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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

たばこ事業者は「喫煙と健康」の問題にどう立ち向かうか――フィリップモリスジャパン 井上哲副社長

「いま、たばこを吸っていない方、絶対に吸い始めないでください。いまたばこを吸っている方は、ぜひ禁煙しましょう」――。たばこを事業領域とするフィリップ モリス ジャパンの井上哲副社長は、サステナブル・ブランド国際会議2020横浜の檀上からそう呼びかけ、「サステナビリティの最重要課題は、扱う商品そのもの」と断じた。たばこを販売する会社でありながら「煙のない社会を目指す」という同社は、加熱式たばこという「ベターな選択肢の提供」によってどのように事業の変革を進めているのだろうか。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

ベストな解決方法とベターな解決方法

「いま、世の中からなくしてしまったらいいと思うものを3つ挙げてください。そう聞かれたら、皆さんは何を想像しますか」と井上氏は会場に投げかけ、「恐らくたばこを、そのひとつだと思われた方もいるでしょう」と踏み込んだ。昨今注目が集まる「喫煙と健康」の問題。たばこを事業領域とするフィリップモリス社は「非喫煙者、未成年が喫煙を始めず、喫煙者が禁煙することがベストな解決方法です。われわれにとってのサステナビリティの最重要課題は、扱う商品そのものです」と課題に真正面から向き合う。

世界保健機関(WHO)のレポートによれば世界の喫煙者数は徐々に減少しており、2019年末には統計上で初めて「男性喫煙者」の減少が見られた。それでも同レポートは2025年時点に世界中で10億人以上がたばこを吸い続けていると試算する。誰もが「ベストな解決方法」を選ぶ・選べるわけではない。

「たばこを吸い続ける、あるいは禁煙を試みたけれどうまくいかず今でもたばこを吸っている。こういった方々にとって、ベターな解決方法を提供する。これがフィリップモリスのミッションです」

「紙巻たばこから撤退するなら、明日にでも」その答えは――

「紙巻たばこのような有害な煙を出すことなく、しかしニコチンは含み、満足感を提供できる製品の開発(同社HPより抜粋)」――。「サイエンスとイノベーションから生まれた新しい商品(加熱式たばこ)に切り替えていただくことが、われわれの会社のビジョンです。結果、煙のない社会を目指します」と井上氏は改めて宣言した。

同社は2016年、グローバルのサステナビリティビジョンを策定し、2017年には「将来的に紙巻たばこ事業から撤退する」と表明した。その直後、多くの人が井上氏に「撤退するなら明日にでもすればどうか」と声をかけたという。「もしフィリップモリスが明日、紙巻たばこから撤退すれば、問題は解決するのでしょうか。答えはノーです。ほかのたばこメーカーが紙巻たばこを販売し、喫煙者はこれまでと同じようにたばこを吸い続けるでしょう」と井上氏は説明する。

加熱式たばこという「ベターな選択肢」の提供により、たばこ業界で事業を継続しながらビジネスをトランスフォーメーションし、社会をより良い方向に導くことを目指すというわけだ。

ターゲットは「既存の成人喫煙者のみ」

井上氏は「極めて重要なポイントは、加熱式たばこの販売対象が『今日、既にたばこを吸っている成人』のみだということです」と強調した。未成年者はもちろん、これまでにたばこを吸ったことのない消費者には決して新しい製品を訴求しないという。

その根底にはフィリップモリスのサステナビリティ戦略の4つの柱がある。「事業変革」「公正な事業慣行」「人と地域への貢献」「環境負荷低減の取り組み」だ。このうち「公正な事業慣行」の中に、「責任ある市販化」を掲げる。

「新しい製品がこれまでの製品より環境負荷をかけていれば、サステナビリティを実行しているとは言えません。未成年者やこれまで非喫煙者だった方が、加熱式たばこをきっかけに喫煙を始めてしまえば、サステナビリティを達成することはできません」と井上氏は語る。そのために事業のあらゆる領域でフットプリントを洗い出し、サステナビリティ戦略の優先順位をつける。「責任ある市販化」を重要課題として、市販後調査も行っているという。

フィリップモリス社が紙巻たばこから完全撤退する近い将来、まずは「ベターな選択肢」が十分に市場に選ばれ、いまより人が健康な社会になるのだろう。同社はそれを目指して事業をシフトしている。

ずっと先の未来にいつか、社会にとって「ベターな選択肢」すら必要がなくなる日が来るかもしれない。そのときも、フィリップモリス社はより持続可能な社会を目指して、たばこ産業の延長でイノベーションを駆使し、あるいはまったく違う領域で、ビジネスを変革しながら事業を継続しているのかもしれない。そう聴衆に思わせる、力強い講演だった。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。