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サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ブランドと消費者が連携して「持続可能な暮らし」を実現するには サントリー、イオン、アスクルの役員が語る

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ブランドにはいま、商品やサービスを通して持続可能な社会を構築しながら、消費者の望む暮らしを実現する手助けをすることが求められている。しかし社会が抱える課題は広範囲にわたり、ブランドだけ、消費者だけといった単体では持続可能な暮らしは実現できない。消費者の理解を得て、ブランドが消費者と連携してそれを実現していくには何をすべきか。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜の基調講演では、サントリーホールディングスとイオン、アスクルの3社が、メーカー、小売り、Eコマースという立場から各社の取り組み、直面する課題、今後について語った。

ファシリテーター:
足立 直樹 (サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー)
パネリスト:
福本ともみ (サントリーホールディングス執行役員 コーポレートサステナビリティ推進本部長)
三宅香 (イオン執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当)
木村美代子 (アスクル取締役 BtoCカンパニーCOO兼CMO)

「グッド・ライフ」を実現する持続可能な取り組みをしても消費者の理解を得られないという企業の声は多い。消費者を巻き込んでグッド・ライフを実現するために、3社はどのように取り組んでいるかのだろうか。

コミュニケーションを通して、消費者と連携する

サントリーホールディングスの福本ともみ執行役員は、「サントリーでは水やプラスチック、プラスチックによる海洋汚染などが重要課題です。しかし、もはや1社だけで課題解決や循環型社会の構築はできません」と切り出した。

そこで同社は、コミュニケーションを通して、目指す姿や正しい情報を共有することによって消費者の共感を得て、共に解決していくための前提づくりに取り組んでいる。今回は、同社にとって最も重要な経営資源の「水」をテーマに、「サントリー天然水」ブランドを例に取り上げ、取り組みについて説明した。

南アルプス、阿蘇、奥大山などの「サントリー天然水」が選ばれる理由を調査すると、美味しいや安心・安全のほかに、「自然全体を自分の中に取り込みたい」という理由で購入されていることが分かった。自然から離れて暮らすことが当たり前になりつつある現代で、天然水ブランドを通して「人間性の回復」を実現したいという消費者がいると分析する。

「水と、水と共にある自然が将来にわたってサステナブルであることが非常に大切です。そのための活動をしっかりとやることが消費者や社会に対するブランドの約束です」

そう福本執行役員は語り、その約束を果たす意思をどのように消費者に対し伝えているか説明した。

まず、「サントリー天然水」のブランドコミュニケーションでは、CMに実力派歌手の宇多田ヒカルさんを起用することで、美味しさではなく「信じられる水の山」からとれる天然水ということを伝えている。一方、企業として長年取り組む森林整備活動など「水と生きる」というサントリーグループの約束は、未来からきたドラえもんを起用するCMで、将来を見据えて水の持続可能性に取り組んでいくというメッセージを伝える。

「『サントリー天然水』ブランドとコーポレートのコミュニケーション、その両方がリンクして初めて、私たちの思い、製品の価値が伝わると思っています。そういう意味では環境やサステナビリティというのは製品の属性の一つになってきていると思います」

消費者が参加できるプラットフォームを提供する

イオンの三宅香執行役は、消費者と連携して進めてきた取り組みとして、植樹活動、レジ袋削減のためのマイバック持参活動、寄付付きのWAONについて紹介した。

同社では1991年から、店をオープンするたびに近隣に住む人たちを招待し、一緒に木を植え、成長を見守る活動「イオンふるさとの森づくり」を国内外で行ってきた。2019年2月時点で、約1200万本を植樹した。三宅執行役は「気候変動への取り組みが喫緊の課題となる中、植樹の重要性が見直されている。今後も地道に継続する」と力を込めた。

レジ袋の有料化については「悲願の有料化」と語り、日本は欧米諸国だけでなくアジア諸国と比べても取り組みが遅いと指摘した。イオンでは1991年から、マイバック持参運動を始め、2007年からレジ袋の無料配布を段階的に中止してきた。2013年にはバイオマス配合プラスチックの「マイ・バスケット(買い物かご)」を導入するなどし、現在、レジ袋の無料配布を行っていない店舗は2088店舗に上る。

しかしプラスチック問題について世論がついてくるまでの道のりは長かった。「長い時間をかけて、お客様とコミュニケーションをして、理解していただき、共感していただくことで、お客様も参加してくださる。そういった土台をつくる、環境を整える、不便のないように色々な取り組みをするというのが企業の役割」と語った。

またイオンの電子マネー「WAON」には、全国の自治体や自然保護活動を行うNPO/NGO、文化遺産の維持のために寄付を行える「ご当地WAON」がある。売上金の0.1%がそれぞれの取り組みの寄付にまわされる仕組みだ。例えば、首里城のWAONを使って買い物をすれば、首里城再建のためにイオンが売上金から0.1%を寄付する。約150種類のご当地WAONがあり、2009年から2019年までに寄付額は15億2837万円に達する。

「企業の役割は、日々の生活の中でほんの少しだけ、消費者のみなさんも参加することができるプラットフォームを提供することではないでしょうか。そうすることで、一緒に色々な活動を応援することができ、そういう社会をつくることができると思います」

