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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

EVの新たな価値を探る 日産が取り組む災害支援――大神希保・日産自動車日本事業広報渉外部担当部長

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世界でガソリン車の販売禁止年が決まる中、電気自動車(EV)の需要や期待は年々高まっている。日産はEVを乗り物として利用するだけでなく、それを普及させることで蓄電池という「社会インフラ」として、社会変革や地域課題の解決に活用しようと取り組んでいる。“日本電動化アクション「ブルー・スイッチ」”と名付けられた、EVの新たな存在意義を模索する取り組みについて、サステナブル・ブランド国際会議2020横浜の基調講演に登壇した日産自動車の大神希保日本事業広報渉外部担当部長が語った。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)

日産自動車がEV「リーフ」を発売したのは2010年。今年で誕生から10年目を迎えた。航続可能距離は初代の200kmから3倍に伸びた。また充電器についても、いまではガソリンスタンドの数に匹敵する約3万基数が全国に設置されるまでになった。「一定の充電網があることでセイフティネットが張られています。クルマ選びで電気自動車を選ぶのは当たり前の選択肢になっています」と大神氏は説明した。

リーフの販売台数は累計で13万台。大容量のバッテリーを搭載しており、一般家庭の約4日間分の電力量を補える。13万台という数は約50万世帯分の1日の電力量に相当する。EVが増えれば増えるほど、車としての価値だけでなく社会インフラの一部を担えると日産自動車はEVに新たな可能性を見出している。

同社のビジョンは「人々の生活をより豊かに」だ。そして、それを実現するために「ゼロ・エミッション」 「ゼロ・フェイタリティ」社会を目指している。

「排出ガスゼロの社会を実現するためには、EVという商品を普及するだけでなく『活動』を推進していかなければいけません」

そこで、同社は自治体や企業と連携しながら地域課題の解決に取り組む“日本電動化アクション「ブルー・スイッチ」”という活動に力を入れる。ブルーは日本の美しい、青い空や海を表し、スイッチはガソリン車からEVにスイッチしてもらうという意味が込められているという。

地域課題の解決にEVが果たせる役割はさまざま。一つは、大容量のバッテリーを使ったエネルギー(電力の地産地消)、CO2排出量の削減、エコな観光の促進、そして山間部などのガソリンスタンド減少への対策、そして災害大国日本に不可欠な災害対策だ。

EVを活用した災害支援

災害時、EVは「走る蓄電池」として活用できる。蓄電池として、一般家庭の4日分の電力を補え、スマホ6000台を一気に充電することが可能だ。電力の使い方にもよるが、避難所では1台のEVで3日間分の必要な電力を補えるという。

日産自動車が「ブルー・スイッチ」の活動の一環として、初めて災害支援を行ったのが昨年9月。台風15号により長期停電など大きな被害を受けた千葉県での支援活動だった。大神氏は時系列でその日のことを振り返った。

台風が上陸した翌日9月10日、大神氏らはEVを使った災害支援を行う検討を始めたという。しかし甚大な被害により、首都圏内の交通網も麻痺しており、その日の出動は見送った。ニュースでは、スマホを充電するために長蛇の列ができ、電気が足りない様子が伝えられていた。

台風上陸から2日後の11日午前、停電対策として支援を行う決定をし、EV、給電器の収集充電コード50本、14人のドライバーを確保。千葉県内の10以上の自治体に、支援する旨を連絡した。同県自治体とこうした連携が過去になく、自治体の代表番号に問い合わせるという手探りでの支援活動が始まった。

社内の見事なチームワークによって、同日正午にはドライバーが千葉県木更津市の海ほたるPAに集結。そこからドライバーに行き先を指示し、午後1-2時には避難所、老人ホームで電力供給を始めることができたという。最終的には、50台以上のEVを出動させ、各地で非常用電源として活用された。

初めての災害支援で学んだことがある。災害弱者の存在だ。避難場所での支援活動を想定していたが、実際に要請が多かったのは災害弱者となる老人ホームや保育所などだった。流動食をつくるための電化製品や、9月はまだ暑さが残っており、保育所では昼寝ができるよう扇風機を回すために電力が求められた。またA地点からB地点、B地点からC地点へと柔軟に移動できる蓄電池は重宝された。

一方、世の中のEVへの理解がまだ進んでいないと感じる場面もあった。避難所からEVが電力を取り出していると誤解されることもあった。大神氏は、EVが非常電源として活用できることを伝えていく必要があると話した。

日産自動車は現在、この経験を生かし、よりスムーズに緊急時に支援ができるよう災害連携協定の締結を進めている。2020年度までに100件を目指す方針だ。大神氏は最後にこう締めくくった。

「サステナビリティとは、今できることは何かを考え、それに継続的に取り組むことです。小さなことでもいいので、その積み重ねがサステナビリティになります。サステナブルであるには、学んで次につなげていくというアクションが必要だと思います。日産自動車はEVの普及を通じて、社会の課題解決に取り組み、サステナブルな社会づくりに貢献していきたいと思います」

小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。