地域の開発に必要なのは会社のKPIより「住民目線」
SB2019Tokyo
セッション「森づくりから地域づくりへ(日本+タイ)」。左からファシリテーターの森摂、more treesの水谷伸吉氏、SBバンコク・カントリーディレクターのシリクン・ヌイ・ローカイクン氏、里山デザインの中山慶氏。
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サステナブル・ブランド国際会議2019東京では、昼食を取りながらセッションを聴講できる「ランチセッション」が設けられた。2日目の「森づくりから地域づくりへ(日本+タイ)」では、more trees(モア・トゥリーズ)の水谷伸吉事務局長、里山デザイン共同創業者の中山慶氏、SBバンコク・カントリーディレクターのシリクン・ヌイ・ローカイクン氏が登壇。SB東京総合プロデューサーの森摂がファシリテーターを務め、日本とタイからの視点で持続可能な開発のあり方を探った。(オルタナ編集部=吉田広子)
タイ・バンコク南側からチャオプラヤ川を挟んで3分、自然保護区バーンカチャオがある。ブランドコンサルタントのヌイ氏はバーンカチャオを「最良の都市のオアシス」と呼び、SB2018バンコクの舞台に選んだ。
バーンカチャオはマングローブが繁茂する緑あふれる地域で、住民のほとんどは伝統的なココナッツ農家だという。サイクリングロードやホテルを設置し、観光客を呼び込む一方で、伝統文化を維持するための持続可能な発展を模索している。
ヌイ氏は「持続可能なコミュニティーの発展には、コラボレーション(協働)、コミュニティー中心の考え方、コレクティブ(集合的)インパクトが必要である」と強調する。
本セッションは、バーンカチャオの開発について日本の地域づくりの経験を踏まえながら議論を展開していった。
「関係人口」を拡大し、地域とつながる
モア・トゥリーズは「都市と森をつなぐ」をミッションに掲げ、国内外で森づくり、地域づくりを行ってきた。水谷事務局長は「森林と都会の生活があまりにも分断されすぎている。生物多様性といった観点をいかに産業やライフスタイルに取り込んでいくかがますます重要になっている」と話す。
水谷事務局長は「都市と森をつなぐ」キーワードとして「関係人口」を挙げる。関係人口は、定住人口でもなく、短期的に訪れる「交流人口」でもない新しい人口の考え方だ。「定住未満、観光以上」とも呼ばれる。特産品の購入やふるさと納税から、デュアルライフ(2拠点生活)の実践まで範囲は広い。
水谷事務局長は「都市部には生まれ育った場所に地縁を感じない『ふるさと難民』が多い。そうした人たちの『地域とかかわりたい』というニーズは高まっている。より多くの人が森や地域とつながる機会を提供していきたい」と力を込める。バーンカチャオについても「ココナッツ製品を買ったり、実際に足を運んだり、いろいろな方法があるはず」と提案した。
2050年の地域の未来を描く
ファシリテーターの森が「バーンカチャオは2050年にどういうエリアになっているか」と投げかけると、ヌイ氏は「住んでいる人が決めること。外部が指導する形で開発するのは良くない」と問題提起した。「外部の人はバーンカチャオを『森』と呼び、地元の人は『庭』だと言う。同じものを見ても観点が違う」と続ける。
これを受け、京都市京北地域に移住した中山氏は「里山デザインでは、地元の人と同じ体験をすることを大事にしている」と話す。中山氏は、クリエーティブの力で京北地域を盛り上げようと、里山デザインを設立した。中山氏が移住した当時、京北地区の人口は5300人。年間100人が減少していた。
企画する里山ツアーには、欧州、米国、豪州からの参加者が多く、英語を勉強しながら里山を学ぶ教育プログラムも人気だ。
中山氏によると、「日本にこんなに自然や伝統が残っているのかと驚く外国人観光客が多い」という。里山での暮らしを見て、「こんなふうに働いてみたい」という声も寄せられる。「移住して地域、自然、伝統の価値を改めて認識している。伝統のなかでも経済がつくれるということを示していきたい」(中山氏)。
水谷事務局長も「主役はその地域に定住している人。地元の人の幸福度を高めることが第一優先」と話す。
ヌイ氏は「大企業が途上国でCSRを実践するとき、会社のKPIを追求し、コミュニティーに住んでいる人を忘れがちだ。まずは住んでいる人にとってのゴールを考え、コミュニティー中心で動くべき」と訴えた。