パートナー企業と連携して「デザイン×サステナビリティ」を実現

アスクルの木村美代子取締役は、LOHACOブランドの責任者を務める。LOHACOは、オフィス用品ではなく、働く女性の毎日を応援し、時間のない中でも丁寧な暮らしを可能にする商品やサービスを提供する個人向けEコマースだ。力を入れるのは「デザイン」。Eコマースだからこそ、店頭では必要な目立つ宣伝文句や文字情報を記載しないデザインが可能となる。これらは、各メーカーの理解と連携があってこそ成り立つものだ。

しかし、単にデザインが良ければ選ばれる時代ではなくなった。LOHACOを立ち上げて5年が経つ頃、消費者から「デザインが良いだけでは物足りない」という声が届いた。木村取締役は「その言葉がすごく引っかかった」と話し、若手の女性社員を集め、今後について話し合ったという。そこで若手社員から出てきたのが「サステナビリティ」という言葉だった。

デザインの良さだけでなく、サステナブルだからLOHACOを選んでもらえるようにする――。「プラスチックを減らす工夫」「ごみを減らそう」「商品の原料を見直そう」「CO2の排出を減らそう」など7つの方針をたて、45社のメーカーと連携して、サステナブルなパッケージデザインや商品ラインナップを実現した。毎年行う展示会「ロハコ展」も、2019年度は「暮らしになじむ×サステナブル」をテーマに開催した。「お客さまからも好評をいただき、良いレビューや売上高も上がった。可能性を感じている」と木村取締役は言う。

課題をどう克服するか

では各社は、消費者を巻き込む上でどんな課題に直面しているかのだろうか。

木村取締役は、「デザインが良く、サステナブルなものをつくる」ために3つの「諦めない」
決まりをつくったという。「サステナブルであること」「価格が高くなりすぎないこと」「機能が下がったり、美味しさを損なわないこと」。この3つのハードルを乗り越えて、消費者に支持されるものを商品化することに取り組んでいるという。サステナブルだからと言って「高くなりすぎると販売が難しいが、少し高くなるのは大丈夫」と話した。

サントリーの福本執行役員も「調査を行うと、『環境にいいものを購入したい』とおっしゃるお客さまは多い。しかし、単に環境にいい、サステナブルと謳う商品を出しても売れるわけではありません。ブランドや製品づくりに一貫性がないといけない」と、LOHACOの方針にうなずいた。

そして、世界的に注目を集めるプラスチック問題について、福本執行役員は「飲料業界は90年代から、リサイクルや分別を呼びかけるマークを商品に付けてきました。ご家庭では分類していただけますが、自販機やイベント会場などではなかなか行動に繋げていただけないという課題があります。お客さまに共感していだき、一緒に循環型社会をつくっていくにはどうすればいいか――。一緒に参加したくなるような楽しく、かっこいい仕掛けづくりにいままさに取り組んでいます」と語った。

「お客様に共感いただくというのはすごく難しいことです」とイオンの三宅執行役も言葉を揃えた。マイバック持参運動を始めた頃、顧客だけでなく従業員からもなかなか理解を得られなかったと振り返った。「共感を得るには根気強さが必要です。取り組みがなぜ必要なのか、従業員もきちんと説明できないといけません。従業員、顧客、自治体と一緒に考えていく場をつくることがすごく大切になる」と話した。

パートナーシップがますます大切になる

異なる業種の3社が共通して重要だと話したのが、ステークホルダーとの連携・協創だ。ファシリテーターの足立氏は「グッド・ライフの実現」というのは「ブランドが単体で実現するのではなく、一緒につくっていくという意味があると3社の話を聞いて思います」と総括した。

アスクルの木村取締役は、「サントリーの福本さんがおっしゃるように、これからはパートナーシップを組んでやっていくことが重要です。LOHACOでは、42社のメーカーに『暮らしになじむ×サステナブル』というテーマに共感していただき、お客様に価値を創造しようと一緒の方向を向いて取り組んでいます。そうすると成功事例、失敗事例も共有でき、次の年には成功事例を超える良いものをつくろうという流れが生まれます」と語った。

パートナーシップの中で、これから大事になるのが「将来世代」だ。木村取締役、サントリー福本執行役員は揃って「若い人の力」「将来世代との連携」が大事と話した。

「若い方たちの話を聞いていると、社会のためになることをしたいという方が多いです。私たち企業にそういう仕組みやプラットフォームをつくって欲しいという声をいただきます。そういう声はすごく嬉しいものです。私たちだけが前に進むのではなくて、小さなことからでいいので一緒に取り組みを進めていきたいです。大きく社会が変わるには、小さなことの積み重ねが必要だと思います。その中から次の成果が生まれると思っています」(福本執行役員)

イオンの三宅執行役は、SNSの台頭によって、消費者と企業のコミュニケーションのあり方が変わっていると指摘し、それを生かして「持続可能な社会づくり」の機運を醸成する方法があるのではないかと締めくくった。

「いまは個人の方も十分に発信する力を持ち、それが可能となるプラットフォームもあります。昨今の新型コロナウイルスに関する情報発信もそうです。もちろんフェイクニュースなどの問題もあります。しかし、さまざまな立場の人たちが議論し合う場があるというのは、社会全体としては良い傾向だと思っています。

環境問題や社会的課題の解決に関しても、個人の方が自分の意見を持ち、それを発信し、『どうあるべきか』を企業も一緒に考えていけたら、より良い社会になるのではないかと思います。

レジ袋をなくすというのは、1枚2-3円のことで小さな話かもしれません。でもそういったことでも、社会に良いことをしたと感じてそれを発信することで、みんなで持続可能な社会をつくるための雰囲気をつくっていくことが大事ではないかと思っています」

小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。