歩」(いずれも自由国民社)がある。